この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層

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218「にんにく料理」「大食い」「店主」
 打って変わった静寂、それでも怪音波の第二波を怖れてか、店内の
客の大半は耳を塞いだままでいた。私をはじめ客達は厨房の方へこわ
ごわと視線を移す。ガタリ、ガタリと、ひきずるような物音。情けないこと
だがそんな些細な音に、ビクリと身がすくんだ。店の事情を知るだけに、
何が起こったのか想像するだにおっかない。店員用の通用口から、青い
顔をした店主が這い出してきた。事情を知らぬ一見の客は何事かと気色ばむ。
「申し訳ありません、お代は結構ですので、どうかお引取り下さい・・・」
 言うが早いか、店主は床に顔を突っ伏した。
 面倒ごとは御免だと、これ幸いに、客達は店を後にする。顔なじみの客でさえ
猛獣の巣穴を横切るように、厨坊を遠回りして出入り口に去って行く。私も、
そんな情けのない人間の一人であった。痴情の縺れに自ら入り込もうなんて
気骨は持ち合わせていないのだ。
 後日、店主への同情もあって、件のにんにく料理屋に立ち寄った。レジでは
いつもの女の子が、ニコニコしながらいらっしゃいませと言った。接客はバイト
まかせで、ほとんど厨房から出てこない店主がその日はお冷を伴って注文を
取りにきた。私を認めると、照れ臭そうに苦笑する。
「いや、この前は情けないところを・・・」
「大体察しはつくけど、ご愁傷さん」
「ハァ、まあ身から出た錆ですが・・・」
「それで、あのすごい声の女の子は・・・、辞めちゃったのかい?」
「んん、レジに立ってるあの子ですわ・・・」