この三語で書け! 即興文ものスレ 第十層

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209うり
「竜の髭」「穂」「一」
「真由美、ごめんね」無意識の底にある罪悪感がそうさせるのか、アタシは真由美の顔からどうしても目を逸らす事が出来なかった。身体はぴくりとも動かなかった。
今日のハイキングは先月からの約束だった。真由美は風邪を理由に直前で行くのを止めると言い出した。
でも、アタシは無理を言って真由美を引っ張り出した。
他の中学の男子から何度も告られた事がある可愛い真由美の顔は今では見る影も無かった。
頭の大きさが三分の二位しか無かった。眉から上が無かった。ぐしゃぐしゃになった肉の塊の様なものが周囲に飛び散っていた。
艶々とした軽やかなセミロングの髪はべったりと血で覆われ、外れかかったカツラの様に顔の右半分に貼りついていた。
竜の髭の実に似た青紫の髪留めが鮮やかだった。形の良さと高さが自慢の鼻はぐしゃぐしゃに潰れ、骨が露出していた。
正確には潰れた鼻なのか、肉が削れて露出した頬の骨なのか分からなかった。顎が外れているのか笑っている様な口許だった。
急にガスが出てアタシ達は道に迷い崖から落ちた。不幸中の幸いかアタシは助かった。何が生死を分けたのか分からない。
真由美は生き残ったアタシを恨めしそうに左目だけでじっと見ていた。かろうじて筋でぶら下がっている右目が風にそよぐ稲の穂の様に揺れていた。その時、突風が吹いた。
「ひいいっ」大きな岩の上に乗っていた真由美がごろんと一回転してアタシの上に落ちて来た。落ちる時の衝撃で右目が無くなっていた。
真由美はアタシの顔の真上で歪な笑いを浮かべていた。
アタシはつられて笑い出した。どんどん笑い声は大きくなった。笑っている内に頭の中が真っ白になって行くのが自分でも分かった。

お題は208さんの継続で。