上沼湖畔の一帯を見張らせる台地からは、午後の黄色い太陽のもと、
一帯の水田がきらめく様子が見張らせた。水田には一人の老婆が腰を折る格好で
稲いじりをしている。
米嶋一は台地の上から、老婆の様子を見守っていた。
老婆は稲の一つを刈り取ると、こちらを振り返って歩いてくる。
「婆ちゃん、農作業から手を引いて長いのに無理すんなよ」
米嶋は台地を駆け下りると祖母から一本の稲を受けとった。
「なあに、可愛い孫さ婿入りするっちゅうときになーんもせんと寝て居られねえさ」
祖母は頭巾を取るとそれで顔を拭った。「天気も悪うないし、今日はほんまにええ日和じゃ」
祖母は皺くちゃな顔をまるめて空を仰ぎ見た。その様子をみて、米嶋は申し訳ない気持ちになった。
「婆ちゃん、こんな俺のためにすまねえ。曾孫つれてくる日まで元気でいてな」
「・・・おお、幸せに暮らすがええ」
俺は、幸子と二人で山の上の寺への石段をあがった。
そこには親戚一同が拍手をしながら待っていた。住職は俺から一本の稲を受け取るとそれを
寺の奥にささげ、お経を読み始めた。祝杯を上げる席で、俺は親戚一同に挨拶した。
これからは僕は相模家の一員になる。
幸子が神社の境内で一輪の竜の鬚を摘んできた。
「綺麗でしょう?」花嫁衣裳の幸子が言った。
「ああ、とても綺麗さ」俺は幸子の目を見つめた。幸子は顔をかしげて微笑んだ。
「脱ぎすてる」「はちきれそうな」「社会の窓」