「わかりあえる」「胸が痛い」「泪」
「ねぇ、これからドライブに行かない?」
空は、もうすっかり無造作に筆で引いたような薄墨色に染まっていた。
あまり気が進まなかったが、柔和な笑顔の瑞樹には逆らえない。
俺は、泪よりも笑顔のほうが女の最大の武器だと思う。
「今から、俺、車を出してくるから、マンションの前で待ってて」
マンションの前までの道のり、瑞樹のことを考えると、俺は胸が痛かった。
いや、むしろ気が重かっただけなのかもしれない。
「実は他に付き合ってる女がいるんだ」
こういったら瑞樹は何と言うんだろうか。
優しい瑞樹が、怒って俺をひっぱたくということはまずあるまい。
多分、何も言わずにさめざめと泪を流すだけだろう。
その方がひっぱたかれるよりも数千倍も辛い。
マンションの前まで行くと、瑞樹は新しい雪のように白いセーターに着替え直していた。
「よく似合うね」と声をかけると瑞樹はうれしそうに、「よかったわ」と微笑んだ。
俺たちは本当にドライブを楽しんだ。
ドライブからの帰り道、丁度、国道171号線の交差点に差し掛かったときだった。
突然、俺は今まで楽しそうだった瑞樹の表情が妖しく翳っているのに気がついた。
「今まで、あなたとはわかりあえると信じてたのに、私の儚い夢だったのね」
瑞樹が無理矢理、俺から車のハンドルを奪う。
「もう、私の人生は終わったの……。私が頼れるのはあなただけだったんだから……」
大型トラックが俺たちの目の前に現れた。
最期の瞬間、俺が目にしたのは、白いセーターの上に零れ落ちる瑞樹の……優しかった瑞樹の泪だった。
☆やっと復活しました、PCが。
べたべたなもの書いてしまいました……。
次は「南天」「将校」「兆稿」でお願いします。