186 :
名無し物書き@推敲中?:
「ねっとり」「ここにいるぜぃ」「内臓」
納豆に大根おろしを混ぜろと命じたのに聞き入れられなかった。擦り下ろされた山薯が盛大に納豆と掻き混ぜられ、姫様の病にはこれが効きますと勧められる。
江戸が終わって暫く。姫も零落れたものである。細い躯を垢じみた蒲団から起こし、諦めて薯納豆をかっこむ。
からりと襖が開いて、白衣の木村直円がすかさず聴診器と虫眼鏡をもって登場する。この医者崩れの科学者もどきを信用したのが間違いだった。
御免、と木村は全く御免とは感じていないような顔で、喜々として姫の胸をはだける。
ぷるんと揺れ落ちる乳房。しかしそれよりも恥ずかしいのは……
胴の肌に変るのは透明な硝子である。硝子の向こう側に、咽から降りてきた薯納豆がねっとりとへばりつき、ここにいるぜぃと主張する。硝子を通して桃色の内臓が、ぐっちょんぐっぎょんとあからさまに蠕動し、粘った白いものを包み離す。
ねばねばを硝子を通してつぶさに観察し、よし姫様の胃は今日も元気に動いています、と木村はにこやかに断言してくれる。他に痛むところはないですか? どこでも改造してあげますよ。
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