171 :
「朝焼け」「二日酔い」「指輪」:
わたしは激しい頭痛によって叩き起こされた。整理かな?――と思った
けれど、耳うるさい潮騒が聞こえて、
「そっか……」
と一人、つぶやいてしまった。
ここは砂浜。国道を挟んで、実家のすぐ目の前にある砂浜だ。
戻るつもりなんてなかった。故郷なんて言葉、TVでしか聞かないような
毎日を過ごしていた。でも、わたしは戻ってきた。ううん、逃げてきたのだ。
頭がいたい。体を起こすと、空っぽの缶ビールに手があたった。
飲み過ぎたようだ。考えてみれば、二日酔いも久しぶりかもしれない。
わたしは膝を抱え、海を眺めてみた。
見慣れた海だ。これが映画なら、指輪のひとつでも海に投げ込むところ
だけど――別に婚約したわけじゃないし、プレゼントらしいプレゼントも貰っ
たことが無い。それに、今のわたしは二日酔いだ。二日酔いのヒロインな
んて、どんな映画にも出てこない。
「かっこわるぅ」
わたしはクスクスと笑い出した。
次第に海の上が赤紫色に染まり出す。次第に海も赤みを帯び始めた。
朝日は見えない。でも、大きな入道雲まで染め上げる美しい朝焼けが、
わたしの目の前に姿を現しだした。
「……よしっ」
泣けるだけ泣いた。逃げるだけ逃げた。あとは、立ち上がるだけだ。
(そういえば……明日、残業になるとか言ってたっけ……)
わたしは仕事のことを思い出しながら、家へと戻った。
朝焼けの空に、朝日が昇るより、先に。
次は「リンゴ」「ゴリラ」「ライオン」で。