小説の出だしのみのスレ

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421直くん
タイトル未定 1/2

「三丁目の神社、覚えてるかなあ、昔よく一緒に遊んだあそこ」
和樹が話しかけてくるのを、目も合わせずに聞いていた。覚え立ての煙草の煙を、
口をすぼめて、ことさら勢い良く吐き出す。お前の話、退屈だよと伝えてるつもりなのだが、当然、耳障りな声は止まない。
「俺、あそこに美紀連れてったんだよ。祐也がガレージの鍵持ったまま出ちゃうからさあ」
「今度女連れ込んだら殺すって言っただろ」
煙草を消して睨みつけたときは、すでに下を向いてしょげていた。何というか、脅して素直にたじろいでくれると、こちらも気分は悪くない。
けどなあ、以前お前にガレージ貸したときの汚し様を思い出すと、この程度は言っても良いと思うんだ。
第一今は、中古とはいえ大事な愛車をしまってあるんだ。ベッド代わりにビニールシートを広げるスペースは無いんだよ。
「で、結局神社でしたのかい」
いささか気の毒になって、話を振ってやった。即、顔を上げて、本当に嬉しそうな眼差しを向けてくる。
「そしたら美紀の奴生理だって言い出してさあ、こっちはやる気満々なのに、ほんと萎えちゃう、やんなるよお」
さあ今度は俺が目をそむける番だ。最後の一本を消してしまったことが悔やまれる。と言って学ランのまま買いに行くのもなあ。
机に置いてあったクレ5-56に目を向ける。凝視する。どっかの何かから勝手にしゃべる許可をもらった和樹よりはよっぽどましだ。
錆び落としのスプレー缶を眺めて、自然にガレージのCB750を連想する。早く磨いてやりたいな。錆だらけだから。ボロボロだから。俺の手で綺麗にしないと。
宮地先輩、よくもああまで手入れせずに乗ってたもんだ。タダでくれたんだから無論恩人だが、俺としては断然、CBの復讐に手を貸してやりたい。
見違えるほどにピカピカになって、古い部品もとっかえて、捨てた男の前に姿を見せる。やっぱり返せとほざく先輩にナナハンの煙を叩きつける。
422直くん:2006/03/05(日) 05:24:25
タイトル未定 2/2

「祐也、聞いてるか?」
驚いて身体を起こした。和樹が睨んできてる。無視してたことなんか全然反省しないが、空想に耽る自分を見られた恥ずかしさで少し動揺した。
「ん、何だっけ」
照れ笑いでごまかすつもりだったが、それも癇にさわったらしい。さらにでかい声で畳み掛けてきた。
「智美を見たんだよ、覚えてるだろ、智美と書いて、さとみ」
不意を突かれた。脳を切り替えるのに時間がかかった。ボロバイクを一旦頭から追い出して、あの長い髪を思い出した。
「帰って来るらしいよ、こっちで就職だって」
俺は、そう、とだけ言ってもう一度寝転んだ。俺にどうしろって言うんだよ。向こうが覚えてなかったらどうするんだよ。
神社で告白したことも、そのくせに周りに冷やかされて結局邪険に扱って、結局泣かせてしまった事も。
二人だけの、あの秘密も。
和樹がこっちを覗き込んできてる。本当に無神経な奴だ。
「ちょっと煙草買って来いよ」
「やだよ、学ランで捕まったらどうすんだよ」
「いいんだよ、お前無神経なんだから」
「なんだよ、それえ」
無理やり五百円玉を掴ませる。尻を蹴飛ばしで放り出してやった。
帰ってきたら、座らせずに追い返してやる。ひそかに誓って、目を閉じて、愛しのCBを思い出しなおす。