511 :
名無し物書き@推敲中?:
黄色い羽根が、ぽとりと止まり木から落ちた。死んでいた。
必然。そう感じた。確信があった。
男はインコのピィの亡骸を鳥篭から出すと、ちいさな箱に入れて部屋を出た。車に
乗り、秋奈山を目指す。
夜の2時。外は暴風雨。台風は3時頃上陸するらしい。荒れ狂う風が、屋根を叩く
雨音が、今の私たちを慰めるように叫ぶ。
秋奈山には一時間ほどで着いた。有料道路を少しはずれ、細い県道に入る。
しばらく走り、直線の途中で車を端に寄せて止める。ここなら墜落現場が一目で
見渡せた。
ピィの入った箱を膝の上に乗せ、曇るウインドウから外を見る。機体の残骸がまだ
山の中腹に白い腹を晒していた。
家族の遺体は一週間経っても発見されなかった。父も、母も、妻も、子供達も、
あそこで眠ることを選んだ。そう感じた。私を置いて。
確かに不仲だった。夫婦仲も親子関係も上手くいってなかった。息子がお膳立て
してくれた、父の還暦祝いの旅行にも、仕事を優先して行かなかった。
私は、置いて行かれることを選んだのだ。自分で。
ハンドルに突っ伏し、右足に力を込めた。路面の水を掻き上げながら車が急発進する。
強烈な加速感を感じながら、少しだけ顔を上げた。ヘッドライトの光の中にガードレール
が浮かんでいた。
思わず、ブレーキを床まで踏んだ。車は濡れた路面をスキール音を響かせながら滑り、
ガードレールにぶつかって横向きになって止まった。
男は泣いた。咽ぶように泣いた。
泣き疲れて眠りそうになったとき、箱の中から「ピィ」と声がした。
驚いて顔を上げると、道路が崩れた。
箱からピィが飛び出し、羽根を開いたように見えた。
このまま化石になれればいいな、と思った。
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●次の御題は、「タッパー」「瓦」「時刻表」ということで。