この三語で書け! 即興文ものスレ 第八層

このエントリーをはてなブックマークに追加
35963
「帰り道」「虹」「公園」
---
 歓楽街のビルの谷間の狭い路地を延々と進んでゆくとビルに回りを囲まれた30坪ほどの公園があり、
ひしゃげたジャングルジムとペンキの剥げたベンチが水をやり忘れて枯れた鉢植のように転がっていた。
 そこには一人の薄汚れた老人が大きな鞄を持ってその公園のベンチに腰を掛けている。
 いつものことだった。ほっておけば彼は死ぬまでその日課を繰り返すのだろう。
 私は憂鬱な気分でその公園に向かった。老人に会いたい訳ではない。むしろ会わずに済ませたかった。だか、そういうわけにもいかなかった。
「じいさん、睡眠薬を飲まされたガイ者は、あそこから」私はマンションの4階を指した。
「落ちてきたんだ。そんでこれに」ジャングルジムに、「当たった。時間は14時30分。あんたはここに居た。そうだろ?」
 返事はない。老人は猫のように虚空を凝視めていた。
「虹を見てたんだよ。ほら……」老人は向かいの12階建の雑居ビルを指した。「あそこに。それを見てた」
 私は老人と別れた。署への帰り道、私は一つの結論に達した。
「虹、か」
 報告を終えたとき、熊崎警部はぽつりと言った。
「ええ。12階建てですよ? 確かにあのとき虹は出てましたが、あのじいさん、どうやって虹を見たんですかね?
確かにあのじいさんの目撃証言はありますよ。14時30分。
音に不審に思った5階の主婦がガイ者の側にいる老人を見ています。落ちて直のときだ。
少なくとも、あのじいさんの格好したやつが居たことは確かでしょう。
あとあのジャングルジムのひしゃげ方。打ちどころが悪いと言えるかもしれませんがね、
たかだか4階から落ちてジャングルジムがひしゃげますかね?これは推測ですが、何か重りを抱かされて、落とされた。
その重りは後で回収する。ガイ者の側のじいさんは、そういうことじゃないんですかね」
 熊崎警部は唸った。
「共犯か?……鞄が、くさいな。石を抱かせたとしたら、粉でも残っているかもしれん」
 それは私と同意見だった。
---
チャンドラーっぽいミステリーに挑戦してみました。
次は「お別れ」「スープ」「髪の毛」