この三語で書け! 即興文ものスレ 第八層

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 意識がさめた時、俺は見なれた部屋の中にいた。四畳半の俺の城、
築三十年のボロアパートの一室に。
 立ち上がると少し頭がふらつく。二日酔いだ。下に住むホステスと
昨夜飲みに行き、三軒目から後の記憶がない。
 窓からはもう西日がさしこんでいる。
 出ようと思って扉に手をかけた。鍵がかかっている。体をまさ
ぐったが鍵が出てこない。酔ってどこかに落としたのか。ここの管理
人は戸締まりにうるさく、勝手に部屋の鍵を夜中にしめてまわる。
隣の男が鍵を無くして一つしかないようになったとは言え、やりすぎだ。
俺は思わず悪態をついた。
 誰か来れば外の鉢植えに隠した鍵を使って開けてもらえるのだが。
例のホステスはすでに出勤している。もう一人の住人であるヤクザは
なぜかやって来なかった。この間などちょっと物音を立てたくらいで
下のホステスをぼろぼろになるまで殴り飛ばしたくらいなのに。ねじ
回しでもあれば扉を外せるのだが、むろんそんな物はない。こうなれば
毎晩来る管理人の婆さんに期待するしかなかった。
 俺はその場に座り込み、する事もなく部屋を見わたす。
 床には赤茶けた畳が敷いてある。壁も人面が浮き出たような染みが
いたるところにあり、柱はささくれていた。西の窓とその反対にある
扉、天井にホコリをかぶった電燈。部屋の中には机だけ。電話すらない。
 ふっと思い出して机の引き出しを開けるとアパート契約時の封筒が
見つかった。逆さにすると忘れていた三枚目の鍵が落ちてきた。
 喜びいさんでそれを扉の鍵穴に差し込む。鍵は開かなかった。
 呆然として動けずにいる間、奇妙な想像がわいてきた。
 隣のヤクザはなぜ来ない。ホステスは酒を飲むだけにしても、なぜ
俺なんかと。そしてなぜ俺は長い間意識不明だった。
 ホステスはヤクザを殺したいほど嫌っていた。彼女は殺そうとした。
 そのため俺を酔い潰した。薬を使ったのかもしれない。俺の鍵も
盗んでおく。そして彼女は昼間にヤクザを殺す。さらに俺とヤクザの
部屋の扉を取り替る。そしてヤクザの部屋に俺の鍵を置き、もう一つの
鍵で扉を閉める。ヤクザは鍵を一個しか持っていない。密室の出来上
がりだ。そして俺の方も騒がれないように外から鍵を閉める。外の
鉢植えに鍵を置き、俺が思ったように鍵は飲んで落とした事にする。
管理人はマスターキーを使っているから異常には気づかない。
 彼女の誤算は俺が鍵をこっそり複製し、三枚持っていた事だ。
 妙な妄想に取りつかれた俺を西日が赤々と照らしていた。