409 :
「サイコ」「パワー」「殺意」:
ウチの三毛のサイコはデブです。
でもウチの家の外には出ません。食っちゃね食っちゃねしてます。
殺意丸出しの顔の野良が庭の前を通り過ぎるときはソファの後ろに隠れてます。
チビの豆柴のドイルが遊び相手。デカイ体で圧し掛かります。
でも、ノーパワーだからドイルに軽くいなされてブニュッと潰されてます。
あたしはこんなサイコが大好きです。
次は「醤油」「灯油」「優香」で。
そんなサイコのことを、つい文章のネタに使ってしまうのも愛おしさ故でした。
でもそのせいで、純文学志望だったはずのあたしはいつの間にかコメディー作家に。
…しかし、今にして思えばそのほうが向いていたのかも知れません。
あたし自身、知人からは面白いエピソードに事欠かないと言われます。
まあ作家なら大抵、調子良く執筆しているときに他のことがおろそかになってしまう
ことは珍しくないと思うのですが、醤油を灯油と間違えてストーブに入れて点火したり、
しかもそれが電気ストーブだったり…いうのは確かにちょっと珍しいかも知れません。
そんなあたしでも物書きのはしくれ、最近の日本語の乱れについては憂いを感じています。
先日も雑誌で「優香」なる言葉を見つけました。
これ、どうも「有価」の当て字らしいです。有価証券などというやつですね。
どうも芸能界の業界用語が広まったようなのですが…なんかもうぱっと見には元の意味さえ
判りません。困ったものです。
…次は「囲碁・将棋」「トーナメント」「投票」で継続。
「囲碁・将棋」「トーナメント」「投票」
インタラクティヴ、という言葉が流行っている。
最近はテレビもただ眺めるだけのものではなく、視聴者参加番組という
新しい概念が世間にも根付いてきた。
とはいえ、番組内で視聴者にできることはまだまだ限られている。
視聴者は手元の、以前に比べ多少ボタンの種類が増えたリモコンを操作して
番組に対して何らかの意思表明をする。その結果が番組に反映されるのだ。
某国の放送協会が永年手がけてきた囲碁・将棋番組もその例外ではなかった。
日曜日の午前、将棋トーナメントの決勝戦である。
・・・6一歩成、12,704票。2八竜、7,645票。よって先手第97手は6一歩成に決定しました。・・・
紋付袴姿のロボットが正確に駒を進める。
第一手から終盤どちらかが詰むまで、全て視聴者の投票によって決定される。
嗚呼、素晴らしき哉、インタラクティヴ!
次は「きざはし」「流浪」「責務」
412 :
「きざはし」「流浪」「責務」:02/05/26 13:17
プロ野球選手、スターへのきざはしへとさしかかった5番打者である。
7人の弟妹を養う責務、親の家を取戻す夢のため、彼は人の何倍も努力する。
今日彼等は古いアパートを引き払い、新築2DKへと引っ越す。
「また一歩、家を取戻す野望へと近づいたね、あんちゃん。」「ん。」
・・・といったやり取りを聞く妹は、ふと一つの疑問を感じた。
(お兄ちゃんの夢は、家を取戻す事だったの?)
「さあ、行きましょうたい!今までの部屋に最後のあいさつじゃ」
(子供の頃親を失って、流浪の生活に苦しむ前は、どんなあんちゃんだったの?)
・・・とても聞けない疑問だった。これは胸の奥に永遠にしまっておこう。
一家が去り、引越屋が後始末を始める。
彼等は、小さく丸まった古い画用紙を、悪態をつきながら焼却場に投げ込む。
画用紙は、彼の幼い頃の絵だった。そこにはこうあった。
「わしのゆめ。わしは大きくなったら**ちゃんと一緒に科学者になって大発明・・・」
誰も見ぬ焼却場。絵は一気に燃え上がり、後は何も残らなかった。
※なんかこの漫画のパクリが多い・・・某映画もパクってるし
次のお題は:「市民」「第一」「痩せ馬」でお願いします。
「市民」「第一」「痩せ馬」
男は痩せ馬を引いて町に来た。
馬と同じく男も痩せていた。
町の広場のまん中の、石造りの台の上で
男は行き交う人々に語りかけた。
実は2ちゃんねる市民の皆様に、投票依頼に来たんです。
市民と呼ばれた者たちはさしたる興味を示さなかった。
2ちゃんねるが市の定義に当てはまるというのだろうか?
第一、何の投票かもわからないではないか・・・
>>410に捧げてみたりして。
次は「おぼろ」「みちなり」「くしくも」
おぼろ月夜に誘われて、散歩に出かけた。
家の前の通りをみちなりに歩いていると、くしくも天敵のサイコに出会った。
サイコは近所に住む天然ボケの一家、佐藤さん宅の飼い猫だ。
怠け者で臆病者のデブ猫サイコは、オレの家の庭に糞をする。
佐藤さんに文句を言おうかとも思ったが、証拠がないのだ。
しかし、あんなに巨大な糞をする猫はサイコ以外に考えられない。
オレは周囲に人がいないのを確認し、サイコに向かってダッシュした。
別に何もするつもりはなかった。
少し脅かせばうちの庭には来なくなるかもしれないと思っただけだ。
サイコはオレの勢いに驚いて飛び跳ね、情けない声で鳴いた。
サイコは怯えていたが、逃げ出さなかった。
オレの目をじっと見て震えていた。
オレは何だか可哀想になり、散歩なんかしなければ良かったと思った。
>次 「宝」「鯉」「噂」
415 :
◆4RxB688c :02/05/27 05:55
隣家のご主人が宝くじで大金を当てたらしい、という噂を妻が聞きつけてきた。
そういえば確かに、先日から隣家では庭を大掛かりに作り変えている。見ていると、どうやら池を掘り、日本庭園のようにするらしい。
日曜日、隣家のご主人が庭に出ているのを見つけた。よし、噂の真偽を問うてみるか。
こういうことは、いきなり核心をつくのが肝要である。「●●さん、宝くじ当てたんですって?」
「や、もうご存知でしたか。これはお耳が早い。」
「で、どれくらい当てたんですか? かなりの額で、それで庭の工事もしてるのだとか…」
「いやあ、どれくらいと言われても言葉に困りますなあ……。よし、あなたには特別にお見せしましょう。」
そう言ってご主人は家の中に私を促した。金庫にでも大金が仕舞ってあるのだろうか…? と思う間に、目的の部屋についたらしい。
「これです。どうですか? 素晴らしい模様でしょう?」
「??」彼が示したのは、かなり大きめの水槽の中にいる2匹の鯉。
「…鯉、ですか。買ったんですか?」
「いや、ですからこれを、日本養鯉愛好者連盟主催の宝くじで当てたんですよ。値段をつけるなら、1匹1億はしますよ」
「………」
「で、せっかく我が家に来て、狭い水槽の中じゃ可哀相だから、いっそ庭に池でも作って放してやろうかと思いましてね。」
趣味の世界は、他人にはわからないものである。
-----
「猫」「虐殺」「中継」で、あの事件とは無関係なものを。
ついに決行の日が来たんだよ。
ほらこの地図を見てごらん。
これは2週間前に樽の中で見つけた宝の地図さ。
ぼくは今日これから宝探しにいくんだよ。
え?この地図がにせものだって?
おまえは若いね。近づいてよく見てごらん。
ここにむずかしい文字が書いてあるだろ?
これは宝の居場所を隠してある暗号なのさ。
「.ad...i..j...n」
あー、わかったよ実はぼくはあんまり字が読めなんだ。
でもそんな細かいことどうだっていいだろ?
ぼくはおまえより1歳も年上なんだ。心配しなくていいよ。
それに今日のためにいままで練習してきたんだ。おまえも知ってるだろ?
宝さがしに行くにはまずはあそこを越えなきゃいけない。
大丈夫きっとうまくいくさ。兄ちゃんをしんじてろよ。
おまえはそこでみてな。いくぞ〜!はぁ〜〜、えいっ!!
数日後
砂利道を並んで歩く若い男女の姿が見える。
「ねぇ、あれなにかしら?」女性の方が立ち止まってきいた。
「あれは…魚……鯉だな。鯉が死んでるんだ。かわいそうに、跳ねて池から
飛び出してしまったんだね」男が答える。
「この池、樽が沈めてあるわね。一体なんのためかしら」女性が不思議そうにきいた。
「片方の蓋が外してある。隠れ家のつもりで入れてあるんだろう。
ほら、樽から顔を出しているのがいる。あの赤と黒のまだら模様は大正三色の若いのだね」
男は池の奥を見ながら答える。
「変な池、それよりあなた今日の宿のことだけど」
次「毛づくろい」「最頻値」「英英辞典」
ぎゃ〜〜。遅かった。
しかもお題1個間違えてるし。。。
ごめんなさい。
418 :
「猫」「虐殺」「中継」:02/05/27 07:31
「×日のサッカー中継を中止にしなければ、おまえらの系列局のビルを全て爆破する」
そんな内容の脅迫状が、テレビ局に多数届いた。消印は、どれも××県のものだった。
その日が近づくにつれて、脅迫状の文面は過激さを増していった。
「中止しないと、××県の市民を虐殺する」という手紙もあった。
サッカー中継の枠は、本来なら「猫ミミLOVE」というアニメ番組が放映されることになっていた。
数日後、脅迫者はあっさり逮捕された。大方の予想通り、彼の部屋は「猫ミミLOVE」のグッズで埋め尽くされていた。
次は
>>416より「毛づくろい」「最頻値」「英英辞典」
419 :
一 五明@410:02/05/27 08:44
「猫」「虐殺」「中継」「毛づくろい」「最頻値」「英英辞典」
ふと電器屋の店頭に目をやると、TVに臨時ニュースの字幕が横切っていた。
[一手預市 御前茂名町の民家で爆発騒ぎ]
何、すぐ近所じゃないか?
幸い被害は少なく、住人一人が手に軽い火傷を負い、飼い猫の尻尾が少々こげたのみ、
だそうだが、やはり気になる。
数分後、現場からの中継に切り替わった画面に驚き。
それは知り合いの作家で、しかもさっき道で会って世間話したばかりの佐藤さんの家だった。
彼女は猫を飼っているので、ずいぶんノミに食われるそうだ。
さらに不精な猫でろくに毛づくろいもしないために、普通よりノミが多いらしい。
で、あまりに食われるので、食われた回数の統計を取りたくなり、
3ヶ月分の結果は、一日平均57.4回。最頻値は56とのことだった。
…まあ昔から少々天然ボケの入った人ではある。
学生時代、英英辞典をイギリス英語の辞典だと思い込んでいたこともある。
まあ統計取るのも飽きたので、ノミの虐殺を計るべくバルサンを買ってきた、とさっき
言っていたのだが。
…………爆発を起こすとは、一体バルサンと何を間違えたのであろうか。
>413
やっぱし説明不足でしたね…説明し過ぎてもうざがられるけど(^^;
次は「晩餐」「伴奏」「バルタン星人」
あ、書いてる間に418が(^^;;
ある日、仕事から帰ると女は消えていた。
その代わりに一匹の黒猫が俺のベッドで眠っている。
「あの馬鹿女、こんなもの置いて行きやがって・・・」タバコに火を付けながら思った。
黒猫なんて疎ましいが、俺の中で苛々という感情は消滅してしまったのか、柄にもなく俺はそいつと生活する事にした。
女が消えて一ヶ月が過ぎたある雨の日曜日・・・朝。
台所の白黒テレビにはバルタン星人が戦っている。俺は猫の缶詰を自分用に半分皿に取り、残りを黒猫にやった。
すると、黒猫が何か小さな封筒を咥えている。
俺は無表情にその封を開けると・・・
『晩餐会のお知らせ
今宵、金星がアカシアの葉に覆われます時を同じくして、
晩餐会を催したく、慎ましくお誘いもうしあげます。
会場には、どうぞ礼服でお越しくださいませ。
きっと、すばらしい会になりますわ。
chere babette(おばかさん)』
きっとあの馬鹿女の仕業だな・・・と思い、こちらも慎ましく無視することにした。
その日は本を読んでもテレビを見ても憂鬱な時間が流れ、夕方何気なく近くのマーケットに出かけてみた。
雑誌と牛乳を買い帰路に向かう。途中でポケットに手を入れると、さっきの封筒が入っていた。
と、その時遠くの方でワルツの伴奏が聴こえてきた。辺りを見回すと、公園の奥にあるアカシアの林でなにやら人が集まってるようだ。
「祭り?」と思い、そこに向かうと、林の入り口で礼服を着た口髭の男に招待状の提示を求められた。俺はとっさにさっきの封筒を見せると、その男はすんなりと通してくれた。
そこはなんとも訳の分からない空間で、男も女も皆礼服をまとっているものの、その集まりは社交界そのものだった。俺はスエットのままだったので少し恥ずかしくなったが、黒だったのが少しもの救いだ。
続く・・・
完結しませんでした。次は「プラネタリウム」「地下鉄」「炭酸水」
=完結しませんでした。次は『地下鉄』『陽炎』『プラネタリウム』
地下鉄を降りた彼女は、努めてゆっくりと階段を上った。
三年前に別れた彼に会うのは、いかに楽観的な彼女であっても、憂鬱な出来事である。
それが、今も愛しているのならなおさらだ。
戦争で壊れた街並みは、どこもかしこも憂鬱な倦怠感に満ちていた。
彼女は顔を巡らせ、所々ひび割れたアスファルトの上を歩く。
真夏の日光を浴びせられ続けた地面は、陽炎を立ち昇らせるほどの熱を発していた。
「………久しぶりだな」
日差しを避け、壊れたビルの庇に隠れながら、彼が手を上げる。
彼女はしばし躊躇ってから、歩き出した彼の後ろを追いかけた。
「今、どこに住んでいるの?」
「2年前に爆撃された、プラネタリウム跡にな。日陰になってて、結構居心地がいい」
その場所は、彼女も知っていた。
彼と何度も通った場所。星が好きだった彼女の為に、デートスポットに選んでくれた彼。
いつもそのプラネタリウムは、二人の貸切だった。
「で、俺に何の用件なんだ?」
プラネタリウムで出迎えてくれたのは、大柄な髭を生やした男性と、絶世の美女だった。
彼は、熊男と俺の弟、と二人を簡単に彼女に紹介した。
その美女の中に、やんちゃな子供だった彼の弟の面影を見て、彼女は苦笑する。
時の流れは、残酷なものだ。
熊男に差し出された炭酸水を飲みほすと、熱気を帯びた全身がすうっと冷えるのがわかる。
三人の見つめる中、彼女はようやく口を開いた。
「総理を暗殺してほしいの……これはレジスタンスからの正式な依頼よ」
次のお題は、「ジェット」「隕石」「クルマエビ」で。
423 :
ジェット・隕石・クルマエビ:02/05/27 16:50
始めはジェット機だとおもった。
真っ直ぐに伸びたその航跡をみつめていると、次第に先端の光る物質がこちらに近づいてきた。
物質は遊園地の垂直落下する乗り物のように物凄い勢いで落ちて――そのまま地面に衝突した。
が、不思議と音はしなかった。
その物質――隕石と呼ぶべきなのか――は、地表すれすれで浮かんでいたのだ。
恐る恐る近づいてみた。
その表面からは鶯色したアメーバ―状の流動体がにじみ出ていた。
アメーバ―はぽとりと地面に落ち、ヒルみたいな形態になり、
いくらか経つと、クルマエビのようにくるっとまるまった。
「君は何?」僕は訊ねてみた。
「いやー…、地球は食糧難らしいので、私を食べてもらおうと思い立ったのですが…」
「でも、君みたいな得体の知れない生物を食べる人間なんていないよ」
「そうですか…、困りましたな…」
そいつは何度も「困りましたな…」と、発した。
そんなこと云われても僕のほうが困る――なんて云えなかったから、
暫くそのアメーバ―君に付き合って、僕も困り果ててみた。
次は「まごころ」「夕焼け」「味噌汁」で御願いします。
424 :
エヴァっ子:02/05/27 23:12
「不味い……」
ある意味儀式化されたような言葉を吐いて、俺は味噌汁を口に含んだ。
やはりあいつに日本食を作らせようとしたのは間違いだったか?
「アルジャーノン、何度いえば分かるんだ味噌汁に牛乳はいれん」
白く濁った液体は、俺の口の中でほのかな甘みを……醸し出してはくれない。
一気に味噌汁を飲み干す。
「今度こそはうまく作ってくれ」
……窓の向こうに、傾いた太陽の映る日のことだった。
まごころ……だれか分かってくれる?
次は「電波」「海」「深夜」でお願いします。
425 :
「電波」「海」「深夜」 ◆4RxB688c :02/05/30 06:10
426 :
「電波」「海」「深夜」:02/05/30 06:44
あたしはね、夜になると電波を受信するのよ。
素敵よ。神様があたしに『精神病になっちゃえー』って怒るの。
とりあえず、腹が減ったから何か食べる。
頭から溢れ出した電波エネルギーは、陰毛で縁取られたきったねー女性器から垂れ流しになっちゃった。
食べる。吐く。食べる。吐く。ゲーロゲロ。
女性器、指で交ぜる、グチャグャ、ああ、嬌声。
イク。潮吹き。
「同性愛」「美少年」「レイプ」
427 :
「同性愛」「美少年」「レイプ」:02/05/30 20:05
同性愛に目覚めた
とある美少年は
急ぎ足の雑踏の中で
赤い糸に導かれたかのように
>>426と遭遇して
近くの公衆便所に連れこんでレイプした。
次のお題は「衆寡敵せず」「強健」「合従連衡」
428 :
「衆寡敵せず」「強健」「合従連衡」:02/06/01 05:09
強健を競う大会、”宇宙強健マン大会”会場は暑苦しい熱気に包まれていた。
それはそうだ。全宇宙の強健な男がそのはちきれんばかりの肉体を競う大会なのだから。
また、その審査方法は強健なものが勝つ、勝ったものが強健である、わたしは誰の挑戦も受ける、というものだ。
こういう大会は得てしてそうなんだが、衆寡敵せず、合従連衡、取り引き賄賂が乱れとぶことになる。
が。
強健である、その絶対的価値のもとにひれ伏さないものがあろうか?
いやない。勝負は相対峙した一瞬で決まるのだ。
こうして、今大会も一人の強健オブ強健な漢が決まった。
そしてその漢は、アドンとサムソンという二柱の強健な肉体を持つ兄弟神の元、
彼らを超兄貴と呼ぶ権利を与えられ、
その強健な肉体を1UPとして捧げるのであった。
完。ドイツ、ドイツ、ドイツドイツ(ジャーマン)
次は「フジヤマ」「ギャル」「パニック」
429 :
「フジヤマ」「ギャル」「パニック」:02/06/01 23:22
娘にどこに行きたいと問うと彼女は即座に『富士急ハイランド!』と答えた。
「富士急ハイランドって・・・あの山梨のか?」
「うん、そう。」
彼女は、屈託の無い笑顔でそういった。時計を見ると午後12時15分。とても
約束の時間までに戻って来れるようなところではない。
「後楽園ゆうえんちじゃあだめかな?」
「だめ!フジヤマに乗るの!!」
幼い彼女は、そして駄々をこねる。そんな私たちをコギャルが胡散臭そうな目
で眺めていった。・・・確かに、父親には見えないかも知れんな。俺は。そう、
この娘の今の父親は俺ではない。だが、俺は間違いなくこの娘の父親だ。あいつと
別れた今でもそれだけは揺るぎ無い事実。だが、この娘は俺のことを叔父さんだと
育てられている。気がつくと、彼女は泣き出さんばかりのかおで俺を見上げていた。
「おにいちゃん・・・ねぇ、怒ったの?私がわがまま言うから?」
「ん〜ん、怒ってないよ。そんなんじゃないよ。」
途端にはじける屈託の無い笑顔、俺はつられて笑った。・・・未来、彼女が真実を
知った時、彼女はどんな顔で俺を見るのだろう。
「後楽園ゆうえんちでジオパニックに乗るのぉ!」
「そうか、じゃあ行こう!」
はしゃぐ彼女を肩車し、俺はふと思った。この娘は、総てを知っているんじゃあ
ないのか?そんな希望にも似た疑問を胸に俺は改札をくぐった。
20行。面目ないです。
次は「花束」「ネズミ」「音楽」でお願いします。
430 :
エヴァっ子:02/06/02 00:34
「僕達はお家に帰れないの?」
少年は笛吹きに尋ねました。
「ああ、そうだよ」
笛吹きは少しだけ、笛を吹くのをやめて答えました。
「君達はお医者さんになるんだ………病気の人たちを助けなきゃいけないんだ」
笛吹きは、淡々とそう言います。
「お医者様かぁ………、ねぇ、そしたら皆楽しくなるの?」
「ああ、そうだよ」
そう言うと、笛吹きはまた、笛を吹き始めました。
「そっか、じゃあお母さんとしばらくお別れだね」
少年は、少し寂しそうな眼をして目の前のお墓に目を向けました。
「きっと帰ってくるからね、お母さん」
少年は、花束をお墓に添え、涙を拭いてにっこりと笑いました。
そうして二人は旅立ちました。
何処か遠くの国へと。誰かが待っている所へと。
――いつまでもお墓では、枯れた花が少年達の帰りを待っていました。
いつか帰ってくる少年を信じながら………。
分かるかな?黒死病ねたです。
次のお題は「大木」「動物」「水」でお願いします。
「大木」「動物」「水」
不思議な動物のレリーフが施された旧い壁に辿り着いた時、俺は
そこが長い間捜し求めた目的の地であることを確信した。
この神殿の奥に、かつてこの砂漠の大陸を統べたという民の残した
伝説の宝物があるはずだ。
神殿の最奥の部屋を目指し注意深く進む。
数々のライヴァルを出し抜き強欲な商人相手にうまく取引し
妙な黒服の連中から命からがら逃れた、長い旅の道中が頭に浮かぶ。
ここまでいろいろあったが、ようやく努力が報われる時がきたのだ。
そして今、最後の部屋の前に立つ。
「宝の間」なんとわかりやすい名前だ。俺はゆっくりと石造りの扉を開いた。
・・・そこは吹き抜けになっており、部屋のまんなかに一本の大木と井戸があるのみだった。
井戸?そうか、砂漠に生きる者にとってかけがえのない宝だよな・・・
急になにもかもが可笑しく思え、俺は井戸の水を一口飲んだ。
うまかった。
次は「銀河」「時代」「サラダ」
432 :
「銀河」「時代」「サラダ」:02/06/03 03:07
時代が進歩すれば、鉄道も進化する。
あの、銀河鉄道も例外ではなかった。
極超光速化。銀河SUICAによる清算。二階建て車両・・・などなど。
それは「日帰りアンドロメダ出張」さえも可能にした。
男は、疲れ果てた体で、アンドロメダ駅から帰りの銀河鉄道に乗り込む。
帰って夜10時、それから出張報告・・・
窓に流れる無限の星々も、彼には何の感慨も与えない。
夕飯は、アルコール抜きビールと低カロリーサラダ。もちろん車内禁煙。
彼はぼんやりした表情で、週刊誌の小さな旅行広告を眺める。
<銀河鈍行鉄道!地球から各星停車でアルファ・ケンタウリまで8泊9日>
「いいなあ」と彼は呟く。
会社ときたら、ウラシマ効果まで計算に入れてスケジュールを組むし・・・
銀河の外側には、一体何があるのだろう。
※蟻が血・・・
次のお題は:「タイムスリップ」「洗濯」「学校」でお願いします。
「銀河の外には何があるのだろう」もんであんっても:列車オフ
木星会議、
433 :
「銀河」「時代」「サラダ」:02/06/03 03:08
・・・失礼しました^^; ゴミがくっついたままです
434 :
「タイムスリップ」「洗濯」「学校」:02/06/03 11:37
「今まで俺は何をしてきたんだ!限りある青春の時間を何もせずに過ごしてしまった俺とはいったい…」
俺は今、途方も無い悔いの念でうなだれている。
自分自身が情けない。今まで本当に愚かな事ばかりしてきた。
限りある高校生活をただ流されるままに過ごし、そして卒業まで至ってしまう。
友人たちは部活、アルバイト、バンド活動その他いろいろな事をして青春を謳歌していたというのに・・・。
朝食を食べ、学校に行き、帰宅して、テレビを見て、寝る・・・。俺は毎日これの繰り返しだった。
俺は望んでこんなことをしていたのではない。ただ、俺の臆病で羞恥心溢れる心のせいでこうなったのである。
高校生になったばかりの俺は燃えていた。熱い日々を送ってやるぞ・・と。
早速俺は行動をとろうとした。まずは部活だ・俺は部の顧問に入部を請おうとした。だが、突然俺の背後から囁きが聞こえたのだった。
「やっていける自信はあるのか?入ったらいじめられるぞ。現状維持ほどいいのは無いぞ・・」 ――と。
そして現在まで至っているのである。
もし時間が戻せるのならもう一度あの時に戻りたい・・・。俺は今そう思うばかりである。
俺は真剣にその方法をパソコンで探していた。そして…なんとそれらしいものを発見した!
「わが社の超高速洗濯機のドラムに入り高速で回転し続けると時間空間に歪みができ、そして過去へと行けるのであります。」
俺はそれを信じた。それなら自宅の洗濯機でも可能ではないか・・。そして俺は早速実行したのだった。だが、俺が馬鹿だった。
翌日、俺は変死体となって発見されるのである。
次は「殺虫剤」「蛍光灯」「ハイビジョン放送」で
タイムスリップが抜けてました。
15行目を「わが社の〜時間空間に歪みができ、そしてタイムスリップができるのです。」
に訂正します。スイマセン
436 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/03 15:08
437 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/03 15:51
ハイビジョン放送の光だけが室内に木霊していた。その光を縫うように飛ぶ蛾いっぴき。
打った。叫び。歓声。そして白球はスタンドに吸い込まれていった。蛾は音の洪水に驚きもせず
私の体の周りを踊るようにぐるぐる舞った。光の中を舞うその生物を、私は美しいと思った。
それを殺すつもりで殺虫剤を手にしていた自分が、急に理不尽なものに思えてきた。
だからだろう、私は大きく口を開け、殺虫剤を己の口中に噴霧する…そんな妄想を頭に描いた。
毒にやられて崩れ落ちる私と、我が物顔で、素知らぬ顔でこの部屋を蹂躙する蛾。
そんなイメージにしばし恍惚としていたが、ダブルプレーとともに私は我に返り、蛍光灯を
灯して蛾を始末した。
次は「手紙」「赤外線」「西洋」でお願いします…お題考えるのむずかしい
438 :
「手紙」「赤外線」「西洋」:02/06/04 07:13
オゾンホールの拡大。
降り注ぐ紫外線。
西洋から放たれた警告も、学生ボロ下宿では無意味だった。
紫外線より、まず暑さを凌がねば。
親にはとても見せられない格好で、彼女は手紙を書いている。
気分だけは南仏、コートダジュール・・・
それでいて、部屋にはコタツが出したままになっている。
昼寝時間の拡大。
降り注ぐ赤外線。
コタツの中では、一匹の猫が健康の心配をしていた。
冬からこっち、生活はほとんどコタツの中。
それでいて生活のリズムは改善できない・・・
「ああ、これではいけないわ!」
猫の方はそう思っていた。
でも、何もしないことには変わりない。
※20分で書いたー;
次のお題は:「プリンタ」「ババロア」「アッパー」でお願いします。
「アッパーカバーが開いています。再度カバーが閉まっていることを確認してください。」
無個性な女性の声が響く。最近のプリンタは(無用な)付加価値をつけないと売れないのだろうか?
なんでもかんでも"音声ガイド機能"がここ数ヶ月で流行っているらしい。
昔からしゃべる目覚まし時計や貯金箱なんてのはあったが、最近はパソコンやプリンタやデジカメといった
OA機器をはじめお風呂やポット、ひどいものでは机に椅子までありとあらゆるものがしゃべるようになった。
おかげでこのいまいましい声を聞かない日がないくらいだ。
もちろん家の中だけではない。外に出たら出たで信号や歩道も何事かしゃべっている。
動く歩道ならぬしゃべる歩道と言う訳だ。あんなにうるさいにも関わらず通行人は気にも留めていないようだが。
道のまん中で耳を塞いだからとて全く聞こえなくなるものでもなし、せめて家の中くらい静かに
ならないものかと思案するも束の間、食卓のババロアから例の声が頭に響いた。
「腐敗が進行しています。風味が落ちるのでお早く召し上がりください。」
まったく、最近のババロアときたら少しは黙ってられないのだろうか・・・
今回はシュールな一品。すこし判りにくい?
次は「味噌」「禊ぎ」「大晦日」
440 :
「味噌」「禊ぎ」「大晦日」:02/06/05 15:47
大晦日に「ご飯を食べに来て」と呼び出されたので、何事かと思いつつ呼び鈴を
鳴らす。扉が開いた途端、挨拶をするのも忘れて、口を開きっぱなしに
してしまった。彼女は髪の根元から足の指まで濡れていて、体はバスタオルで
隠しているだけという格好だったのだ。
「いらっしゃい。準備は出来ているから、どうぞ上がって」
そう動いた唇は青く、肌の色もいつもより白い。
「水を被っていたのか。今、冬だぞ?」
「知らないの。そこの神社の横に、禊ぎのための清水があるのよ」
もらってきたその水を今、頭から被っていたところだという。あまりの話に
服をかき合わせていると、
「待ってて。今、料理を並べるから。味噌のものでそろえたの」
そういって彼女は奥に消えた。
当然、並べられた料理はうまいけれど、とても冷たかった。味噌汁でさえも。
そういえば、僕は彼女の名前も知らない。
次は「ホームラン」「山岳部」「オパール」で。
441 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/05 16:10
いわゆるふたまたをかけていた。
わたしはたったの17だったけど、髪も黒いままで学級委員なんか務めてる
女子だったけど、どちらも選べなくて二人の男子と付き合っていた。
ひとりは野球部員。甲子園を目指していた。
もうひとりは山岳部員。彼らはどちらともよく陽に灼けていた。
「県大会、絶対ホームラン打つよ」
おまえのために、と野球部の彼は付け足した。どっかの漫画みたいだなと
思いながらも嬉しかった。
山岳部員の彼は芝居がかったことばは使わないたちだった。
野球の県大会の日、山岳部員の彼は北の方の山で遭難した。彼の弟から携帯
電話で報せを受けたわたしは、スタジアムで野球部員の彼を応援していた。
野球部員の彼がバットから快音を放ったその時、わたしは駆け出していた。
「うわぁ、綺麗な石・・・。オパールみたい」
山岳部員の彼が山で拾ってきてくれた石。ぶっきらぼうに差し出されたときの
ごつごつした手のひらを思い出して、走りながらわたしは泣いていた。
ポケットの中であの石が揺れている。あれからいつもいつも持っていた。
彼が助かるなら何もいらない、と思ったときに、誰が好きだったのか初めてわかった。
次は「鯖」「コスタリカ」「プリン」で。
442 :
「鯖」「コスタリカ」「プリン」:02/06/05 18:15
「コスタリカってどこにある国だったっけ?」
と、姉さんが聞いてきた。僕はテレビの料理番組を寝そべってみながら答える。
「オーストラリアだっけ?」
「違う。なんかもっと別のとこにあったと思う」
そんな確信を引っ張り出すくらいなら、自分で地図でも見て調べろよ、
僕はそう言いかけて、姉さんを振り返った。
姉さんは、片手にプリンを持っていた。僕の好きな、カスタードプリン。
スプーンですくうと、僕の口元に持っていきかけて止める。
「答えられたら、食べさせてあげるよ」
なんだよ、赤ん坊じゃあるまいし、と、僕はちょっとむっとして、目を泳がせた。
料理番組では、鯖の味噌煮なんてものを紹介している。参考にならない。
外もいい天気だけど、それは別に何のヒントにもならない。
「わからないんだったら、プリンはみんなあたしのものよ」
姉さんは白い歯を見せて笑う。弾みで、スプーンの上のプリンが姉さんの胸元に落ちた。
あ、そうだ。
突然思い出して、僕は姉さんの胸元についたプリンを舐め取った。
何すんのよ、という声を無視して、僕は姉さんの首に舌を這わせて、言った。
「コスタ-リカ。中央アメリカの小さい国だった。今思い出したよ」
プリンカップが床に落ちる。姉さんが小さく吐息を漏らした。
お次は、「夢」「ギンガム」「掃除機」で。
443 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/05 20:20
木綿子は戦っていた。14年に及ぶ長き生涯で最大の敵と。悪夢のような出来事と。
愛用の白iMacの画面に映る木綿子の個人ウェブサイト。その掲示板が戦場だった。
ギンガムチェックの「ほのぼの掲示板」で木綿子がお気に入りのうさぎアイコン
が卑猥語を連発して発言ログを流している。木綿子にはとても口にできないような
恥ずかしい言葉で掲示板は埋め尽くされている。変な、にやけた顔文字が木綿子の
神経をさらに逆なでする。木綿子は顔を真っ赤にしてキーボードを叩きつけるように
「うさぎさん」に出ていくように言い続けていた。
姉に頼めばなんとかしてもらえるだろうが、姉が帰ってくるまでまだ2時間はかかる。
自分の身は自分で守らないといけない、木綿子は妙な高揚感を感じつつ、そう決意した。
「ゆうこ〜!?買い物行ってくれない?」
後ろで呑気にも掃除機をかけている母親が殺気だった木綿子に声をかける。
丁度その瞬間うさぎが放った言葉は恐るべきものだった。木綿子を噴火させるに十分なほど。
だから木綿子は、つい母親に…
「死ね、なんて言ったのね?」
数時間後、呆れた顔の姉を前に木綿子は泣きはらした目で正座していた。結局こうなった…
木綿子は言いしれない敗北感にうなだれた。
ちょっと長くなりました。すみません。
次は「サファリ」「貨物」「誘拐」でお願いします。
「サファリ」「貨物」「誘拐」
近所の神社で祭りがある。帰宅後、5歳の娘を連れて出かけた。
普段人のあつまらないところに人が来る祭りは、高揚した気分にさせる。
娘はぴょんぴょん飛び跳ねながら、私についてくる。可愛い。
娘は金魚すくいがお気に召したようだ。立ち止まって、見つめている。
300円を出そうとしたら、小銭の持ち合わせがない。
射的、30発500円の看板が合った。二人で1000円。
嫌がる娘をなだめながら、千円札を渡した。嫌がっていた娘も、
鉄砲を持った途端まんざらではないらしかった。可愛い。
「お父さん、サファリって何?」
縞馬の模型だった。商品名はサファリ。他にも象とかライオンとかある。
「ほら、かもつれっしゃがあるよー」
「それ、きらい。サファリがいい」
自分の娘なのに、誘拐したくなるほど、可愛かった。
次は「ペットボトル」「くつした」「犬」でお願いします。
445 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/05 20:55
名前で誰かばれそうだ…。うつ。
446 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/06 14:07
「あのくつしたあんよのがいいな」
そのとき、ぼくはアユちゃんがなんでぼくを指さすのかわかんないくらいこどもだったんだ。
ぼくらきょうだい5匹はみんなよく似てたけど、ぼくだけ脚先の方の毛が人間が靴下はいた
ときみたいに白い『くつしたあんよ』だったから、きっと目立ったんだと思う。
アユちゃんはそれからずっと、ぼくをうんと可愛がってくれた。怒ると怖かったけどね。
でも信じられる? ぼくはおとなになったのに、アユちゃんはまだ結婚できない年なんだって。
でも好きなやつはいるみたい。ぼくの知るかぎりアユちゃん2度目の恋だ。
アユちゃんの初恋はとなりの家のお兄さんだったけど、アユちゃんは好きな奴の前だと必要
以上におちゃらけてしまうらしくて、気持ちも伝えないままシツレンしちゃったらしい。
今度のやつは同級生で・・・おっとちょうど前から歩いてきた。リードを通じてアユちゃんの
緊張が伝わってくる。アユちゃん、がんばれ。
おっ、おまえの犬? ってきかれて、アユちゃん、うん、なんて可愛く微笑んでる。
ふと、奴がアユちゃんが手に持ってるペットボトルと水入れに気づいた。
「その水、おまえが飲むの? それとも犬の?」
い、犬の、と答えた後にアユちゃんが再び口を開いた。嫌な予感がぼくをおそった。
「こ、これがほんとの『ペット』ボトル〜!・・・なーんて」
・・・・・・ダミだこりゃ。
次は「産婆」「紅茶」「眉毛」でおねがいします。
447 :
「産婆」「紅茶」「眉毛」:02/06/07 16:52
目の前に晒されている表情に、彼女のいつものような雰囲気はなかった。
ずっと電話のほうを睨んでいて、眉毛や目がいつもより厳しい形をしていた。
テーブルに置かれている紅茶は、ずっと前から湯気なんか出していなかった。
「そんなにピリピリするなら、お義母さんと一緒に病院行けばよかったのに……」
「だって、わたしにお産の経験があるでもないし、旦那も私が行ったら気を使う相手が増えるでしょ?」
「旦那さんはともかく、お義姉さんは喜びはしても、邪魔にはしないと思うけどなあ」
「いいの。それにほら、あなただって、妹さんのとき行かなかったじゃない?」
「ほら、俺は男だし……。それに俺は、産婆さんが来て家で生むんならまだしも、
わざわざ病院まで行って他人のうちの出産まで見たくないよ」
「あら、薄情なのね」彼女はいくらかさっきよりスッとした目で言った。
「それにほら、俺は妹の出産で君に当たったわけじゃないしね」
「わたしの気分がもし悪いと思うんだったら、しばらく話し掛けないで」
彼女はそう言ったきり、また黙り込んで電話を睨んだ。
僕はあきらめて静かに視線を添えた。電話は少なくともしばらくは鳴りそうになかった。
次は「処女作」「ゲート」「いたずら」で。
448 :
エヴァっ子:02/06/08 20:51
見上げるとそこには巨大で、赤茶色に錆付いたゲートがあった。
赤い夕陽、赤茶色のゲート………私の処女作の小説に出てきた風景だ。
思い出してきた。
そうだ、私達はここでよく遊んでいたんだ。
誰と?近所の男の子と。
今思えば、6年前プロになってからは全然会っていなかった。
目の前に今朝ポストに入っていた稚拙で折れ曲がった字で書かれた手紙が浮かび上がった。
そうだ、あの字は………アイツの文字だった。
どうして忘れていたんだろう、眼から涙が溢れてきた。
あんなにも大好きだったのに、6年間も会わなかった。
時の流れに流されて、そんなことまで忘れていたんだ。
錆付いたゲートを見上げて、私は泣いた。
そして叫んだ。
タチの悪いいたずらよ………、と。
次は『石』『雲』『都会』で。
450 :
「石」「雲」「都会」:02/06/08 22:48
きれいに並んだ石畳を慎重に歩きながら、私は遮るものもない天蓋を見上げた。
東京では見ることのできない真っ青な空を、白い雲がゆっくりと行き過ぎる。山肌を流れるように移動する、雲の影はやがて私と遺跡の上にもやってきた。
「すごいわね… こんなにきれいな状態で発見されるなんて」
先行していたスタッフが声を掛けた。
「作業、始めますよ」
ここは土に眠る石の都。十数世紀も昔の、街の死骸。 死骸… それを最初に言ったのは彼だった。
日本を出発する前、新宿の高層ビルにあるレストランで食事をしたときのことを思い出した。
「君が掘り出しているものは、こんな都会の死骸なのかな」
私は、大路から遺跡を振り返った。四角に切り出され、几帳面に積み上げられた石の建築物。その後ろから、雲がせり上がってくる。
「いいわ、始めて」
いつか、東京も土に埋もれ、誰かに掘り起こされることもあるのかもしれない。私のような誰かによって。
次は、「花束」「火星」「ハムスター」で。
「もしもし、桜井です。」
「おぅ、俺だ。」
「良太…久し振りだね。」
「どうした?元気ないな。」
「あのね、ピノが死んじゃったの。」
「…そっか。でも、彼はハムスターなりに幸せだったんじゃないかな?」
「どうして?」
「だって、美晴のそばにいられたんだからさぁ。」
「あはは…ありがと。ちょっと元気でたよ。」
「いぇいぇ。―そういえば、友達の結婚式だったって?」
「うん、ウェディングドレス、すっごく綺麗だったよ。」
「そっか…いつかは美晴にも着せてやるからなっ。」
「…結婚式の時、ブーケ取っちゃったんだ。」
「え…」
「そしたら、お母さんに『幸せの花束だね』って言われてさ。」
「うんうん。」
「そうなったらいいな、って…思った。」
「ん、そっか。」
「うん…」
「…」
「…」
「あ、空見てみて。」
「え?」
「ほら…南東の方。妙に輪郭のある、明るい星が見えるだろ?」
「えぇ?―あ、あった。すごい、クッキリ見える…」
「あはは、美晴は目ェいいもんな。」
「すごいねー…星なのに、あんなに…」
「実はアレ、星じゃないんだ。」
「えっ?」
「アレはね…火星なんだよ。」
「火星って…あの?」
「そう。星よりも近くにあるから、クッキリ光って見えるんだ。」
「へぇ、そうなんだぁ。」
「そう…星は、遠くても輝いて見えるんだよ。自分で光ってるからね。」
「火星はたしか、太陽を反射してるんだよね?」
「そう。…ちょっとマジメに聞いてくれ。」
「ん、どうしたの?」
「地球に届くほど明るく綺麗に光った星がさ…」
「うん。」
「俺のそばでずっと輝いてたら、嬉しいよな。」
「うん、そうだね。」
「だから…俺のそばに、来てくれないか?」
「え…」
「つまり、俺と結婚して。」
「…ん、分かった。」
「あー、よかった。断られたらどうしようかと思った。」
「あはは、断らないよ。好きだもん。」
「もう指輪も買っちゃったしさ。」
「相変わらず、気が早いね。」
「まぁ、それ以上に理由があるんだけどね。」
「え、何…?」
ピンポーン…
---
カギカッコ進行に挑戦。そして失敗。
むずかしぃYo!駄作でスマソ。
次のお題は…「生温い」「光る」「沈黙」(動詞は活用OK)
452 :
「生温い」「光る」「沈黙」:02/06/09 01:45
彼は生温い空気を感じて顔を上げた。空気の流れは、ワンルームと小さなキッチンをつなぐ狭い通路からやってきていた。ユニットバスの扉が少し開いている。
「いつ開けたんだろう」
彼は換気のために、いつもユニットバスの出窓を半分開けている。生温い空気は雨の前兆かもしれない。面倒だが閉めておくか、と彼は立ち上がった。
そのとき、ユニットバスの扉の隙間に、鈍く光るものを発見した。液体だ。それも石油のような重い色の液体。だが、そちら側は電気を消しているため、よくは見えない。わずか光を反射するのがわかる程度だ。
「そんなもの持っていったっけ?」
自問自答しながら、彼はキッチンとユニットバスの灯をつけ、扉を勢いよく開けた。
鉄の錆に似た臭いが、部屋に向かって流れ込む。ぐにゃりと曲がった女の身体がそこにあった。腹部に深々と刺された包丁の柄から、ぽたぽたと血が滴り落ちて、バスの床に広がっている。
「ああ。そうか。そうだっけ」
別れ話を持ち出した彼女を脅すだけのつもりだった。しかし、過剰に反応した彼女ともみ合って… この数十分の出来事が、彼の脳裏にゆっくりと浮かんだ。
玄関の外で複数の靴音が響いた。チャイムが鳴る。隣人が警官を呼んだようだ。
「こいつ、結構でかい声出したからなあ」
彼はゆっくりと包丁を引き抜いた。そして…… 沈黙。
次は「香水」「アスファルト」「森林」で。
453 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/09 09:16
計画は完璧に進行した。
輸送車は工場を午前2時に出発する。港への到着は午前4時だ。途中で一度休憩
を取り、運転手が車から離れる。
俺は闇に隠れるように輸送車に近づき、ロックを外し、慎重にバルブを回転させ
る。ポタリと、最初の一滴が地面にこぼれ落ちる。一瞬、夜になっても熱をおびて
いるアスファルトから、強烈な芳香が拡散する。香水の原液だ。
俺は、排出口に詰め物をして、しばらくの間、漏れるのをふさぎ止めるようにす
る。そしてバルブを大きく開く。詰め物は数分のあいだ、こいつが再びしたたるの
を防ぐ。それからあとは、原液はとめどもなく垂れ続けるはずだ。
運転手が戻ってきた。俺は背をかがめて暗闇に身をひそめる。輸送車のエンジンが
始動し、ライトが光る。光芒が、森林の中へと続く白っぽい道路を浮き上がらせる。
あの森の道で、輸送車は香水をさかんにふり撒きながら、疾走するだろう。森林を、
空間を、村や街を、港までつづく道路を、目がくらむような香りで充満させてゆく
はずだ。会社を解雇された調香師としての、俺の復讐だ。
輸送車は走り去って行った。計画では、そのまま空港へ向かい、この国を立ち去
るつもりだった。
しかし、なぜだかわからない。俺は、真っ暗なその道を、輸送車のあとを、とぼ
とぼと歩きはじめていた。香りを求めて。
次は「きれい」「きたない」「池」で。
454 :
「きれい」「きたない」「池」:02/06/09 12:55
そいつを見たのは家の近くにある、道路に面した用水池だった。
まだ幼かった私が、友達だったユウキ君と一緒にザリガニを捕りに行ったとき、
二人はその存在を認めたのだ。細かな泡や水滴一粒一粒を帯びるように湧いて出た
そいつは、蛞蝓のように這った声で問いかけてくるのだ。
「わたし きれい?」
その容貌は、あまりに醜悪であり、褐色に爛れたきたない皮膚を曝け出していた。
私とユウキ君はほんの間、膠着していた。恐怖に震え、返答に迷い、未知の体験
に体が動かなかった。
先に動いたのはユウキ君だった。ユウキ君はその恐怖を顔で動作で露にし、私を
置いてその場を駆け離れようとした。
だが、池のほとりを抜け出るよる先に、そいつは恐怖に歪んだユウキ君の顔を鋭
い牙で噛み千切った。まさに刹那の出来事だった。そいつの醜い口はユウキ君の肉
片をまるでウエルダンステーキを噛むかのように蠢き、鮮血を滴らせた。縦半分に
なった顔は脳漿を池に零し、崩れた脳髄が頭蓋から零れていた。
そのとき、私は張り詰めた恐怖を破裂させた。無我夢中で家に逃げ込もうとした。
ユウキ君と戯れていたそいつも私に気付き、狩りを楽しむような目で追ってきた。
そこで気付いたことは、私がその内容を見たのは夢の中だったということだ。そ
いつに追いつかれ、頭を食い千切られそうになったとき、割れた虚空に吸い込まれ
たように目が醒めたのだ。結局、私には何の害もなかった。
しかし、ユウキ君が死んだのには変わりが無かった。トラックに撥ねられ、池に
落ちたと報道されたユウキ君の顔は、夢と何の変わりも無く、顔半分が消えて喪失
していた。
そいつ、所謂口避け女は、予知夢、それも悪夢の使者だと、私は今でもそう感じている。
やっぱ長くなるな。次は「山紫水明」「白砂青松」「柳暗花明」
455 :
「山紫水明」「白砂青松」「柳暗花明」:02/06/09 14:34
龍は風と化して漂っていた。千年の昔、都で暴れた龍はこの頃はめったに己の躯の在りかすら意識せず、鱗を透けるそれに変えて、風と共に流れていた。日に映じて山は紫、澄んだ水が谷を伝っている。谷は風を斜めに落とし、開けた野へ吹き抜ける。
森のはずれの春の野に、女たちが遊びに来ていた。花びら舞う渦の中、上気した肩を露に晒して、女たちだけで酌み交わしている。港の色町から来た女たちであった。さざめく笑いは花びらより甘く、龍の鬚をかすめた。
一人の女は背に松のほりものをしょっている。明るい光の下で、薄い着物を透かして見えるのは、雄松雌松が並ぶ海岸の風景である。将来を誓った男が海に出て帰らないのだとも、だまされていたのだとも、ほんとうの事は酒を呑んでいる誰も知らない。
龍はその女の横顔になにか惹かれた。もしや前世で縁でもあったか、それとも山に厭いて白砂青松のその景の中に行きたいのだろうか。己の心を試すかのように、龍は白い肌の上にふと休んでみた。ひとりで風に流れているよりも、人の町に行ってみるのもよかろう。
雄松雌松の上に龍が舞う白砂青松の景をしょって、女は色町へ帰っていく。
念為、参照:
さんし‐すいめい【山紫水明】
日に映じて山は紫に、澄んだ水ははっきりと見えること。山水の美しい景色の形容。「―の地」
はくしゃ‐せいしょう【白砂青松】
白い砂と青い松。海岸などの美しい風景にいう。
りゅうあん‐かめい【柳暗花明】リウ‥クワ‥
柳は繁って暗く、花は咲いて明るいこと。春の野の美しいながめ。
転じて、花柳街。色町。色里。
次は、「鬚」「香り」「島」で。
456 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/09 14:42
『わたしたちの学校紹介』
5年一組 藤代裕紀
私たちは今、京都市の北区にある紫明小学校という所に通っています。
皆さんはなぜ紫明というのだろうかと疑問に思われる事だからその由来を説明します。
紫明というのは四字熟語の山紫水明からとったものなのです。
山紫水明とは山は美しく紫に映え、川は清く澄んでいるという意味です。
私たちの学校はその熟語にふさわしく、比叡山という美しい山に面して、そして鴨川という川が近くを
流れているという素晴らしい環境の中にあります。
春には桜がらんまんに咲き、秋には・・・・・・
※ ※ ※
私はこの文章を読むたびに胸が痛くなります。
裕紀は学校の児童会役員に選ばれて、そして他校に向けて自分達の学校を自慢するという仕事を背負ったのです。
裕紀は友達や学校の先生達と一生懸命になってこの文章を書いてました。
そしてついに完成。裕紀はとてもうれしそうでした。素敵な笑顔でした。それが私が見る最後の笑顔だったとは
全く想像できませんでした。
その翌日、裕紀は無謀なトラックにはねられてしまい無残な姿へと変わり果ててしまったのです。
― ― ―
この話を口述筆記した私は今、白砂青松の地「天橋立」にたっている。なぜならこの裕紀君は名景を見るのが大好きだったそうだ。
せめてもの報いになるだろうかと思い、私は彼の遺影と共に旅をしている。
「次は柳暗花明の地だぞ・・」 私は遺影に語り掛けた。
ローカルネタすいません。 次は「落石」「海岸」「ペットボトル」で
わーおうしまった、非常に申し訳ない。三語をそのまんま入れなきゃいけなかったですね。すいません差替えです。
龍は風と化して漂っていた。千年の昔、都で暴れた龍はこの頃はめったに己の躯の在りかすら意識せず、鱗を透けるそれに変えて、風と共に流れていた。日に映じて山は紫、澄んだ水が谷を伝っている。谷は風を斜めに落とし、開けた野へ吹き送る。
森のはずれの春の野に、女たちが遊びに来ていた。花びら舞う渦の中、上気した肩を露に晒して、女たちだけで酌み交わしている。港の色町から来た女たちであった。柳暗花明のさざめく笑いは花びらより甘く、龍の鬚をかすめた。
一人の女は背に松のほりものをしょっている。明るい光の下で、薄い着物を透かして見えるのは、雄松雌松が並ぶ海岸の風景である。将来を誓った男が海に出て帰らないのだとも、だまされていたのだとも、ほんとうの事は酒を呑んでいる誰も知らない。
龍はその女の横顔になにか惹かれた。もしや前世で縁でもあったか、それとも山紫水明に厭いて白砂青松のその景の中に行きたいのだろうか。己の心を試すかのように、龍は白い肌の上にふと休んでみた。ひとりで風に流れているよりも、人の町に行ってみるのもよかろう。
雄松雌松の上に龍が舞う海の景をしょって、女は色町に帰っていく。
次は、「鬚」「香り」「島」で。
458 :
「落石」「海岸」「ペットボトル」:02/06/09 15:33
「だから、キミはね」
シオがユウキの頬を飲みかけのペットボトルで軽く叩きながら云う。
いつだってシオはユウキのことを生意気に唇をとがらせて「キミ」と呼ぶし、年上のいとこだろうがおかまいなしに頬を叩いたりするのだ。
いつものようなじゃれあい。海岸での。
「キミはさあ、いくら明日死ぬからって、だからってボクに何もかも求めるのはね。駄目だよ」
テトラポットから身軽に飛び下りたシオのスニーカーの下で、荒い砂利が小さく崩れて、その下に咲いている浜昼顔を埋めた。シオは片手にペットボトルを握り締めたまま、立ち止まる。花への落石。人の足下で砂利が転がっただけで、花は死ぬ。
そして、神の足下で砂利が転がったような、そんな些細な隕石が、明日この星と衝突する。
あと、二十三時間ある。
シオはテトラポットに残したユウキを振り返る。
潮風が髪を乱している。
次は、「鬚」「香り」「島」でよろしくお願いします。
459 :
「鬚」「香り」「島」:02/06/10 00:37
波の向こうに、陸地が見えてきた。
あの島に次の敵が待っているのかと思うと、徐凡は不安でたまらなかった。しかし、勝たなければ食事にありつけない。それが、この「一波闘武」での決まりだった。
浜辺に辿り着いて、徐凡は憂鬱な心境になった。敵は、白鬚を胸までたなびかせた老人だったのだ。
「いい体つきをしておるな。かなり内功の修業を積んだのじゃろう」
老人は満面の笑みを浮かべて言った。
「御老体に勝っても嬉しくありません。貴方が楊貴妃のような美女ならよかったのに」
徐凡は正直にそう告げた。
「いい香りだ!」
闘いのあと、老人はほどよく焼けた徐凡の臀の肉を、上機嫌で口に入れた。
次のお題は「銀河鉄道」「料理店」「税務署長」
460 :
「銀河鉄道」「料理店」「税務署長」:02/06/10 02:21
税務署長は"給仕募集"と書かれた仏蘭西料理店の前で立ち止まった。
「いらっしゃいませ」
彼は給仕長の、その慇懃な応対にたじたじになっていた。
「あ、いや、うへん、私は○○町の税務署長であるのだが、店長はご在宅ですかな」
「少々お待ち願いますか」
まもなくして店長が現れた。店長は若い、女性だった。それは、彼をさらに困惑させた。
「私が店長でございますが。税理上なにか問題がございましたでしょうか?」
「いや、問題というほどではないのですが。この、○○駅の領収証に記載されている、列車代というものについて、お窺いしたいのです」
店長の顔はほころんだ。それは税務署長を、わけもわからず不機嫌にさせるものだった。
「まあそれは。記載漏れですわね。給仕長を呼びますわ」
仏頂面の給仕長は、夏祭の屋台にて、給仕一人、石炭庫まで、と記した銀河鉄道当ての支払証を発行した。
「確かに。これで記載全て合います」
税務署長も不機嫌に答えた。
仏蘭西料理店長ののにこやから微笑みに見送られながら、税務署長は店を出た。
店構えは立派だった。署員が気遅れしたのも無理はない、と彼は思った。
つぎは「遊女」「たぬき」「酒」で。
461 :
「遊女」「たぬき」「酒」:02/06/10 04:15
人を斬った。胸がざわざわする。
背後の闇がわさわさと迫ってくるようで、とっても恐い。ううう。
「なんだかムラムラしてきた。遊郭へいこう」
空元気を出してそんなことを言ってみたら、ほんとにムラムラしてきたような気がしてきた。
遊郭へ向かった。ちょっと駆け足で。
遊郭の明かりを見つけてほっとする。いざ。
女の顔をまともに見もせずにことをすました。酒も飲まなかった。
やってるときにさっき殺したやつの顔が浮かんだ。おええ。
女とやるとちょっと落ち着いた。出て行こうとする女の顔を初めてまともに見て驚いく。
美人。
やる前にちゃんと見ておけばよかったとちょっと後悔。
女は出て行って襖を閉めるときに、こんなことを言う。
「おまえさん、人を斬ったね。」
ざわざわ。
わさわさ。
ざわざわ。
わさわさ。
発作的に刀を取って襖ごと女を斬る。
斬る。
斬る。
息切れしながら斬りすてた女をみてまった驚く。
遊女はたぬきだった。
俺は草原にたっていた。 (了)
次は「月」「こたつ」「東京」で。
東京って固有名詞か。すまん。
変更します。
次は「月」「こたつ」「空想」で。
463 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/11 10:44
age
こぽこぽ、とお猪口にお酒が注がれる。
「あ、こりゃどーも」
「いえいえ」
庭の雪の中に埋めておいた為に、きぃん、と脳まで冷える。
「くっは〜、やっぱ最高ですね、真冬の風呂上りに、こたつの中で冷酒飲むのって」
「親父くさいですねぇ」
苦笑しながらも、彼女の目は温かい。
彼女は開け放した窓を見上げ、楽しそうに目を細めた。
私は彼女の視線を追って、中空に輝く月を見詰める。
「おや、満月ですねぇ」
「風流ですね」
彼女はうっとりと月を眺めながら、そのふっくらした唇を開いた。
「時々、空想するんです。私も、あなたの傍にいられたら、と」
「いけません」
私は……半ば予想した答えとはいえ……頑固に首を振った。
「……そろそろ、おいとましますよ」
「次は、いつ頃に?」
何かを必死で訴えるような彼女のひとみから目を逸らし、私は嘆息する。
「あなたは生きなければならないのですよ……死神の私が次に来るのは……あなたが死んだ時です」
「楽しみに……待ってます」
私はもう何も言わずに、彼女の部屋を後にした。
えっと、次は「冬」「カスミソウ」「歯車」でお願いします。
466 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/11 20:18
age
「冬」「カスミソウ」「歯車」
「ねぇ、かすみ草って、いつ花が咲くの?」
「え?えーっと、あ、夏、夏だよたぶん。」
「ほんとに?」
「あ、いや、冬かな?冬かもしれない。」
怪訝そうな私の顔に彼はあわてて
「咲きたいときに咲くんだよ、きっと。」
もう、テキトーなこと言うんだから。
こんな奴が私の彼氏だなんて、どこでどう人生の
歯車が狂っちゃったのかしら。
まったく、私の将来こそカスミソウ・・・
次は「扉」「高嶺の花」「潮騒」
468 :
「扉」「高嶺の花」「潮騒」:02/06/12 18:05
「扉」「高嶺の花」「潮騒」
扉を開けると潮騒が迫ってくる。
かつては高嶺の花と囁かれた女が戸の影から歩み出て、木の間を滑るように伝う。老いた顔は仮面で覆われている。
小さな島には幾人かの使用人のほかに訪れる者もない。
けれど女には仮面が必要だ……一歩ずつの歩みの中で、彼女は大事な人と会っている。緑葉の中に神がいる。神は美しい若い女を好むと信じられている。
木の神を祀ったこの島に、十五の時に地主の父の手自らで捧げられてから、彼女は一周二十分ほどの小島を朝夕に歩いて耳をすませる。己を呼ぶ声が、ついに召す声が聞こえるかと。
しかし、今日、彼女の日々に異変が起きた。彼女は浜で瓶を拾った。中には手紙らしきものが入っている。
神に捧げられた身で、誰からとも知れない手紙を開けていいものかどうか。
次は、「鬚」「露」「柱」でよろしくどうぞ。
469 :
「扉」「高嶺の花」「潮騒」 :02/06/12 18:21
私はいま悩んでいる。
この一つの扉を開けようか、それとも開けまいかと迷っているだけなのだが、褐色に
錆びついた鉄製のノブが私の不安を促した。
水墨で『ロマンティックな部屋』と塗りたくられたプレートを提げた扉の向こうには、
一体なにが存在しているのだろう。
……単なる飲み屋かもしれないし、或いは、妖しいクラブかもしれない。この都会の中
で、何時でも目に付く雑居ビルからはそのような想像しか浮かばない。
いや、もしかしたら、この扉を越えれば、静かな潮騒と悠久の蒼海を一面に見渡せれる、
白い砂浜が待っているかもしれないし、妖精が戯れる森と草原が織りなす、アルプスの山々
に立っているかもしれない。そんなはずないのだと分かっていても、私のファンタジー的
思考は高嶺の花でさえ摘み取れそうな自由と壮大さを練り上げた。
この扉の先には何があるのだろう。……開けよう、この扉を。もしかしたら、本当に
この喧騒とした都会から逃げ出せるのかもしれないから。私の我慢は琴線のように切れた。
私は、寂寥とした感触のノブを回し、固く重い扉を押し開けた。
「アヒャーッ!!死ね死ねぇーっ!!!」
扉を開けた先には、快感と享楽の笑みと頑強な肉体を張りつけた男が待っていた。
きりきりと響く叫喚を上げる男は、赤黒く変色した斧を振り上げ、電光石火の一撃を
私の頭に叩きつけた。脳の片が混ざった鮮血が噴水のように湧き出てるのを感じた。
私を出迎えたファンタジーは、脳漿と血漿がぶち撒かれた壁と臓腑と肉片がばら撒かれ
た、異形の殺人鬼が住む阿鼻叫喚の部屋だった。
遅かった。次のお題は「鬚」「露」「柱」で。
470 :
髭・露・柱:02/06/12 22:39
柱は随分長い時間、同じ場所に立ち続けていた。
その周辺を覆うように数百メートル四方のオアシスが広がっている。
柱から少し離れた水場には、柱の民が生活する小さな部落があった。
柱には高さがあった。柱の民たちはそれを「鳥よりも高い」と形容した。
昼には照り返す光で、その先端を見る事は出来なかったし
夜には闇に紛れて、やはり先端は見えなかった。
ただ、遠く砂漠まで続く影だけが、柱に終わりがあるということを伝えた。
近くに寄って触れてみると、ひやりと冷たく硬い。
それでいて、力を入れると押し返してくるような強さを持っていた。
柱は無口だった。
柱の民の祖父達の時代には、草原は今よりも広がりを持っていた。
その頃には自給自足の生活を送れたが、今は草原は縮小し、
生活には外貨が必要だった。
部落に訪れた商人達は、口々にこの柱が珍しい鉱物で出来ていることと、
それが富を生むことを語った。
柱の民達は儀式を行い、出来るだけ高くまで登り柱を削り落とすと、
それを売って外貨を獲得した。
月が出ると柱には夜露が降りた。
ひとりの青年が柱に触れ、その冷たさを確かめていた。
青年は、黒い髪と髭を生やしており、その表情には自信が溢れている。
傍らには長い髪の少女が立って青年を見つめていた。
青年は少女に、自分が村を出ようとしていることを告げた。
少女は黙ってそれを聞いていた。自分もついて行くとは言わなかった。
青年はナイフを取り出すと、柱をグイとえぐった。
握り拳程の大きさの柱の欠片を少年は大切そうに布に包むと、
腰に下げた袋の中に収めた。
それは、ただの旅費としてなのか、自分の存在を証明するための手段なのか、
あるいは、柱の加護を得ようとしてのことなのか、少女には分からなかった。
月の光は柱の影を真っ直ぐに砂漠へと延ばしていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
即興文ってことで草稿ですが・・・。
次のお題は「ハンバーグ」「金星」「南京錠」で。
471 :
エヴァっ子:02/06/12 23:12
小生は天体観測が大好きである。
ついで、ハンバーグが大好きだ。
今日もベランダに出て、高い金を出して買った天体望遠鏡を覗き込んだ。
「やぁ、今日は金星がきれいだねぇ」
思わず独り言をもらしてしまうほどだ。
冷たい空気が、澄んだ夜空を小生に見せてくれる。
何とすばらしいことか。
すっかり冷えてしまったハンバーグを食べて、また天体望遠鏡を覗き込んだ。
真っ暗な中に、一つ浮かぶ金星。
その輝きは他の星なんかと比べ物にならないほどすばらしい。
小生の天体観測という趣味を馬鹿にする我が母にも見せてみたいものだ。
ふととあることを思い出し天体望遠鏡から目を離し、後ろを振り返ってみた。
そこにはまだそいつがいた。
業を煮やした我が母が、ベランダの戸につけた南京錠が。
………困ったことにそいつの口はしっかりと閉まっていた。
また、だんだん白く染まってきた空を天体望遠鏡で覗き込んだ。
「やぁ、今日は金星がきれいだねぇ」
―――一体何時になったら、入れてもらえるのだ?
小生の目に、涙が少しにじみ出た。
電波チックに逝ってみました。
次のお題は『地震』『ナイフ』『ロッカー』で。
男の家には代々つたわる開かずの扉があった。
扉は屋敷の北東に荘厳に普請されており、特殊な南京錠でその開閉を封じられていた。
金銀財宝が眠っているのではないかという噂から、その部屋は金の部屋――金星と呼ばれていた。
男の父親も幾度となく金星への侵入を試みたものの、錠を解くには至らなかった。
その世界では一目置かれる凄腕の鍵師を雇ってみたものの、
その鍵師ですら南京錠をあけるには力不足であった。
男自身も権謀術数を尽くし、ありとあらゆる手段を弄した。
大学の工学部に入り、そこで材料工学を学んだ。
大企業の研究室に頭を下げて加わらせてもらい、己の研究にいそしんだ。
鍵師の世界でも一から学んだ。
そして、苦節数十年。ついにその南京錠を破ることができた。
さて、男が金星に入るとそこは薄ら広いだけのかび臭い、君の悪い部屋だった。
金銀財宝などはどこにもなく、只、埃の積もった床に、
皿に乗った石のようなものと一枚の紙切れがおいてあるのみであった。
「あなたの好きなハンバーグ、子供たちに取られぬようここに置いておきます――母より」
ごめんなさい。書いたので…・。次のお題は471の『地震』『ナイフ』『ロッカー』で。。
『地震』『ナイフ』『ロッカー』
文章比較
DQN:「地震でロッカーが揺れてナイフが落ちた。」(5行未満で)
厨房:「ロッカーにナイフを置いた。その時地震が揺れました。」(30行くらいで)
みずし:「それはナイフのようにトガッたロッカーでした。人呼んで”さすらいのロッカー”」
え?みずしの文で「地震」はどこにいったかって?
そりゃもう、2ちゃんねる作家としてのみずしを根底からぐらぐらと・・・
次は「こぶし」「モンブラン」「ひきこもごも」
474 :
「こぶし」「モンブラン」「ひきこもごも」 :02/06/13 10:12
拳を壁に打ちつける音が続いている。
「また403号室のあの男だな」と夕子は思った。
1時間程前に彼とエレベーターホールですれ違った時の、
彼が自分を見る悲しそうな目を思い出して夕子は少し暗い気持ちになった。
夕子はベッドから起き上がると部屋の明かりをつけキッチンへ向かった。
軽く手を洗ってからゆっくりとタオルで手を拭くと、小さな冷蔵庫を開けモンブランの入った紙箱を取り出す。
左手に紙箱を持ったまま、右手で食器棚から皿とフォークを用意し、それらを持って夕子はベッドルームに戻った。
「躁鬱的というのか、悲喜交々至るというのか・・・・・・」
夕子はそう呟くと、モンブランにフォークを入れた。
403号室の男はいつもエレベーターホールに居た。少なくとも、夕子がエレベーターを利用する
午前7時30分と午後10時には、いつもその場所に立っていた。
男は、夕子が幸福な気持ちで帰った日には、階段の踊り場でダンスを踊った。
「なるほど、踊り場というだけあって、踊るには困らないスペースがあるものだな」
夕子はすれ違いざまにそれを見る度、いつも少し感心した。
今日のように夕子が疲れ切って暗い気持ちで帰宅すると、男は顔を伏せたまま拳を壁で叩き続けた。
拳が壁を叩く音は大きな振動となって夕子の部屋まで届き、彼女の気持ちが落ち着いて、
眠りにつけるようになるまで、いつも続く。
夕子はベッドの中でその音が聞こえると、一度起き上がって気持ちを落ち着けるのが習慣になっていた。
夕子は皿とフォークを流しに運ぶと、冷蔵庫から水の入ったペットボトルを出して一口飲んだ。
流しに戻り、洗剤を使って皿とフォークを洗う。泡が皿とフォークと夕子の指を覆っていく。
「明日も会社だ」
夕子はそう独り言を言うと、軽快に蛇口から水を出し食器についた泡を濯いだ。
もう壁を叩く音は消えていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次は「3257円」「常緑樹」「習字」
475 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/13 12:03
「3257円はねぇだろう。」
足元見やがってよ。買った時5万もしたんだぜ、このブルゾン。
なんで買取に消費税かけんだよ。ふざけんのは顔だけにしろよ。
マッカッカのモヒカン刈りの、目つきの悪い、黄色いTシャツに
ダボダボの汚ネェGパンの大男のバイトが、いかにもウザそうに
ゴミでも見る見てぇに俺のブルゾンを買い取り篭に放り込みやがり、
それからさも「お前にクレテヤルには分不相応だ」てな顔しながら
ムンズとつかみ取りしてヨコシヤガッテくださりました3257円を
それでも大事そうに今ポケットに仕舞い込んで、2度ほど確認して、
常緑樹が輝く花屋の前を横切り、習字のおばちゃんに挨拶して、
テレビ屋の前の定食屋に入った。
ああ、明日からガッコ行かなくていいんだよなぁ。
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次は「蟹缶」「合宿」「太陽」
476 :
「蟹缶」「合宿」「太陽」 :02/06/13 12:24
今日で合宿も10日目。連日の練習と照りつける太陽、うだるような暑さで皆の
疲労もピークに達している。朝食の時ふと誰かが漏らした「俺ここに来てから
ずっと蟹缶が食べたくてしょうがないんだよね」の一言に皆が俺も俺もと同意
した。不思議だが俺も含めたメンバーの全員がそう思っていたのだ。
その夜、翌日はオフにするということで遅くまで起きていると階下の世話人
の老夫婦の部屋から声が漏れ聞こえてきた。
「カニカーン・・・カニカーン、そう・そこが快感なの・・・」
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次は「黄色いTシャツ」「無職」「ADSL」
477 :
「蟹缶」「合宿」「太陽」 :02/06/13 12:45
さすがに魚屋が多いな。首を突っ込んで店の中をを覗くと
恥ずかしがり屋の蟹が、蟹缶(はにかん)でいる。
それにしても、なんて大きな蟹なんだろう。
「今日の夕飯、蟹ってことは無いよな?」
「無い無い。一泊3000円の宿で蟹が食えるわけが無い」
今夏の水泳部の合宿は、伊豆の××町で行われている。
伊豆と言っても、一応伊豆半島にあるというだけで、
伊豆の片隅にも置けないような、風情も何も無いさびれた田舎町である。
ただ、飯はうまい。新鮮な魚介類が山のように出る。
合宿は腹が減るので、皆、合宿(がっつく)ように食べる。
朝は5時に起きて体操をする。それから海沿いを8キロ走って、
やっと朝飯が食える。午前中は学習時間ということになっているが、
実際は自由時間のようになっている。午後からは海で泳ぐ。
こんな生活が、あと5日も続く。
太陽に虐められた背中が、早くもい太陽(痛いよう)と泣き言を言っている。
次は「黄色いTシャツ」「無職」「ADSL」で
478 :
「黄色いTシャツ」「無職」「ADSL」:02/06/13 19:29
連続するとボディブローのように効いてくる。チアキは歯をくいしばって踏み留まろうとした。
しかし、姿の見えない怪人は攻撃の手を緩めない。
疲れを知らないのか、よっぽどエネルギーが有り余っているのか。
いったいこの怪人は誰なんだ。こんなにオヤジギャグを繰り出すとは。しかもネット上である。しかも小説の即興三題話だ。きっと黄色いTシャツを着て無職で、しかしADSLにはつながっているような男だろう。
落ちるべきか、堕ちざるべきか。チアキの額に汗が浮んでいる。
次のお題、「鬚」「ターコイズ」「柔らかな」でよろしくどうぞ。
479 :
「鬚」「ターコイズ」「柔らかな」:02/06/14 11:18
「君の誕生石は何かな?何でも好きな石をあげよう」
鬚のおじさんは、ニコニコ顔を崩さずに、じっとモモコを見ています。
(子供にタダで宝石をくれるなんて、なんだかおかしいわ)
いぶかるような目でおじさんを観察しながら、慎重にモモコは答えました。
「ターコイズです」
「ほほぅ!」
モモコの答えを聞いて、おじさんは満足げに頷きました。
きっとモモコがアメジストと答えてもトルマリンと答えても、
彼は満足げに頷いたことでしょう。
「ふむふむ。約束は守らねばならんからな」
おじさんは上着のポケットに手を入れると、柔らかな布にくるまれた
水色の小さな丸い石を取り出しました。思わずモモコも覗き込みます。
「これがターコイズなの?」
モモコは自分の誕生石がターコイズという名前なのは知っていましたが、
それがどんな色をしていて、どんな形なのかは知らなかったのです。
「どうだい?きれいだろう?」
モモコは、うっとりとしながら頷きます。
「おじさんの家に来れば、もっと沢山の石があるんだがなぁ。
君にも少し分けてあげられるよ」
モモコは石の持つ魔力に、すっかり取り付かれてしまっていました。
後の警察の聞き込み捜査で判ったことなのですが、
モモコと同い年くらいの女の子が、中年の男性と手を繋いだまま
森の方へ歩いていったのを、学校を早退した病弱な女子中学生が
目撃していたということでした。
こうしてモモコは失踪し、誰にも行方が分からないまま、七年たち、
民法第三十条によって、けっきょく死亡の認定をうけることになったのです。
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次は「セックス」「嘘」「ビデオテープ」
ジリジリと音を立てて、青白い画面が再生した。
あたしは煙草を燻らせながら、暗い部屋の中であたしを見てる。
幽かな電子音をかき消す喘ぎ声は、確かにあたしのものだった。
情けない声をあげ続けている自分を、何処かであたしは否定した。
あたしの体をまさぐる手は本物だっただろうか。
あのめくるめく官能は真実だっただろうか。
嘘に塗り込められた恋をまた繰り返してしまった。
単純なビデオデッキみたいに。
涙なんて流すほどには弱くなれない自分を、軽蔑して、好きになった。
彼との愛を逐一記憶した気分の悪いそれを、あたしは乱暴に取り出して。
開いた口から、真っ黒な証拠を引きずり出す。
死んでしまった過去を足元に見下げ、やっぱりあたしは哀しんだ。
人並みでいられる確認みたいな後悔じゃあ、明日の朝には無くなっている。
ふと、振りかえって思うのだ。
砂嵐を映し続ける、小さなテレビに。
さっきまで映っていたあたし。
セックスをしていたあたしったら、なんて綺麗なんだろうと。
次のお題「少年」「飛行機」「入道雲」
481 :
「少年」「飛行機」「入道雲」:02/06/15 14:45
「夕立、来そうだね」
少女は黒々と濁った入道雲を見つめながら云った。
少年は黙ってハワイアンブルーミックス風味のかき氷を頬張っていた。
「このかき氷、やっぱりイチゴ味にすれば良かったね」
少女の手にも少年と同じ味のかき氷があったが、その味を不満に思った。少女は少年に
好意をよせている。二人ともイチゴ味が好きだったが、少女が冒険したいと云い、二人は
見かけないこの味を注文したのだ。苦い味がするが、二人の間に流れる空気も同じであった。
二人は川沿いの土手に座って、飛行機が入道雲をつき抜けて飛行しているさまを眺めて
いた。かき氷はまだ半分くらいも残っている。いよいよ雨が振って来そうだとみた二人は、
何処か避難できそうな場所を探そうと立ちあがった。そのとき、入道雲から白い緒を引い
て飛んでいるセスナ機から、何かが飛び出したのに気付いた。
その物体は徐々に大きくフェードインしていくと、それは人間だと二人は認識できた。
人間は凄い速さでこちらのほうに向かって落下している。
「グッドダァァァイヴ!!!!カモン!マイザッアァァァァァァァァァスッ!!!」
その人間は気持ちの悪い音を大きく立てて地面に激突し、ぐしゃぐしゃに潰れた。周辺
にぶち撒けられた血は、少年と少女の全身を赤く染め、かき氷にも降り注いだ。
「これでイチゴ味が食べられるね」
呆然と立ち尽くす少年を余所に、少女は美味しそうにイチゴ味のかき氷を口にした。
次のお題は「森羅万象」「有象無象」「色即是空」
482 :
「森羅万象」「有象無象」「色即是空」:02/06/15 16:49
都会の人間には信じられないかも知れないが、
京都の田舎辺りの中学では、坊主が住職の仕事と掛け持ちで、
教師ヅラをしている事も珍しいことでは無い。
実際、俺の担任をしていた“木魚”というアダ名の国語教師も坊主だった。
木魚は罰を与えることが好きな教師だった。
教科書や宿題を忘れたり、テストで赤点を取る生徒がいると、
いつも嬉しそうな顔で漢字の書き取りを命じた。
書かされる文字は、諸行無常、森羅万象、有象無象、色即是空といった
仏教の匂いがするものばかりで、漢字練習の名を借りた写経のようにしか思えなかった。
頭を短く刈り込んで簡素な格好はしていたものの、木魚は生臭坊主だった。
給食に出たものは肉や魚でも残さずに食べたし、
蝿や蚊などが飛んでいれば、当たり前のように打ち殺した。
実際に俺が見たわけではないが、女子を淫らな目で眺めていたこともあったという。
一度プリント用紙の裏に、墨で「なまぐさ」と大きく書いて
教卓の中に入れて置いたのだが、これは特に反応が無くガッカリさせられた。
先日クラス会があって、木魚と久しぶりに顔を合わせた。
数えてみてから8年間も会っていない事に驚いたのだが、
昔から坊主頭なので年をとった感じがしない。坊主の役得だと思うと可笑しくなった。
二次会では、木魚は当然のように酒を飲み、上機嫌で俺達を叱った。
今では出世して教頭になっているらしいのだが、
それでも、頼まれればお経をあげに遠くまで出かけて行くのだという。
そうして金も酒も、貰えるだけを喜んで貰ってくるのだそうだ。
教師らしくも坊主らしくもないが、底抜けな人間らしさに開いた口が塞がらなかった。
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エッセイ風だけど全部ウソ。
次は「小石」「綿棒」「ハムサンド」
483 :
「小石」「綿棒」「ハムサンド」:02/06/15 17:47
山の端は朱色(あけいろ)に染め上げられ、夜の帳が滲み出る空の果ては涼しげだ。
名も知らない小さな白い花が、堤防の斜面を埋め尽くしていたが、もう見えない。
その白い花を見て綿棒のようだねと言った、君の言葉が忘れられない。
二人で通ったあの店はもう跡形もない。
二人で食べたハムサンドの味、今でも覚えていますか?
十数年振りに郷里は、まるで私を拒絶するかのように、無言だった。見知った顔は身内しかいない。だからだろうか、葉月の日差しにも負けずに賢明に生きている桜並木、その葉桜の木陰で君の幻を見てしまったのは。
互いの視線だけが行き交い、すっかり陽は落ちてしまった。いや、言葉はいらなかったのかもしれない。そう、言葉は入らなかったのだ。
「故郷は変わり行くもの。でも、きっと新しい何かが芽生えるはず。一緒に探してみませんか?」
君の幻が言った。私は返事の変わりに、子供の頃のように小石を蹴り上げた。
次は「W杯」「市町村合併」「待ちガイル」
484 :
小石、綿棒、ハムサンド:02/06/15 17:51
もし、あたしがあの時泣いていなかったら
この綺麗な小石はあの人の手にあったと思う。
爪からはみ出した、空みたいな色のマニキュアを、白い綿棒でぬぐいながらふと思う。
あの日、あたし達が川原を歩いていたら、なんだか綺麗な小石を見つけた。
そのシチュエーションがあまりにも切なくて、夕焼け具合があまりにも切なくて
あたしは泣いてしまったんだ。
あの人は困ってこの小石を渡し、一生懸命あたしをなだめたのをよく覚えている。
・・・会いたいなあ。あたし、伝えてないのに。伝えたかったのに。
せっかく空色のマニキュアを塗ったんだから、あの人に会いに行こう。
あの人の大好きだった、セブンのハムサンドを買って、会いにいこう。
あの人がいなくなって、もう3年が経つ。
そろそろケリをつけなきゃ・・・。
次は「お菓子」「サンダル」「紫陽花」
485 :
ごめんなさい!:02/06/15 17:53
次は483さんのでお願いします。
486 :
次は「W杯」「市町村合併」「待ちガイル」:02/06/15 19:41
その日、日本はW杯に熱狂していた。
すくなくとも、その辺鄙なふたつ田舎町を除いて。
そこはあまりにも田舎で、サッカーのさの字さえ知らなかったし、それ以前に、いまここで、2つの田舎町の命運を決する戦いがひそやかに行われようとしていたからだ。
もちろん、種目はサッカーではない。
格闘技だ。
それぞれの田舎町が1名の代表者を立てて争い、負けたほうが勝ったほうに市町村合併されてしまう。
辺鄙なド田舎のくせしやがって、両方の町もそりゃあプライドだけはタカダッカーで(縄文時代から続く由緒ある町です。ほんとかね)、しかも、まあ、ここに書けないようなつまんない閉鎖的ないざこざで憎みあっていた。
つまり、政治的な理由で吸収されるのはしかたないにしても、主導権はこっちの町が握るぞと両方譲らず、こんな代理バトルを開催することになったのだ。
いやはや、田舎モノのリクツはよくわかんないね。
H町の代表者は、ダレあろう、ガイルくんだった。得意技は「待ちガイル」。
そんなわけで、相手が猪突してくるのを、いつものように待ってたんだけど、待っていた場所が悪かった。
なんか地面が振動するなと、ふと見てみたら、なんと線路の上だったんだね。
赤字路線だったけど、このときはまだ廃止されていなかった。
それが振動してるってことは、そう、電車がすごいいきおいでやってくるってことだよ。
さあ、大変だ、ガイルくん。このままじゃあ轢かれちゃう。
だけど、待ちガイルの戦術を解いたら、あっという間にガイルくんやられちゃうよね。
なんたって相手は天敵野生児ブランカくんだもの。ローリングサンダーで一撃昇天、やっぱり死んじゃう。これは困った。
焦るガイルくん。もう顔はまっつぁお。汗がだくだく吹き出てきたけど、どうするかまだ決めかねているみたいだ。
そうこうしているうちに、だんだん振動は激しくなって、驀進してくる電車の姿さえ見えてきた。
さあ、どうするガイルくん!
以下次号!!!
487 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/15 19:41
次は「お菓子」「サンダル」「紫陽花」 で。
488 :
「お菓子」「サンダル」「紫陽花」 :02/06/15 21:00
窓辺では、紫陽花が雨に濡れているのが見える。彼女は台所で夕飯を作っている。
僕はただ紫陽花と彼女を交互に眺めているだけだ。
傍のテーブルの上に転がっているのは、数種類のお菓子と、CD、それから食べかけのパン。
「ねえ、ちょっと味みてよ」僕はその声が僕にかけられていることを一瞬理解できなかった。
「……俺? いいよ、任せる」
「任せるって……、いい加減ね」彼女は台所からちょっと拗ねたような声をだす。
「いい加減なのは性分なので」「もういいわ、じゃあ、適当に作るわよ?」
僕は、ああ、と曖昧な声をだしてから、ポケットをまさぐって、立ち上がった。
「どこ行くの?」台所のライトは彼女のうつむき加減の顔を映し出している。
「ああ、タバコきれちゃったから……」彼女は料理を見続けている。
「そう。あと15分くらいでできると思うから」
「OK。それまでには余裕で間に合うね」
台所の横を抜けて玄関を出るとき、彼女が後ろを向いて、いってらっしゃい、と言った。
僕は手を挙げて、サンダルを履くと、雨に濡れきっている街を、傘とともに歩きはじめた。
次は、「ファンデーション」「かぼちゃ」「ダイレクトメール」で。
489 :
「ファンデーション」「かぼちゃ」「ダイレクトメール」:02/06/15 23:14
郵便受けにはダイレクトメールが溢れていた。どこで、住所を知られたのか。
どんなに引っ越しても、この種のどうでもいい郵便からは逃げられず、そのくせ
大事な手紙は届かない。屑のような紙束から化粧品の試供品だけを除いてあとは
本当の屑にした。
買い物の袋が肩に重い。スーパーのビニル袋から野菜がはみ出る自分が嫌いだ
った。かぼちゃとミネラルウォータが重い。苦労して運んだかぼちゃは馬車には
化けず、裏ごししてスープに化かした。
食事の後、試供品のファンデーションをつけて、再び郵便受けを覗きに行ったが、
手紙は届いていなかった。
「組み合わせ」「山」「スピード」
「組み合わせ」「山」「スピード」
こういうものはスピードが大切だとぼくは思います。
いや、ほんとに、時間は貴重ですからね。
つまりなんというか、ぼくには他がないだけかもしんない。
らしくないけど、たまにはぼくだって自分の立場にあせっちゃうんです。
だから今日はとても考えました。山のような組み合わせを考えた末に
めぼしいところを塗りつぶしました。
だーっ!とひと通り塗り終わると、模様がとてもきれいんです。
マークシートのこういうのって、キカガク的っていうのかな?
ジマンじゃないけどよく当たるんですよ。ぼくってテストの神サマ!えっへん!
でもこの日はだめだったみたい。おかげで大学落ちちゃいました!!
!
つぎは「感謝」「感想」「あつかん」
かぶったけど勿体無いから書き込みました
次のお題は490さんの「感謝」「感想」「あつかん」で
僕は、山を登っていました。学校の遠足という事で仕方なく山を
登っているのですが、本当に辛い……。周りのみんなが口々に
「水筒の水は、喉が渇いたからといって一度に沢山飲み過ぎると
すぐに無くなってしまい、後々辛くなるのでなるべく節約しよう!」
と言うので水が飲めない。何だか悲しくて泣きそうになってしまうのを
ぐっとこらえました。
そしてやっと頂上に着いたので同じ班の人達と昼食を食べる事になりましたが、
僕と同じ班の山野君は物凄い肥満児で、肥満児が発する悪臭を嗅ぎながらの
昼食に違和感を感じた。そこで、班の皆に
「山野君は悪臭がひどいので、一人だけで
昼食を取ってもらうというのはどうか?」と提案したら突然、山野君が
立ちあがりました……無言で突進してくる山野君の醜い顔面に
鋭いスピードのパンチをお見舞いした。山野君が悪いのではありません。
ただ、物事の組み合わせと言うべきものが、たまたま上手くいかなかった
というだけの事なのです。
物事には、様々に良い組み合わせ、悪い組み合わせというものが存在し、
我々は自分自身の力で<良い組み合わせ>を
勝ち取ってゆかねばならないだろう。
492 :
「感謝」「感想」「熱燗」:02/06/16 01:32
「あんたの働きには感謝するよ。なあ、帰ったら熱燗で一杯やろうや」
同僚がべろんべろんの体たらくで私に微笑みかける。
まだ飲むのか、この無頼漢。私は投げやりに賛同する。
「ああ、そうしようか。幸い俺は一人暮らしだ。俺んちで飲もうか」
「アハハ、帰るのはそこじゃないって」上ずった声が夜道に響く。
「すると君の家か。しかし君の家には家族が……」
「ちがう」
「じゃあ、どこなんだ」酔っぱらい相手に段々といらついてきた私は同僚を睨んだ。
そのとき同僚のどす黒い瞳がわずかに光ったように見えた。
沈黙。月が雲に隠れた。野良猫の鳴き声が聞こえる。女のすすり泣く……。
嫌だ。こんな空間。早く! 早くこの静寂を……。
「どこなんだ!」
「アハハ」不意に同僚の顔色が変わる。「……土の中だ!」
背筋が凍りついた。突然、暗闇から腕が伸びてきて……。
ポン、と私の肩を叩いた。「アハハ。感想は?」同僚の白い歯が闇夜に浮かんでいた。
次のお題は「停滞」「威勢」「言い得て妙」でお願いします。
493 :
「停滞」「威勢」「言い得て妙」:02/06/16 04:27
大抵の教師にはシャドーネーム、つまり、決して本人の前では口に出来ない
あだ名がついていたりする。生活指導にうるさく、エネルギッシュで暑苦しく、
威勢の良い体育教師は、ジョナサンというシャドーネームがつけられていた。
なんのことはない、眉毛がカモメだから付けられたのだが、カモメのジョナサンとは
なんとも言い得て妙ではないか。
そんなジョナサンは、先月、生活指導に燃えるあまり、一人の生徒を殴ってしまい、
懲戒免職となってしまった。ちょうど世間は、景気が停滞中、手痛い失業であろう。
次のお題は、「地図」、「代数」、「売春」で。
494 :
「地図」「代数」「売春」:02/06/16 10:41
−地図があっても道に迷う者はいる。
アキオは何時間も同じ場所をぐるぐると回っていた。
赤レンガの建物の前に立っているロシア人の売春婦も、
最初の2、3度は、アキオが通りかかる度にしつこく声をかけてきたのだが、
さすがに5分ごとに同じ場所を通るアキオを不気味に思ったのか、
今では、アキオと目を合わさぬように努めているのが明らかであった。
頭の上をハゲタカが飛んでいる。死肉を食らう嫌悪すべき鳥である。
鳥の視線で見下ろせば−アキオは思った−俺は阿呆のようだろう。
鳥のやつは、なんだって俺が同じ場所を離れないのか、不思議に思うに違いない。
しかし実際は、立ちんぼうの売春婦から見ても、アキオは阿呆に見えた。
迷子などというものは真剣なのは当人だけで、道をよく知った人間からすれば、
その真剣さがかえって滑稽に見えるものだ。
アキオはぼんやりとした頭で中学時代の出来事を思い出していた。
彼は代数が解からず、数人の級友達と共に教室に残されていた。
「ええ?どうして解からんのかね、君たちは。解法は全て、教科書に出ているのですよ」
大声で怒鳴る教師は教える事に疲れきっていた。生徒達も教わる事に疲れていた。
教室に幸福な人間は、一人も存在しなかった。
「また、赤レンガの建物だ・・・・・・」
これで何度目だろうか。何故地図があるのに迷うのだろう。
アキオは力無く道の隅に座り込んだ。
いっそあの売春婦を買ってしまおうか・・・・・・しかし、断られるかも知れない・・・・・・
目も合わせてくれないのだ・・・・・・きっと声を掛けても無下にされて終わるだけだろう・・・・・・。
頭の上をハゲタカが弧を描いて飛んでいる。一羽、二羽、三羽・・・・・・随分増えたな。
アキオには、全てがどうでもいいことのように思えた。
眠ろう。
------------------------------------------------------------------------------
ごめん、長いね。
次は「バター」「ライオン」「クイズ」
495 :
「バター」「ライオン」「クイズ」:02/06/16 14:19
「あれは絶版になったんだよ」私はいった。
「ええー。うまそうだったんだよな。あのバター。なんでだよ」
「サベツモンダイとかやらに発展したからな。まあいいじゃねーか。
せっかく動物園にきたんだから、ドーブツ見ろ」
私がそうはいっても、まだ考えてるのかライオンの檻の前で「虎のバター」
とかうめいてる。
「私は、あれよりもグリム童話の「おいしいおかゆ」のおかゆのが食べたかったよ」
つーと「何それ」とか答えやがった。くそ、死ね。クイズしてんじゃねーんだぞ。
町ん中をおかゆ食べながら掘り進んでいくんだよ! うまそーなんだよ!
ふと、目があった。恨めしそうな顔であいつが見てる。なんだ、話を仕掛けたのは
お前だろうが。
「あのさ、今日はデートなんだよ、判ってる」
「おう!」と勢いよく答えたら、私はいきなりキスされた。
次のお題は「夕焼け」「腹案」「アンデルセン童話」
496 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/16 15:00
「アンデルセンの童話って読んだことある?」
「赤頭巾とかだろ、知ってるよ」
「あははは、違うよそれグリムだよー」
「同じだろ」
「だって違うもん。それにちゃんと本で読んだことがあるかってことなんだけど」
「本? 本ねえ。絵本じゃなくてだろ? 売ってるのか童話の本なんて」
「売ってるよ。読んだことないんでしょ?」
「まあ、ないな。そう言われると。で、それがどうしたの」
「マッチ売りの少女とか話は知ってるけど、文章で読んだことないなあと思って」
「それだけ?」
「そうそれだけ。でも気にならない? 読んだことない本ってきっといっぱいあるんだよ」
「全然気にならない」
「ふふふ……」
「なんだよ、急に。ダイジョーブか?(アタマが)」
「そんなあなたにわたしは一つのフクアンを持ってきたのです!」
「フクアン?」
「そうフクアン」
「ああ、腹案ね。ムズかしい言葉使うなよ」
「じゃーん! これなんだ?」
「お、すげえ。なにこれどうしたの」
「ご家庭で楽しく読書の練習ができる6〜12歳対象の童話文学セット!
全26巻でお安く配布しております。今ならなんと14万8千円!!」
「は!? 高けぇよ!! おまえコレ買ったの?」
「ううん。親戚のオジサンちで買ったんだけど、いらなくなったからって貰った」
「はー。こんなんが15万するんだ。馬鹿みてえだな」
「ねえ?」
「ん?」
「これをあなたにプレゼントします」
「あ? いらねーよ。本好きじゃねーもん」
「そういうあなたの前回の国語の点数はー?」
「あ、まあな」
「ちょっとでも文章読む練習しなさいよ」
「いらね」
「せっかく貰ってきたのにい」
「ご苦労」
「うー」
「あー、じゃ、ま、もらっとくよ」
「オッケ! ね、今日はなーんか夕焼けキレイじゃない?」
「まあな。いつも見てるけどな」
次は「腹痛」「望遠レンズ」「カルピスウォーター」で。
固有名詞だったので、「腹痛」「望遠レンズ」「乳製品」に訂正。
498 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/16 15:55
ひどく寒いおおみそかの夕暮れでした。こんこんと降りつづいた雪はやんで、
あたりは夕焼けの色にそまっていました。
みすぼらしい姿をした一人の少女が重たいかごをかかえて歩いていました。
少女はふと道端に盛り上がった雪のかたまりを見つけました。金色にちらちら
と輝くものが、白い雪の下に見えていました。不思議に思って両手で雪をかき
のけると、金の王冠をかぶった裸の老人が倒れて埋まっていました。老人は寒
さのために全身が真っ青です。
「暖めてあげなければ死んでしまうわ」
少女はかごからマッチを取り出して火をつけました。マッチはしゅっと音を
たてて燃え、やがて消えてしまいます。少女はすぐにもう一本のマッチに火を
つけ、老人の冷え切った体を暖めようとしました。少女の仕事はマッチ売りで
したから、かごの中には沢山のマッチがありました。けれども、マッチの弱い
火で一人の死にかけた老人を暖めるのは難しいことでした。
「もっと燃えるものはないかしら」
まわりを見渡すと、どこまでもつづく雪野原で、燃やせそうなものはありま
せんでした。少女は老人にぴったりとだきついて、自分の体温であたためてみ
ようと思いました。少女はするすると自分の着物を脱ぎました。そして、老人
の体を抱いた少女はびっくりしました。裸だと思っていた老人が、何かを着て
いる感触がするのです。目に見えない服を着ているようなのです。手ざわりで
さぐると、とても上等なガウンのような感じでした。少女は見えない服を老人
から脱がせると、まるめて火をつけました。見えない服は、はげしい炎をあげ
ると、勢いよく燃えました。いつまでもいつまでもさかんに燃え続けました。
おかげで、すっかり冷たかった老人の体はじょじょに温かくなり、肌もあかく
なって、意識ももどってきました。
少女はまずしいわが家に連れかえって、老人の介抱をつづけました。1ヶ月ほ
どで、老人はすっかり良くなりました。なんと驚いたことに、老人はとある国
の王様だったのです。少女はその国のお城に電報を打ちました。
裸ノ王様ヲ雪ノ下ニ発見
お城からはすぐに返事がきました。
命ニ別状ナイカ 栄養状態ハ良イカ スグ救援ニ向カウ
少女は返事を出しました。
王様元気イツモ満腹案ズルナ
お城から迎えの家来たちがやってきて、王様は少女を連れて国に帰りました。
二人は末永く幸せにくらしたそうです。
アンデルセン童話補遺より「はだかのマッチ売りの少女」
499 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/16 16:41
稟議14-006
大ニッポン納豆株式会社宣伝部
新製品「J納豆」CM企画案
納豆は国民食(一部地方を除く)である。日本食文化の清華である。
今回のCMでは、食品として安全面での、納豆の乳製品に対する優位性を強調したい。
夏の広い草原に100名の人を立たせる。
半数の50名には、新製品J納豆を食べていただく。
残りの50名には、牛乳をはじめ乳製品を食わせる。
そのまま時間が経過する。何時間でも待つ。
日本人には乳製品に対する耐性が弱い人が多い。
大草原であり、さえぎるものもない。トイレもない。
乳製品を食べた人の多くが、お腹をこわしてくる。腹痛がはじまる。
表情がこわばる。脂汗が流れる。腰をおろす人もいる。
納豆を食べた方々は涼しげに微笑している。
納豆の乳製品に対する完全勝利!
カメラの望遠レンズが、その差を冷徹に記録する。
稟議結果 却下 給料もらいたかったら、もう少し考えるように。
500 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/16 16:48
499でした。「相続財産」「引きあげ」「スケッチ」
501 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/16 21:27
「もうっ、王様ったらエッチ・スケッチ・ワンタッチなんだからぁ。」
高級娼婦のエリスは、子供のような飛び切り可愛らしい声でじゃれあっていた。
エリスが国王に近寄ったのは、相続財産目当て以外になのものでもない。
一国の王ともなれば、目もくらむばかりの財産を集めているに違いない。
相続は直系の子孫にのみ行われるが、王の妻は不妊症で皇室はどうしたものかと
頭を悩ませているともっぱらの噂だ。
王様の子を何が何でも身篭って、子供を認知させちゃえば、薔薇色の人生が待っている。
エリスはそう信じて、国王と愛し合った。
事が済んでも、エリスは王様に媚を売りながらおしゃべりをしていた。
「ねぇ、王様は最近、何か嬉しいこととかありました?」
「そういえば、最近、正妻が妊娠したらしくってなぁ・・・」
こりゃ引きあげだ。
次は「爆竹」「苔」「理解」。
「嗚呼、太鼓が聞こえ出したねェ」
と母が言った。
耳を澄ませば幽かに、遠くの神社から夏祭りの太鼓の音が響いてくる。
浴衣の裾を払っていった夜風。其れに混じる日暮の声が、更に心地よさを増長した。
僕は忙しく動く母の姿を見送って、また夕闇に紛れた赤黒い空を見る。
久々の帰省。懐かしさの余韻に浸っていると、姪っ子のカナが転がる様に僕の傍へ走ってきた。
「佐々木ん兄ちゃん。祭に行かん?」
まだ6歳の幼い手が、僕の新品の浴衣を引っ張る。
皺になってもいけないので、カナを連れて祭に行った。
村の小さな氏神を祭る神社は、恐らく普段では考えられない賑わいだった。
何処其処で派手な爆竹が鳴り、人々の笑い声が聞こえる。
神社の世話役に引っ張り出された親父が、へべれけになって笑っているのが見えた。
カナは夜店の金魚掬いに躍起になっている。
僕はカナに行く先を伝えて、その場を離れた。
村の全員が親戚のようなこの土地じゃあ、カナを攫う悪い奴らもそうそう入り込めないだろう。
さて、カナを手を離れ暇になった僕に、子供の頃良く遊んだ竹やぶが目に飛び込んできた。
神社のちょっと裏手に密生している竹林。苔むした実にじめじめした場所だった気がする。
そういえば、子供の頃。
僕は思い出していた。子供の頃、あの竹薮でふらふら光る何か、を見たことがある。
其れは暫く空を泳ぎ、ふらっと消えてしまった。
消えていた記憶が呼び戻されて、僕は竹林に足を運ぼうとした。
アレが何か確かめてやろうと、今、思った。
足を踏み出したその時。
「いかんよ。」
カナの声がした。振り向けば。
「いかんよ。兄ちゃん。お狐さんに怒らるうよ。」
カナがじっと見ていた方向を僕も省みた。しかし、其処には何もなく。
カナの手が僕の袖をそっと引いたのがわかった。
カナを振りきる事も、其れを確かめる事も諦めて、僕はカナの手を取った。
そして、僕は背を向ける。
理解し得ない暗い影の刺さるような視線だけ感じながら。
長くなっちゃった・・・・。
次のお題。「薔薇」「憂鬱」「午後の雨」
503 :
「薔薇」「憂鬱」「午後の雨」:02/06/17 00:56
雨というのは、なんて素敵なんだろうと思う。
雨が降って憂鬱?お出かけできない?洗濯物が乾かない?
私ならまさかーって感じ。だって雨ほど楽しいものはないのだから。
特に夏の夕立。突き刺すような午後の雨。
嫌な事も、うるさいお母さんの怒鳴り声も、全て洗い流してくれる。
どんな事にも負けない、強い強い、雨が好き。
でももっと好きなのは、その雨をまるで惹きたて役のように背景にして、私の部屋の
窓際に咲いている、青い薔薇を眺める事。
高貴だと思う。そして有無を言わせない美しさだと思う。彼女の棘は、さながら大女優の品格の表れのよう・・・。
全てを消し去る豪雨を背に、一輪だけ咲き誇る青い薔薇を見るのが好きなのだ。
私もこうありたいと、思えるのだ。
次のお題は、「刹那」「闇」「綺麗」で・・・。
504 :
「爆竹」「苔」「理解」:02/06/17 01:15
300台の車が停められる巨大デパートの屋外駐車場
その中央に一晩のうちに新円を描くようにビッシリと生えた苔
いくら綺麗に掃除しても一晩で再生するという謎
再生する度、円周が巨大化していくという事実
勢いを増しながら外部へと侵食していく苔
慌てて事件を報じ出すメディアと理解に苦しむ植物学者達
苔によって覆い尽くされた町と覆い尽くされようとしている隣の町
交通機関は麻痺し移動手段は徒歩、さまざまに飛び交う苔に関する仮説
宇宙人の攻撃又は自然からの報復?終末の予感に怯える人々
暴徒によって破壊された町、鳴り響く爆竹と女の悲鳴、割れたガラス
船や航空機によって海外に運ばれる胞子
驚くべき速度で苔によって覆われていく地球
化学薬品による駆除の失敗により生み出された苔の変種
人体への苔の寄生による死亡例の報告
全身を苔に覆われた死体の山、滅び行く人類と巻き添えをくった動物達
壊れかけたラジカセから流れる、人類最期のラジオ放送、田園交響曲
-----------------------------------------------------------
被っちゃったんで、次は「薔薇」「憂鬱」「午後の雨」
ソーリー。次のお題は、「刹那」「闇」「綺麗」で・・・。
506 :
「刹那」「闇」「綺麗」:02/06/17 03:49
かくして、かの摩利信乃法師は虚空に出現した黒機兵に乗り込んだのでございます。
堀川の若殿様はさほど驚いた容子もなく、懐より扇子を取り出しなさると、
「成る程、三千世界は広大無辺じゃ。摩利支天の妖術、確かにこの眼で見せて貰った」
と、仰有いました。
その刹那、あたかも周囲の闇を切り分けるように、八方より飛来した光の群れが御庭の一点をとらえたと思いますと、瞬く間に牛車ほどの大きさにまで膨れ上がり、黒機兵と同じく、人の形に姿を変えたのでございます。
「じゃが、わしが、その方と同じ法術を修めたと聴けば驚くかな?」
若殿様は、恐ろしいほどの笑顔を、沙門の乗った黒機兵に向けて仰有いました。
その綺麗なことと申しますと、桟敷や御簾際にいた女房たちが、一斉によろめき倒れたほどでございます。
「雅平よ。姫君は渡さぬ」
若殿様は、そう仰有いながら、白機兵の中に乗り込みました。
えーと、芥川龍之介がロボットヲタクだったら、という設定で書いてみました。
次は「サボテン」「聖櫃」「町奉行」。
507 :
「サボテン」「聖櫃」「町奉行」:02/06/17 16:23
町奉行の狩野は多忙である。日々、町人の訴えに耳を傾け、采配を下す。新
緑の美しさに目をやる閑もない。気づけば汗ばむ季節になっていた。にじみ出
す額の汗をぬぐいつつ、親不孝をしたという道楽息子の件をなんとか裁き、密
通をしたのしないのと犬も喰わぬ夫婦喧嘩を調停した。その次に狩野の前に現
れたのは、一人のバテレンであった。
「いかがいたした」
毛唐老人は目をしばたいて訴える、----聖櫃を取られました。私にとっては
大事な物です。信仰のない者には、ただのガラクタ箱にしか見えますまい。
「泥棒の心当たりはあるのか」
毛唐老人は首を横に振る。与力の一人が狩野の耳もとで囁く、「御館様とバ
テレンは近頃、仲悪しくあらせられます。狩野様、この件には深入なさいませ
ぬよう」
狩野はしょぼくれた老人の青い眼を覗き込んだ、「探させよう。落胆めさる
な」
慣れない言葉で礼を云い、暑そうな黒服の裾をひきずるようにして老人は
帰っていった。
町奉行の狩野は多忙である。日々、悩みごと苦しみごとを抱えた町人たちの
訴えを聞き、倫理に照らして采配を下す。いつしか緑が濃く茂り、蝉が姦しく
騒ぐ頃となった。ある朝、狩野の前に現れたのは、いつかのバテレンである。
いまだに暑そうな黒の長袖に萎びた躯を包んでいる。
「いかがいたした」
毛唐老人の目は輝いている、----聖櫃が戻ってきました。本当にありがとう
ございます。どうぞこれを、気持ちばかりの。
「そうか、見つかったか」
与力の一人が狩野の耳もとで囁く、「狩野様がお命じになったとおり、何人
かで聞き込みいたしました。たいした事件でもありませんでした」
満面の笑みを浮かべて、老人はかれの目と同じように光る棘だらけのものを
差し出した、----サボテンです。何の役にもたたぬ植物ですが、育てれば少し
ずつ大きくなりましょう。私共の友情と感謝の証に、どうぞ、庭の片隅にでも
置いてやって下さい。
「そうか。珍しいものだな。ありがたく頂戴いたす」
町奉行の狩野は多忙である。庭の隅にサボテンを植えてそのまま忘れた。老
人はほどなくこの異国の地で死んだ。バテレン禁止令がお上から回ってきて、
町には一人の毛唐も見なくなった。やがて狩野も死に、狩野の息子も死に、そ
の息子も死に、町のようすはずいぶん変った。かつての大きな屋敷は庭ごと公
園になり、今、その公園の片隅にサボテンがある。棘がきらきら木漏れ日に
光っている。椅子ほどにも大きく育っているが、いまだ何の役にも立っていな
い。
次は、「鬚」「模様」「花の種」でよろしくどうぞ。
508 :
「鬚」「模様」「花の種」:02/06/18 00:21
その老人はアモーゾフといった。
彼の朝は6時前に始まり、畑で昼を迎え、驢馬の荷馬車の上で夕日を眺め、
火酒を片手に月の満ち欠けを赤ら顔で数え、丁度彼の家の厚いガラス窓から
見える丘の上の大樹に月が掛かる頃に床に就いた。
息子3人と娘2に恵まれたが、娘は二人とも嫁いだ先の街が戦禍にまかれ、
ミーシャは消息を絶ち、ゾーヤは彼の家に姿無く戻って来ていた。
アモーゾフは事の他,この出来事を思い出しては悲しんでいたものだった。
長男ピョートルの末子のシニシヤは、アモーゾフに良くなついていた。
そんなシニシアが大病で片足を失った時は、暫らく教会にも通わなくなった。
しかし、そのシニシアが絵画展の大賞を取って奨学金付で美大に進学できる事
になったその日にだけは、いつもの畑には行かず教会で一日を過ごした。
昨日、アモーゾフの興した広大な開拓地で、これからこそは、肥やされた大地から
芽吹く作物が多くの人々を潤すようになるであろう、美しい畑の中で。
小さな葬式があった。
顎を鬚で覆い、飾る事無く皺を刻んだ男の顔に、初夏の昼の光が光の模様を
まばらに注ぐ棺には、彼の愛した花と、花の種、だけが添えられていた。
すまん。次のお題忘れた。
「帽子」「蜂蜜」「時計」でどうぞお願いします。
「帽子」「蜂蜜」「時計」
公園のトイレや、時計台の陰は短くなっていた。太陽の高度が上がっただけだ。
午後から、陽射しはやや強くなっていた。
朝から雲も出ていなく、快晴ではあったが、午前は少し陽が弱かった。
無理やりかぶせられた帽子も、少しは役に立つことになった。
1度太陽を見上げてから、ぼくは傍の時計を見上げる。
太陽の光が反射して、ここでも少し帽子は役に立った。
2時半。約束までにはまだ30分ほど時間がある。
このままここで過ごすには、少々時間がもったいないような気がした。
クルッと見回しても、とりあえずなにもない。そんないい加減な公園だった。
ぼくはとりあえず地べたに胡座をかいてから、時計台にもたれかかった。
金色のメッキがされた時計台は、光を浴びて透明な風をしていて、
ちょうど蜂蜜のような色になっていた。
ぼくは帽子を脱いで、服の袖で汗を拭ってから、もう1度同じようにかぶりなおした。
蜂蜜色の時計を眺め上げても、いくらも時間は経っていない。
ぼくはうんざりとして目の前の景色をただ見つめた。
次は「鉛筆」「肩叩き」「信号待ち」で。
511 :
「鬚」「模様」「花の種」:02/06/18 00:59
朝起きたら体中に変な模様が浮かびあがっていた。言いにくいのだがタンポポの模様である。
アールヌーボー調の黄色い花模様が、体中をビッシリと覆い尽くしているのだ。
顔や手といった、人目に触れる部位だけには、浮かんでいないことだけが助けだった。
医者は前例の無い症状に首を傾げたが、一種のアレルギーでは無いかと言った。
タンポポの種を吸い込んだのが原因かも知れないという。
そんな馬鹿な話があるものか、木や花の種を吸い込んだだけで花の模様が
体に出るのなら、まず大豆やトウモロコシの花の模様が先に出るはずだろう。
こちらは真剣に悩んでいるのに「綺麗でいいではないですか」などと無責任なことを言われ、
俺は机の上のカルテを空中にばら撒くと、医者の髭をひきむしって怒って家に帰った。
出された薬は隣の犬にやってしまった。
日常生活には支障が無いが、これでは人前で肌を露出することが出来ない。
銭湯にも行けないし、海にも行けない。半袖のTシャツすら着れないのだ。
事情を知らない人は刺青だと誤解するだろうし、誤解されるのは許せても
タンポポの刺青を入れるだなんて、神経を疑われそうではないか。
しかしその問題を試される機会は、思っていたよりも早く来た。
俺は居酒屋で出会った女の子と意気投合し、ベロンベロンになりながらも、
アパートに連れ帰ることに成功した。
万年床に倒れこみ、酔いに任せてナニにかかろうとした途端、
俺は自分の体のタンポポ模様を思い出した。
彼女は布団の上で身をくねらせて、恥ずかしいから脱がせないでなどと言っているが、
恥ずかしいから脱ぎたくないのは俺の方だ。
ここはなんとか、服を着たままで済ませてしまうしか無いだろう。
そんな事を思いながら隙を見て彼女のTシャツを下着ごと捲り上げる。
するとそこには、白いモンシロチョウで覆われた、大きな乳房があった。
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次は「鉛筆」「肩叩き」「信号待ち」で。
この場所は人を待つには実に向いていないと思う。
渡るのかと勘違いしてクラクションを鳴らす車は現れるし、
人の行き交いの激しく昼どきには何度か肩をぶつけられた。
何より信号待ちで渡らない人間がいるというのは周りに非常に奇妙に写るものだ。
地面からの放射熱で視界が歪む。場所は確かにここのはずだ。
『この樫の木の下で会おうね』
そう約束したのは、十年前と同じ日付の同じように蒸し暑い日だった。
当時は、今よりはずっと緑が多く潤いがあったと思う。
団地住まいだった僕たちは、いつも一緒に泣いて一緒に笑った
川にザリガニを取りに行き、山にクワガタを取りに行った。それにしょっちゅう彼女に宿題を写させてもらったりもした。
近所の悪ガキどもに、女の子と一緒に遊んでいることをよく馬鹿にされたが、僕はいちいち気にしたりはしなかった。
引っ越して離ればなれにならなければならないと知らされたときには、
僕たちは樫の木の上の秘密基地で二人して泣いたものだ。
当時は良く分からなかったが、大人の事情というやつで、親の勤めていた会社が潰れたのだ。
それで餞別代わりに、
僕は一番大好きな野球選手のポテトチップスのカードを、彼女は番号が各面に彫り込まれた鉛筆を、お互いプレゼントしあった。
彼女にとって野球なんてちっとも興味がなかったけれど、
僕がこのカードをすごく大事にしていると知っていたから、切れ長の目を赤く腫らして喜んでくれた。
彼女の鉛筆は転がすとよく当たるのが自慢だったので、テストの点の悪かった僕は単純に嬉しかった。
時の流れとは残酷なものだ。
大きな樫の木があったあの空き地は蝉のはい出る隙間もないほどに念入りに舗装され
今じゃ樫の木がどこにあったなんて分かりはしない。
でも、二人で埋めたビー玉やクワガタの死体、カエルのおもちゃは、今でもきっとこのアスファルトの下にあるはずだ。
日は暮れ、交差点を横切って延びる影法師もだいぶ長くなった。
僕はしゃがんで、ちびた鉛筆をそっと地面に転がす。
高校や大学の試験で彼女の鉛筆を何度か試してみたけど、ちっとも当たった覚えがない。
からからと空虚な音がアスファルトの上を流れた。
そのとき、交差点を横切る影が二本になった。ぽんと肩叩きするかのように僕の肩に両手が添えられる。
「ね?よく当たるって言ったでしょ?」
以前よりずっと髪が長く大人びてはいたが、切れ長の目を赤く腫らした彼女だった
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初めて文章書きこみました。激しく不安です
次は、「箱船」、「モルモット」、「脇差し」で
炎天下、雑木林では捕虫網、野原では木刀を脇差しに、清流では釣り竿を。
今時これは、誰にとっても贅沢な望みかもしれない。
僕においては尚更だ。しかし、もう恋焦がれることもなくなった。
環境汚染が原因で、僕の体は生来弱い。他人が罹らないような
聞いたこともない病気に冒されては、モルモットとして血やら尿やら
採取され、新薬や得体の知れない機械にもかけられた。
この先、いつまで生きるかは分からない。
ただ、人類の積悪の余殃を僕が受けていることだけは分かる。
洪水が再び地球を浄化するときには、箱船には決して人を乗せないで。
次は、「忸怩」「辟易」「老獪」。
514 :
「忸怩」「辟易」「老獪」:02/06/18 18:02
林太郎君は聡明である。
さらぬ付け加えるのなら、彼は寡黙である。必要以上のことは何一つとて口を出すこ
とは無い。しかし、女性を引き付ける魅力を十分に、並々ならず発揮していた。或ると
きは、留学し陸軍軍医を務めていた独逸から、わざわざ女が彼を求めて後を追って来た
こともあつたらしい。内心、女性との性的関係をもつたことの無い私は彼との程度に嫉
妬心、或いは忸怩にも似た情状をしていた。
或る日、私は彼に、巷で今日日唱えられている「フヱミニズム」について問うた。いや、
事実は私の女性に対するcomplexを、不甲斐のなさをば、彼を懊悩の対象にし八つ当た
りをしたのである。すかさず彼は「男の嫌な仕事を女が引き受けるのが、女の仕事であ
る。睦まじ合うのも、又然り」と謂ってみせた。その次には「女の寄らぬ男は、よもや
あらゆる仕事を成せる男かもしれぬ」と謂うのだ。余りにさらりと発つしてしまうのだ
から、思はず辟易してしまつた。彼は聡明なだけではなく、人間味のある疎さが女性の
性を醸し出してしまふのだろう。
今日、私は彼と関わつて思ふことは、単なる知識と文学への探求心だけではなく、人
間誰しもがあるその情や、その滑稽さや、その老獪さや、その魅力さこそが、彼が人々
から秀才と称えられる証明かもしれぬ。
馴れない明治文学を真似するのは、あまりに難しく疲れる。
次のお題は「隔靴掻痒」「内憂外患」「遺憾千万」
↑なんていじわるな三語だ
「忸怩」「辟易」「老獪」
逞しい体躯の白銀の狼。たった一目見ただけで激しい恋に叩き落とされた。
これは完膚無きまでの恋だ。だから老体に鞭を打ち、猟銃片手にこの思いを告げることにしよう。
風下からそっと近づき、雪の中に身を潜めてじっと機会を窺う。一瞬たりとも目を離してはならない。
銀狼の姿は容易く雪の中に紛れてしまうことだろう。一切音を立てるな。体の力を抜き自然の一部となれ。
さもないと、射程圏外から悠然と現したその姿を忸怩たる思いで見つめるはめになる。
手足が凍えても、ひもじくても、じっと耐えろ。奴だって胸が苦しいはずだ。
どんなに奴が辟易しようとも決して求愛をやめるつもりはない。ああ、老獪なこの儂を許しておくれ
「ごふっ」
突如、老いた狩人は咳き込んだ。真っ白な雪の上に鮮烈な血の赤が広がっていく。手足が痺れ、視界が霞む。
もう猟銃を持ち上げる力も残ってはいない。楽しかった追かけっこも今日でお終いだ。
孤独に力尽きようとする老人の前に銀狼が姿を見せた。
――さあ、この老いぼれた肉体に牙をかけ己が命を満たせ
太古から連綿と続く命の繋がり、それは自然が育んだ友愛なのだろう。
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引き続き、「隔靴掻痒」「内憂外患」「遺憾千万」
517 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/18 19:29
閣下はいつも食後に、妾(わらわ)に天下国家のお話をなさいます。
閣下「我国の時下の内外情勢は危急存亡とも形容すべきじゃが、当局の打つ手は
どれも皆、隔靴掻痒の感がある。」
妾「そうよね、閣下。そうよう。本当だわ。」
閣下「報道機関は他人事のように国家の大事を嘲笑う。内憂外患まさに極まれりじゃ。」
妾「報道に腹が立つことがありますわ。内容がいかんと感じますわ。」
閣下「権力を授かる者どもが続々と不正腐敗失政を暴かれるのも遺憾千万じゃよ。」
妾「嗚呼、この国をいかんせん、万策つきたのでしょうかと問いたくなります。」
閣下「その通りじゃ!・・・・・・まあよい。おまえ、もっうちょっとこっちにおいで。」
お次は「胸ポケット」「真空ポンプ」「植木」で。
518 :
「胸ポケット」「真空ポンプ」「植木」:02/06/18 22:26
僕の家の庭には植木が植えてあって、中々美しい景色だ。
人の心を豊かにしてくれる植物という存在に対して、いくら
感謝しても足りる事は無い。僕は、様々な植物に対して感謝する
事を忘れない、それは真面目過ぎるくらいに真面目な両親達の、
熱心な教育の賜物である。
僕は胸ポケットに植物の種を常に携帯する。そしていろんな
土地に、次々とその種を植えて行くのだ、僕がこの世界に
存在した証として……。
……何てことだ! あいつ、俺が植えたはずのとても綺麗な紫陽花を
グチャグチャに踏み潰してやがる……! あいつめ! あいつめ!
今すぐに俺が真空ポンプであいつの体内を真空にしてやる!
そして、植物が吐き出す酸素のおかげで今、我々が生きていられるのだ
という逃れられぬ現実をあいつに教えてやるんだ……。
それが俺に与えられた唯一の使命……。
次は「消しゴム」「墓石」「情」で。
ある日、少年は植木鉢の陰でもじもじと恥ずかしがっている妖精を発見した。
「僕妖精を見つけたよ」と見せてまわったが、大人達は一笑に付した。
厳格な科学者である父親にいたっては「妖精なんているはずがない」と叱りとばしたが、頑迷にも少年は聞き入れなかった。
手のひらを指さしてここに妖精がいるよと言って譲らないのだ――そこには芥子粒しか乗っていないのに。
少年はいつもその芥子粒に話しかけ一緒に遊んだ。さしもの芥子粒にも言霊が宿ったのかもしれない。
物置でいつものように胸ポケットに隠した妖精とお話しをしていたら、
突然父親がそこにやってきた。少年は慌てて物置にあった瓶の中に妖精を隠した。
それが失敗だった。よりにもよって父親はその瓶を引つかみ何やら実験をはじめた。
心配だったが黙っていた。バレたら妖精が追い出されると思ったからだ。
妖精に危険が迫ったら何を犠牲にしても止めるつもりだった。
――だって、僕は妖精とお話ができるんだもん。苦しければ僕に助けをもとめるはずだよ
だが、少年は知らなかったのだ。その瓶が真空ポンプであり、真空中では音が伝わらないことを。
妖精は必死の悲鳴をあげたが、少年はそれに気づいてやることができなかった。
そこにあったのは、乾涸らびて干物のようになった妖精の亡骸だった。
変わり果てた妖精の姿を見て、少年は深く嘆き悲しんだ。
少年の様子を見て、ようやくにして、父親も妖精の存在に気づいたのだ。
ルーペで少年の手の平を覗きながら父親はこう言った
――もう泣くのはおやめ、心配しなくても妖精は何度でも蘇るよ。
少年の涙が妖精の亡骸に降りかかったその時、奇跡は起きた!
妖精はむくむくと元の姿を取り戻し、以前にもまして元気にはしゃぎ始めたのだ!
妖精の生物学的名称をクマムシと言う。
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「消しゴム」「墓石」「情」
「消しゴム」「墓石」「情」
「そうね、あなたには情がないのよ、情」
「情?」見返した彼女の顔は疲れと、諦めとに満ちていた。
「そう。言葉はいくらでもかけてくれる。だけどね、それだけなの」
「わかるような気がするよ」ぼくは、首を僅かに斜にして、そう言った。
「わかってもらえて嬉しいわ」
そこに、ぼくと彼女の日々の終わりがあった。形のない遺骸は、ぼくを辟易とさせた。
「じゃあね」とぼくは言った。言ってみて変な気はしたが、無理やり笑んだ。
「うん、じゃあね」
例えばこの見えない遺骸を、墓石に仕舞い込んで供養できたら、
もしくは遺骸を消しゴムできれいさっぱり消すことができたら……。
ぼくはそんなことを累々と考え上げたが、らちがあかないから途中で止した。
この日々の遺骸に、なにかしら救いがあったとしたら、ぼくもいくらか楽になるのに、
とりあえず記憶を探る限り、そういったものは全然見当たらなかった。
次は「米」「スライス」「キャラクター」で。
「消しゴム」「墓石」「情」
小学校で飼っていた蛙のゴンタが死んでしまった
ゴンタといっぱい遊んだから、いっぱい情けはかけてあげないといけない
墓石を作ってやることが自分の義務だと思った。
お祖母ちゃんのお骨を安置したときのような立派な墓石は自分には用意できない。
だから、墓石に一番近いもの――四角くて表面がつるつるしているものを探した
精一杯頭を絞って、二つの消しゴムをボンドで張り合わせた墓石を立ててやった
隣のカブトムシのタロウの割り箸のお墓よりは良くできていると思う。
卒業して、僕はゴンタの事を忘れてしまった。
しかし、そのときの人の思いというものは意外なほど形として残るものだ。
ムサシの墓石は、今でも無事に落とし物箱の中に安置されている
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「米」「スライス」「キャラクター」
うげ!?
ムサシの墓石 → ゴンタの墓石
いっそ文章ごと忘れてください
523 :
「米」「スライス」「キャラクター」 :02/06/19 01:19
昔、ある博士が遺伝子を少しいじって面白い野菜を作った。
どれだけ薄くスライスしても切断面に同じ模様が出る金太郎野菜だ。
最初は大根から始めたが、芋やキノコにまで技術の応用が可能で
最終的には米に小さな模様を写し出すことに成功した。
始めのうちは、家に遊びに来た客を驚かして喜んでいたのだが、
そのうちに評判を聞いたキャラクタービジネスの会社と農業関係の会社から
同時に技術の商用利用のオファーが来た。
互いに提携して、野菜の断面に人気のあるキャラクターの絵柄を写し出して、
全国的に売り出そうというのだ。
このアイデアは野菜嫌いの子供達を持つ主婦に大当たりし、
会社は共に大儲けをして博士にもかなりの大金が転がり込んだ。
安全性を危惧する声も上がったが、新しい市場を守ろうとする企業によって
その声は掻き消された。
博士は実験を続け、この技術が牛や豚などの肉にも応用が可能な事を発見した。
この技術は野菜の時と違い、実用的な面で成果をあげた。
肉に浮かび上がっている番号を調べれば、それがどこで育ったものなのかが、
一目瞭然になるというわけだ。
ここで話は変わるが、最近は身元不明者の遺体の確認が、随分と
簡単に行われるようになったのだそうだ。
白骨化さえしていなければ、必ず身元の確認ができるといってもいい。
こんなことは数年前までは無かったことなんだ。
これに関しては警察は何も言わないのだけど、鼻がいいマスコミ関係の人間は
勘付いて不信に思っている。
ところで君、自分の切断面を見たことがあるかい?
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次は、「巨峰」「仮面」「リモコン」
524 :
「巨峰」「仮面」「リモコン」 :02/06/19 03:26
幼いことからずっと画家になりたかった。
四角いキャンバスに完璧な世界を構築したかった。
俺は現実的に生きるにはあまりに惰弱だった。失敗することが怖かった、自分の弱さを嫌悪した。
キャンパスに描かれた葡萄畑は虫食いだらけであまりにも貧相で、出品する度に寒々しいと笑われたものだ。
もっと完璧な現実があれば、もっと完璧な絵筆があれば、
折り合いを付けるために、俺は己の中に自らの代わりを務める仮面を作り上げた。
この仮面は俺が予期したよりも遙かに強靱だった。
現実というキャンバスを縦横無尽に暴れ回った。大胆不敵に、冷酷無比に
民衆を扇動し、軍部を掌握し、クーデターまで成功してのけた。
何のためなのか、誰のためなのかも今の俺には分からない。
分かっているのは、この暴走を止めるためのリモコンが俺の手にはないということだ。
俺は掻き集めた富と権力をこのアトリエに集約させた。
今ここに、寸分の狂いもないデッサンで描かれた葡萄畑の絵がある。
キャンバスの巨峰の身は黄金律からわずかな狂いもなくたわわに実っている
自分にとって理想的な世界の中で行う理想的な創造活動、
だが、この虚しさは一体何だろう?
それを芸術にまで昇華させることができず、心まで完璧な仮面となった。
お次は、「レイピア」「騎馬」「大砲」
525 :
エヴァっ子:02/06/19 16:47
「隊長」
不意に声がかかったので、振り返った。
そこにはぼろぼろな甲冑を着込んだ部下がいた。
「なんだ?」
「今度の戦いで、城に戻れるという噂は本当でしょうか?」
初耳な話だったが、五ヶ月以上も戦いを続けていたら当然流れる噂だろう。
私は少し考えて、ああ本当だ、とだけ言った。
「本当ですか!?」
甲冑の中から、驚きと喜びが混じった声が飛び出した。
「ああ、だが皆には言うなよ。まだ戦いは終わってないんだからな」
それだけ聞くと、部下は嬉しそうに兵舎に戻っていった。
それが私にできる、最良の嘘だったとその時は思っていた。
しばらくして、戦いが始まった。
私の騎馬部隊は果敢にレイピアを振り上げて戦った。
だが………、敵軍は強かった。
その時はまだ新しかった大砲を、何発も私の部隊に撃ち込んできたのだ。
初めて見る爆炎と爆風は驚異だった。
大勢の部下は焼け死に、紙屑のように吹き飛ばされ、死んでしまった。
だが私はこの通り生きている。
ほんの少し、功績のある騎馬隊隊長だから、という粗末な理由で援軍に助けられたのだ。
私の部下に、その時生き残った奴はいなかった。
その時の部下達が、いまでもこの土の下に眠っているかと思うと涙が溢れ出てくる。
私は、もう二度とこのレイピアを握れぬだろう。
墓標代わりに大地に突き刺したレイピアは、すこしだけ焼け焦げていた。
レイピアに向かって黙祷を捧げながら、嘘をついてしまった部下にすまない、とあやまった。
お次は、「死神」「夜景」「武士」で
526 :
、「死神」「夜景」「武士」:02/06/19 19:56
とある田舎町には、鬼火が現れるという噂がある。しかも、
鬼火に魅入られると、人は記憶の一部を失うとの話もある。
フリーライターである私は、この噂を確認しに、一人車を北に走らせた。
目的の町がガードレール下のずっと向こうに見えてきた頃には、
既に日は沈み、月が明るく輝いていた。
ポツリポツリと並ぶ民家の明かりが、漆黒の闇の中に浮かび上がる。
眼下に広がる夜景は、昼間ののどかな田園風景とは一変し、
美しくも妖しい様相を呈していた。
五百年以上も昔のことだが、ここで大きな合戦があった。
その後の歴史に大きな影響を与えた重要な合戦であった。
多くの武士達が命を賭けて戦い、そして死神に召されていった。
そんな事実が、この田舎の風景を優艶なものにするのかもしれない。
私は、都会の喧騒から逃れるためにこんなところまで来たのではない。
いつまでも、田舎の情景に浸るっているわけにはいかない。
しかし、何をしに来たんだろうか。さっぱり、思い出せない。
次は、「ジャンク」「テクノ」「時間」
527 :
「ジャンク」「テクノ」「時間」 :02/06/20 00:54
ここは忘れ去られた小島。
流木、缶詰、酒樽、西洋人形、貝殻、etc、etc……
いろんなものがこの島に流れ着く
だが、不思議なことに少しでもテクノロジーの香りのするジャンクはこの島に寄りつかなかった。
まるでこの島だけが時代から隔絶されているかのように
少年は、この島の最後の住人だった。
彼の両親は、物心つく前に他界していた。少年の記憶に両親の姿はない。
だが、少年にとってはその方が幸せなのかもしれない。
まだ見ぬ同胞を夢見て大海に漕ぎ出す必要はない。
彼は――汚染された惑星のたった一人の生き残りなのだから。
少年はいつものように缶詰を探してぐるりと海岸線を歩いた。
ちょっとの時間で一回りできる小さな島だ。
今日の収穫は陽の光の中できらきら光る綺麗な小瓶だけだった。
小瓶の中には、茶色く変色した紙切れが入っており、
そこには何かメッセージが書かれていたが、少年は字が読むことができなかった。
『SOS――船ガ難破シ遭難ス。救助ヲ求ム――SOS』
それは、時を流れを越えて漂着した両親の記憶だった。
次は、「コールドスリープ」「残滓」「燎原」
ゲームセンター“UFO”のカウンターの中で、
香織は退屈そうにハンバーガーをかじっていた。
ビデオゲームが20台程置かれているだけの狭い店内には、
テクノ風にアレンジされたゲームのサントラCDが流れている。
ゲームセンター、ジャンクフード、テクノミュージック。
まるで80年代のようだと香織は思う。
筐体の上に硬貨を積み上げて脱衣麻雀をやっていたサラリーマンが、
女の子を脱がすことをあきらめたのかダラダラとした歩調で出口へ向かう。
それと入れ替わるように、背の低い客が数人、騒ぎながら店内に入ってきた。
学校帰りの小学生達だ。
90年代に生まれた子供達……。
いつの頃からか、香織は小さな子供を見るとそんなことを思うようになっていた。
90年代に生まれた子供たちが、まだ居場所の見つからない80年代生まれの自分達を
後ろから押していく恐怖。
新陳代謝によって不必要となった古い細胞は、垢となってボロボロと崩れ落ちるしかない。
我等の時代とは、一体いつのことなのだろう。
それはこれから来るのか、それとも既に過ぎ去った時間なのか。
古い船を今動かせるのは古い水夫ではない。そんな唄を父が歌うのを香織は何度か耳にした。
香織は思う。父はこの歌を、どちらの水夫の立場で歌ったのだろう。
子供たちは、来た時と同じように、ふざけあいながら店を後にする。
香織はカウンターの中で、置いていかれたような錯覚を覚えたまま、
バイトから開放される時刻を待ちつづける。
--------------------------------------------------------------------
長いのにイマイチで申し訳ない。次は「コールドスリープ」「残滓」「燎原」で。
529 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/20 04:01
「コールドスリープ」「残滓」「燎原」
まさに燎原の火だった。乾燥した死体はよく燃えた。
私の操船ミスにより放たれた火は、直に手がつけられない状態になっていた。
過去、この星の人々がなぜ、未来にたどり着くためにコールドスリープという
当時の彼らにとって不完全な技術を使って眠りつづけたのか、私にはよくわからない。
それは実際のところ緩慢な死であっただろうし、たとえ蘇生に成功したとしても、
寛恕し得ないほどの副作用があったであろうことは、容易に推測できる。
ただ、現在ではなく、未来に希望があったのは確かなのだろう。彼らの過去に何があったのか。
星間宣教師である私としては、時空柱の使用許可さえ出れば今直にでも飛んで過去の彼らを救いたい気分であった。
宇宙にはこのような場所がたくさんあった。いびつに歪んだ文明と、その残滓。
多くの、発音も理解もされない言葉、文化、文明。人類はとうの昔にその死亡リスト作りに飽きていた。
そのような場所をおとづれるのは、私のような宣教師ぐらいのものだ。
私は望んで就いた自らの職業に悔いていた。
それは、両軍ともに全滅した凄惨な戦場で生者を探し求めるような作業だった。
「救いを……」
私は手をあわせた。
つぎは「暴風雨」「ダンボール」「神殿」で
530 :
「暴風雨」「ダンボール」「神殿」:02/06/20 06:15
厳かに進行する儀式で姿を現した巫女を見たとき、人生に全てを薙ぎ払う程の衝動が訪れた。
俺には彼女の恐怖と不安が見えた。孤独が見えたのだ。だから、迷うことなく彼女を連れ去った。
このあまりの不遜な出来事に、正門を出るその瞬間まで神殿の空気は完全に固まっていた。
後日聞いた話だが、
一度己が身に神を降臨させた巫女は、生涯人と接することを禁じられる。
食事さえも間接的に渡される。身も心も神の供物として捧げ尽くさねばならぬ。
彼女との逃亡生活は思った以上に悲惨だった。ドブネズミのように逃げ回らねばならなかった。
だが、考え得る限りの最低ランクの衣食住にも関わらず、
彼女は出会った当初よりずっとよく笑うようになった。年々彼女は人として魅力的になった。
刹那を噛みしめるように、ダンボールの中でお互い身を寄せ合って寒さを凌いだ。
暴風雨の中での彼女の体温は俺の全てを癒してくれた。
俺は十分に幸せだと思う。だが、彼女に対して申し訳なさばかりが募る。
彼女が捕まれば凄惨の結末が用意されていることだろう。
もう全てが時間の問題だった。絶望的なくらい逃げ場は閉ざされている。
選択肢は限られており、その中でも俺たちは心中することを決めた。
――二人して毒杯を呷った。だが、彼女は俺のグラスに毒を入れなかった
「……あなただけなら逃げ切れる、私は、私は、幸せでした……」
こんな裏切りが許されてはならない。おまえはもう巫女ではない。人間なのだ。
人生は美しいことばかりが全てではない。だから、最後まで泥臭い生を全うしろ。
そして、俺は彼女が口にした毒杯をそのまま呷った。
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ああ、イマイチっすねえ
次は、「残存意識」「ヒエラルキー」「想起」
531 :
「残存意識」「ヒエラルキー」「想起」:02/06/20 11:51
吉田の腸の中で、糞はじっと堪えていた。
残存意識が、自分はハンバーグだったことを伝えている。
「できれば永遠に、ハンバーグのままで居たかった」
白い皿の上に、甘く煮たニンジンとエンドウと共に並べられていた、
美しく凛々しかった自分の姿を想起し、糞は虚しさに襲われた。
「何をそんなに悩んでいるんだい?」
心配した別の糞が話しかけてきたが、ハンバーグの糞はそれを無視した。
糞にもヒエラルキーが存在すべきである。彼は思った。
アジの焼いたのや野菜炒めなどと共に扱われるのでは、
元はハンバーグだったものとして、あまりに惨めではないか。
腸の内壁が、そろそろ出番が近いことを糞達へ告げた。
これから彼らは、隣り合った糞とスクラムを組み、
肛門を目指して一斉に突撃をかけるのだ。
ハンバーグだった糞は他の糞達に揉まれ、彼らと同化しつつも叫び声をあげる
「俺だけは、別の糞達とは違うんだ!一緒にしないでくれ!!」
しかし、そんなことに耳を傾ける者は無く、一つの大きな固まりとなった糞達は
じりじりと肛門の方へと流されていった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次は「嫌悪」「誕生日」「子馬」
532 :
「嫌悪」「誕生日」「子馬」:02/06/20 12:19
寒い大地に育った子馬。
今日で満2歳になるお祝いに、家族だけでなく村人も来る。
今までの苦労を振り返り、子馬を愛撫する父と母。
祖父が入植時の話をはじめる。
聞き入る村人達・・・
「イヴァンや、ウォッカをもう一瓶お願い」
「うん、ママ」と、気前よく答える息子。
微かな嫌悪感を押し隠して、明るい顔でお祝いの準備をしている。
別に、子馬が嫌いなわけじゃない。
むしろ一番可愛がって育てたのは彼だ。
彼の複雑な心境の原因は、もっと他にあった。
(今日、僕の誕生日なんだけどな・・・)
※久々に書かせていただきました。睡眠不足です。
次のお題は:「アスパラガス」「プロパンガス」「探す人々」でお願いしまふ。
533 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/20 19:00
僕は風呂でアスパラガスをかじっている時にだけ幸福を感じることができる。
理由は解からないけど心がそういうんだ。巷じゃホントの自分探しだかなん
だか、幸せを探す人々がたくさんいるけど、探せば探すほど、遠のいていく
んじゃないかなあ。僕は気付いたら幸せだったよ。プロパンガスのガスを
もらして死ぬ人もいるけど、僕は幸せさ。でも、僕はちょっと変かな。
トラウマ、芸術、カクテル、でお願いいたします。
534 :
「アスパラガス」「プロパンガス」「探す人々」:02/06/20 19:03
「石油が枯渇するまであと20年」と危惧されたその時から20年後、今度は
「石油が枯渇するまであと40年」と心配されたが、さらに40年経った時には、
「石油が枯渇するまであと80年」と物笑いの種にされた。
見積もりがずさんだった訳ではない。幸運なことに、次から次と新しい油田が
見つかり、その度にタイムリミットが延長されてきたのだ。
しかし、さらに80年たった現在、世界中のほとんどの油田が打ち止めになっていた。
重油・軽油・プロパンガスなどが一気に高騰し、自動車の姿は街中から消えた。
石油だけではない。天然ガスも枯渇し、原子力発電でさえも
ウランの枯渇により炉は停止している。代替エネルギーを探す人々の努力も空しく、
核融合は実現されず、風力、水力、太陽光、潮力を使った発電は、もはや
文明を支えられるほど効率のよいものではなかった。
エネルギーが枯渇するのと並行して、ほとんど全ての交通手段が麻痺した。
当然、食料の運送さえも行われず、高度な文明に囲まれた生活を
送っている人ほど、早々に命を落としていった。
ほどなく、人口の9割以上が地球上から消え、アフリカや南米の奥地の、
文明とは切り離された地域で生活をしている人たちだけが残った。
彼らは、山野でイノシシや鹿を狩り、畑でトマトやアスパラガスを収穫し、
エネルギー枯渇など全く知らずいつも通りの生活を続けている。
次は、「萌え」「萎え」「ぷに」
次、「トラウマ」「芸術」「カクテル」でお願いします。(T^T)
536 :
「トラウマ」「芸術」「カクテル」:02/06/20 20:57
カクテルを飲みつつ私は絶望していた。先の全く見えぬ人生……。
そんな人生に対して一体どのような希望を持てというのか?
私は若い頃に特殊な訓練を積んだ。そしてある程度は自らの感情を
コントロールする事ができる能力を身に付けたのだ。しかし
最早、限界だろう。私の唯一の長所である特殊技能ですら……。
もう、どうする事もできない程状況は悪化している。
こんな気取った安酒を飲んでいる場合ではない……。
「どうなさいましたか? 顔色がよろしくありませんね……」
突然私に話し掛けてきた男は、どこか不気味な雰囲気を醸し出す男。
私のような生きている価値の無い人間を心配してくれている!
あまりの嬉しさに私は、私のこれまでの人生、哀しみのストーリーを
穏やかに語り始めた……。
「私の人生は、まさにトラウマそのものであった……」
私が語り終えた頃には、すっかり夜も更けてしまう程長い話だったが、
不気味な雰囲気の男は、私の話を熱心に聞いた。
「成る程……そんな事があったのか、しかし君は特殊技能を身に
付けているんだろう? その特殊技能を世界平和の為に役立ててみないか!
世界のあらゆる場所で行われる戦争、醜い殺し合いを回避したり、
芸術的な創作活動に役立ててみたり、
アフリカの飢えた子供達に食料を与えてみたりなど、様々な
良い行いをしてみよう!」
次は「剃刀」「ピアノ」「午後」で。
「剃刀」「ピアノ」「午後」
雨はしきりに降り続いていた。怠惰と、慢性を伴って日曜の地面を打っていた。
2、3度手の中に水をため、そのまま水を顔にかけると、シェービングクリームをつけ、
剃刀できれいにそれを取りきると、そのまま顔を洗った。
水は、わりに冷たかったが、気温との兼ね合いもあり、満足はできかねる状態だった。
隣のアパートからは、世辞にも上手くないピアノの音が、雨音に紛れながら延々と耳に届いていた。
不快とは言い切れないが、決して爽快ではない。
暇と言うにはあんまりだったが、充実は決してしていなかった。
ぼくはもう1度掌に水をため、顔をその中に突っ込んだ。
やはり、あまりよいものではなかった。
Tシャツとトランクスだけの格好だったが、Tシャツの下にはじっとりと汗をかいていた。
ぼくはそれを脱ぎ捨てると、冷たいシャワーを全身に浴びた。
シャワーを浴び終えて、既に午後であると言うことに気付いた。
多くても半日しかぼくに休日はのこされていなかった。
次は「飛沫」「敗北」「北」で。
538 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/20 22:53
佐竹老人は、近頃新しい趣味をはじめた。
俳句である。
小学校の同級だった三丁目の福永ちえの従姉が俳句の熱心な実践者で、いつか
偶然に隣り合わせたときに誘われたのだ。
最初はほんの気まぐれで句作するうちに、五七五のリズムに次第に魅せられる
ようになり、今ではすべてのものを、この伝統のリズムに表現したいと思う佐竹
になっていた。本人みずから認めるように、句を作るのは早いし、たくさんの句
を作る。しかし、たいていは駄句で、句会で良い点をもらえることはまずない。
本人が作っては、ひとりリズムを口の中で繰り返しては悦に入っているという、
たわいもない趣味なのである。それでも佐竹老人は俳句をはじめるようになって
から、いくぶん元気を取り戻し、若返ったような気にもなっていたのである。
ある日のことである。例によって佐竹老人は家の周辺を徘徊しながら着想の浮
かぶままに句作にふけっていた。
ひまわりの 咲く塀の上 猫あゆむ
毛虫見て 顎を撫でたり 無精ひげ
いずこより 妙なる調べ 雲の峰
鍵盤に 指走るらむ 日の盛り
楽音の 絶えることなき 夏の道
ハンカチの 滞ったり 無精ひげ
汗ぬぐふ ハンカチ止める 無精ひげ
炎天下 涼みに入る 理髪店
白服の 職人ひとり 理髪店
日なたでも 日陰も同じ 蒸し暑さ
一瞬の 風も動かず 油照り
不機嫌は 伝染するや 夏盛り
不愉快な 客あしらいや 汗しとど
楽音も 騒音となる 暑さかな
夏服や 襟をつかみて 叫びあふ
なんとかに 刃物持たすな 汗ながる
香水や 必死で逃げる 店の中
ピアノ鳴り 剃刀の舞う 夏の午後
夏の血や うなじ触れば なま臭き
とにかくに 逃れて来たり 蟻地獄
次は「寒け」「最後に」「一致」
次は「飛沫」「敗北」「北」で。
540 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/20 23:10
「飛沫」「敗北」「北」
勝敗が決まった。
二人の男が永く想っていた清純な乙女は、今は青騎士に花冠を捧げ、
赤騎士の彼は砂を噛みながら地に横たわった。
彼女のなんと魅力的なことだったか。気品ある緩やかな栗色の巻き毛、
白磁の肌、優しく愛らしい桃色の唇、そして常に憂いを含んだ紫の瞳。
そんな彼女は、勝利を手にした青騎士に手を取られたのだ。そして惨めな敗北を喫した自分は
この寒々とした北の大地に叩きつけられたのだ。ああ、なんと苦しいことか。
トーナメントの判定は覆らず、彼女は戻らない。
赤騎士は森の精霊にすら泣き顔を見られまいと、痺れるほどに冷たい泉の水で何度も顔を洗った。
飛沫が彼の埃に塗れた鎧に撥ね、点々と黒い染みを作った。
お次は「時刻設定」「結婚指輪」「コマドリ」で。
コマドリのように、とは働き者のことを指して言う言葉だ。
この女はまさにコマドリのようによく働く。
それはまるで結婚指輪をはめた家政婦、いや、むしろ俺の忠実な奴隷のようだ。
たしかに、こいつが俺のもとへきたのは愛ゆえでなかったことは否めない。
「あいつは妻をカネで買ったのさ」と言う輩もいるが、まんざら嘘でもない。
だが、出会いはどうあれ一緒に住めば愛着も湧こうというものではないか。
こいつは俺のために毎日文句ひとつ言わず掃除、洗濯、裁縫、料理をそつなく
こなし、俺のどんな勝手なわがままにも素直に従う。
そんな愛すべき俺の妻だが、唯一の欠点は時刻設定がすぐ狂うことだ。
夜中の三時、熟睡中の俺を妻が起こしに来る。
・・・お夕食ができました・・・
俺は眠い目をこすり食卓に着くが、夜明け前から焼肉など食えるわけもない。
しかも2時間前に「朝ご飯」を食べたばかりなのだ。
「真夜中からこんなもの食えるか!」
俺は妻の尻を蹴飛ばす。
シリコンゴム製の人工皮膚は、本物より少し硬く感じた。
次は「猫」「屋根」「あくま」
542 :
「時刻設定」「結婚指輪」「コマドリ」:02/06/21 01:10
「この写真、何時のだったっけ?」
Yが独り言のように呟く。
私は荷造りを終え、整理の手を止めて小さなアルバムに見入っていたYの背後から、
そっとその写真を除きこむ。
リビングの窓の前。ウララカな暖かい日差し。その光に抱かれる様に
アルバムを覗き込むYと私。
写真の日付は92年6月7日、と刻印されている。二人はまだ会ってもいない。
ああ、この時、電池交換して、時刻設定してなかったんだよな、確か。あのカメラ。
「7年前のさ、サークルの合コンツアーの時だよ、それ。」
「あん時ねぇ。コマドリの民芸品なんか買ったんだ。あなた。ダッセぇー。」
「いやぁ、酔っ払ってて覚えてねぇんだよナ、その置物の事。電車に忘れちゃったし、ソレ。」
「この時はまだKと付き合ってたのよね、アナタ。」
「そうそう。お前がスクーバ始めたばっかで、俺らが皆でバイトで金持ち寄ってファラオに行くぞ!
って燃えてる時。」
「B君よね、この横で馬鹿ヤッテル子。」
「盛り上がってるよなぁ。何の話してたっけなぁ、この時・・・。」
アルバムを覗き込む私とYの、丁度目の前のテーブルの上に、そのアルバムの
入っていた小箱に収められていたのであろう、結婚指輪が置かれていた。
(指のサイズが合わなかったんだよな、あれ。プロポーズで出した時、焦ったよ。
それにしても、渡されたプレゼント、いきなり箱から出して嵌めようとするかぁ?)
私の口元は、その、つい昨日のような出来事に緩む。Yも、同じ気持ちでいるみたいだ。
私は彼女の肩にソッと顎をのせて寄りかかった。そして彼女はそんな私をいつもの
ようにヤンワリと受け入れる。そう、いつもと何も変わらず。
明日の昼、二人は別々の人生を歩み始めるため、この家を後にするのだけれど。
_________________________________________________________
次は、「リップスティック」「ソックタッチ」「マユズミ」でどうぞ。
AMが午前のことだったか、午後のことだったかが思い出せない。
田中は、プラスチックで出来たデジタルの目覚ましを手に持ったまま、
しばし虚空を睨み続けた。
この目覚ましは、朝が来ると鳥の囀りで起こしてくれるという優れ物だった。
つがいのコマドリの飾りがついている。
毎朝、同じ時刻に起きる田中には、就寝前にアラームの時刻設定を改める習慣はない。
設定はいつもそのままで、タイマーだけをセットすれば、そのままで寝られるのだ。
昼飯のラーメンを作った際に、アラームを適当な時刻に合わせた事が悔やまれた。
鳥の囀りを合図にチキンラーメンを茹で上げるという思いつきに、田中は夢中だったのだ。
「こんな時、由子がいたらな」
一人呟く田中の左手の薬指には、シルバーの結婚指輪がはめられている。
しかし元妻とは、1年も前に離婚が成立していた。
指輪は義理ではめているのでは無く、単に太って抜けなくなっただけなのだ。
決して悪い男では無いのだが、夫としては少し頼りなかった。
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なんか、長くなりそうなので、ここまでで。
次は542の「リップスティック」「ソックタッチ」「マユズミ」でどうぞ。
−−ゲルマン百科事典第12巻134貢−−
<悪魔猫>
厳密には、それは猫ではない。
客間の虎にしては少々欲が深く、裏切り者の愛玩にしては饒舌にすぎる。
歩く様はなるほど官能的だが、時には老婆のようでもあり、奇妙な三足歩行を得意とする。
ありふれた同胞たちと変わらず高所を好み、例えば日中は
教会の屋根上で太陽を拝んで過ごすが、どこか役者を気取っているような、
そんなしたたかさがギリシア人−−悲しみを知らぬ者たち!−−を常に不安に陥れる。
フランク王国の霊媒師学団の語るところによれば、それはかつて月の魔女の不実な僕であったそうだが、
高名な数学者アルバッキオの反論−−その歩幅は完全な円周率の二乗feetに等しい−−によって、
今ではむしろ双子の神の不出来な片割れとして認知されている。
失礼。「猫」「屋根」「あくま」への回答です。
次のお題は542に同じく
「リップスティック」「ソックタッチ」「マユズミ」で。
546 :
「リップスティック」「ソックタッチ」「マユズミ」:02/06/21 02:11
怪獣は、いまや横浜スタジアムをも破壊しようとしていた。
「いけない、決勝戦が危いわ」
少女は、鞄からソックタッチを取り出し、空にかざす。
先生の目を盗み、苦心して持ち歩く一本のソックタッチを。
「変身!」まばゆい光に包まれて、巨大化する彼女。
仮面で正体を隠す彼女には、二つの武器があった。
常人の1万倍のパワーを発揮させるソックタッチ。
ごく淡い口紅は、口喧嘩能力は町内会おばさんの91倍に加速させる。
かくして地球は守られた・・・
「お父さま、ただいま」疲れた体を引きずって帰宅する彼女。
父の置手紙と、不揃いなおにぎりが食卓で待っていた。
<仕事で遅くなる、すまん! 父>
マユズミで怪獣化した父は、次の獲物を求め大阪湾を潜行してる最中だった。
※窪田まり子の漫画みたい
547 :
あ、お題忘れた!:02/06/21 02:13
次のお題は:「もしも」「だから」「くるぶし」でお願いしまふm(_ _)m
548 :
「リップスティック」「ソックタッチ」「マユズミ」:02/06/21 03:19
時代とは変化するものだ。
私の向かいに座っている女子高生が電車の中でリップスティックを塗り、マスカラを使って睫毛を整える
その間に、肩をぶつけた主婦が、同じように吊革にぶら下がっていたサラリーマンに短く謝罪する。
あんなにも揺れる空間で、よくもあれほど繊細な作業を完遂しきれるものだ。
わずかな時間で、ビデオテープでも早送りしているかのように、
良家のお嬢さん(あくまで想像に過ぎないのだが)は、夜の蝶のような蠱惑的な容姿に変貌を遂げていた
ほんのりとした上品な色の口紅に、うっすらと描かれたマユズミ、
そして淡いアイシャドーまでのせられては年齢が想像できない――制服さえ着ていなければ
古着でも脱ぎ捨てるかのように脱皮する彼女達に対し、私は拭い去り難い違和感に襲われる。
頑なに思い続けてきた。
社会に対する処世術とは、時代に揉まれ磨り減らされ否応なしに染みついていくものではないか?
だが、今では我々の世代はそれを声高に非難する頑迷さも、自らの一部として包含する柔軟さも持たない。
新しい息吹とは新旧の血生臭い闘争によって生み出されないといけないはずなのに
同時に、我々は――少なくとも私は怖れている。共に時代を謳歌しようとしたが故に時代から爪弾きにされることを
いつまでたっても時代に馴染めない魂、それが我々だ。
隣を見ると、ずり落ち過ぎたルーズソックスと格闘すべく、ソックタッチを鞄から取り出している少女がいた
以前娘に、ソックタッチとは何かと問うて、博物館のショーケースに収められた化石のように扱われた覚えがある。
保護指定を受けた私には今の最新の流行が皆目見当もつかない。
ルーズソックスの少女は、ソックタッチの粘着力が弱いのか、なかなか目的のフォルムを獲得できないでいた
――案外、強がっている彼女たちも時代に取り残されないよう必死なのかもしれない
そんなこんなと考えているうちに私は目的の駅を乗り過ごしてしまった。
-------------------------
若い身空でこんな話を書いてしまった。これでも二十代。鬱だ氏のう
続いて、「もしも」「だから」「くるぶし」
549 :
「もしも」「だから」「くるぶし」 :02/06/21 19:30
我々は気の遠くなるような長い年月をかけて復興への道程を歩んでいる
人類の科学技術は、それなりに進歩したといっていいだろう。
それはそれは――人の時間軸からはずれた歳月に形成された天然資源を使い果たし、
分厚い光化学スモッグで地球の大気を覆い尽くすほどだ。
結局、世界的な食料危機を回避する解決方法は見いだせなかった
星々を光速で自由に駆けめぐるための推進器も開発できなかった
次世代エネルギーの開発プラントに至っては、
ぐるりと数千キロ、周辺に人の立ち入れない夢の残滓として放棄されている
だから、人類は少しだけ現実的になった。
無尽蔵のエネルギー源への試みは凍結され、宇宙開発に至っては法的にまで禁止された。
遺伝子工学だけはまだ細々と続けられているが――まあそのことは、これからの話とはあまり関連がない
ご先祖たちは残念がるかもしれない。輝かしい科学文明の終焉を
でも、誤解しないでほしい。僕たちは限られた世界の中で精一杯生きている。
今の事態の打開への夢のような解決方法がないことは、過去の歴史が悲しいほど証明している
このことに父は反対しているが、現実に目を向けさせるために宇宙開発を禁じた統合政府のやり方は正しい
それでも――
もしも、空がもっと青ければ人々は星々の語らいに耳を傾けたかもしれない
さて、ここで舞台は急展開する。
時代遅れの――ほとんどジャンクと言い切って差し障りのない、水素ロケットで宙を目指すドンキホーテがいる。
恥ずかしながら私の父だ。人類には夢が必要だ。そう言い続けて既に二十年が経過している。
――爆煙を上げて一筋の光が上空に伸びていく!
まさか、エンジンに火がともるとは思わなかった。そもそもろくな軌道計算もせずにどこに行こうというのか?
だからこそ、この変人は宇宙を夢見ることができたのだろう。
祖母は卒倒し、母は、ここにはいない――機上の父を激しく罵倒した。
私も愚かなことだと思う。私は銀月の騎士になるべきだったのだろう。だが、だが、この胸にこみ上げるものはなんだ?
張りぼてのロケット――ロシナンテは、まだ目視しうる範囲、ほんの重力井戸のくるぶしのあたりで――あっけなく飛散した。
――九十六年
人類が星の見えない夜空に彗星を見たのは実に九十六年ぶりだった
-------------------------
ああ、連続書き込みしてしまった。暇人だと笑ってくれい
お次は、「多聞」「外聞」「内聞」
550 :
「多聞」「外聞」「内聞」:02/06/22 00:15
連日の深夜残業。恥も外聞も無く公園にへたり込む。
「あー・・・」しんど、と言おうとした矢先、黒服の男が現れた。
「ちょっと待った。私が代わりに疲れてあげます」
ベンチに横たわり、男はうめき出した。
「ああ疲れた、しんど、もう歩けない、ここで野宿だー」
・・・代わりに疲れられて釈然としない。幾多聞く幽霊噺にも、こんなのはない。
そこに、また一人の娘が現れた。
「私が代わりに釈然としないでいてあげる!」
やにわにうなだれて、ぽつんと呟く娘。
「あーあ、なんだか釈然としない、どうしてだろう、あーあ・・・」
疲労も釈然としないもやってもらって、何をしていいのかわからない彼。
とりあえず家に帰ろう。「ありがとう、ではまた」
「他のサービスのご案内聞いていきませんか?」という声を振り切って
・・・家に帰ると、既に一人の少年が代わりに帰ってくれていた。
何もなくなってしまった彼。でも、不思議と寂しくはなかった。
傍らで一人のお爺さんが、代わりに寂しがってくれていたから。
※谷川俊太郎のパクリ・・・なわけないけど(笑)
次のお題は:「チョコレート」「スリップ」「夏」でお願いします。
551 :
「チョコレート」「スリップ」「夏(失敗)」:02/06/22 04:01
「チョコレートの原料となるカカオは元々南米の自生植物で、
大航海時代には被征服民族の間で通貨として流通していたの。」
耀子は夜中の十一時半(試験明けで眠い!)に僕を叩き起こし、そんなことをとうとうと語り続ける
「当時は潰したカカオを砂糖を加えないまま飲料――チョコラートとして、王族の間に嗜好されていたというわ」
彼女が世界史に造詣が深いことは良く知っている。僕はこうして我慢強く聞いてあげないといけない。
決して我が儘な女性ではないけれども、時折こういうどうにもならない時もあるものだ。
「うん、それで?」
「と、当時は、それはヨーロッパ人の嗜好に合わなかったら、
チョコラートがチョコレートになるまでは様々な努力・試行錯誤がなされてきたの」
正座した姿でスリットから覗く太股が色っぽい。それと、趣味は分かれるところだが、僕は日本人形のような耀子の顔を気に入っている
「うん、君の言っていることはよく分かるよ」
「カ、カカオは栄養学的見知からも効能が優れているの」
「へえ、それは意外だね。食べ過ぎると良くないと思っていたよ。うん?」
「た、たまには異文化に触れてみるのも悪くないと思うの!」
彼女はタッパに入れた(可哀想だがお世辞にも形は良くない)チョコレートをぽんと僕の目の前に置いて、
そのまま踵を返しててすたすたと帰ってしまった。
どうせなら、泊まっていってくれた方が嬉しかったのに。
帰り際、耀子は恥ずかしそうに呟いた――ありがとう
-------------------------
ってか、お題は「夏」じゃん。ええ、良いお題だと思います。
長いのは嫌われますので、ここで諦めます。
というわけで、引き続き「チョコレート」「スリップ」「夏」
552 :
「チョコレート」「スリップ」「夏」:02/06/22 10:26
「ほら、チョコレートで地べたに絵がかけるんだぞ」
トシユキは黒いアスファルトの上に茶色い線を引いた。
「もったいないよ」
アキエが咎めるのだが、トシユキは気にせず線を延ばし続けている。
「もう売り物にならないからって、沢山くれたんだ。食べ飽きたよ」
トシユキの家の駄菓子屋に、トラックが突っ込んだのは先月のことだった。
雨で滑りやすくなった路面で、擦り減ったタイヤがスリップしたらしい。
「最初は地上げ屋かと思いましたよ」
事故について語る時、トシユキの祖母は決まってそう切り出した。
1枚の板チョコは1本の長い線になった。
トシユキは汚れた指先をTシャツで拭って、自分の引いた線を満足そうに
眺めていたが、突然思い出したように、
「俺、夏休みが終わったら、いなくなるかも」
と言った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
次は「カナブン」「鉛筆」「故障」
553 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/22 10:44
「よっぽど気をつけて走らねえと危ねえぞ兄ちゃん」
ガソリンスタンドの店長が俺の車のタイヤを蹴った。
おかしなことだがとても慣れた足つきに見えた。
「これ、スタッドレスでねえべ」
「ノーマルですが、やっぱり危ないですか」
「危ねえよう。金あんだったらここで履いてけ。スリップすんぞ」
言われた通り、ここまで来る途中でも何度か危ないところがあった。
道路に積もった雪は踏み固められて氷のようになっている。
「去年の夏もここに来たことがあるんですが、全然違いますね」
「そりゃそうさ雪国だもの。雪降ったらもうダメさ」
だけどここでタイヤを買う金など無かった。準備もなしに飛び出してきたのだ。
「どうすんのや。履いてかねのが」
「はい。お金が、ちょっと足りないので」
「しゃあねえな」
店長はスタンドの建物の中に入り、何かを手にして帰ってきた。
近づいてきてそれが分かった。タイヤチェーンとチョコレートだ。
「貸してけっから。危ないとき自分で履いてけよ」
「あの、そのチョコは」
店長はにやっと笑った。
「立ち往生したらカロリーが必要になんべや」
----
書いちゃったので投稿。
続くお題は552氏の「カナブン」「鉛筆」「故障」で。
554 :
「カナブン」「鉛筆」「故障」:02/06/22 11:40
小学校のとき夏休みの研究で提出した標本はどうなったのだろう?
カブトムシとクワガタが全然捕まえられず、カナブンばかり並べた覚えがある。
札に鉛筆で『カナブン』と同じ名前ばかり書きこみながら泣きそうになったものだ。
子供のころだから、昆虫学者がやるようにきちんと防腐処理が施せるわけがないし、やった覚えもない。
図鑑で昔、はらわたをちゃんと取り出さないといけないと読んだ覚えがあるが、そのとおりだと思う。
とりとめもない思索にふけっているとき、若い青年の声が耳に響いた。
「あ〜これ、エンジンまでいっちゃってますわ。うちじゃあ無理っすねえ」
レッカー車が来るまで、私のフォルクスワーゲンはそこに磔になっていることだろう。
――標本のように
ガソリンスタンドにはビートルズの『ヘルプ』が流れていた。
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おお、かなり即興で書けたぞ。嬉しい。
次は、「遺伝子」「改悛」「エリート」
うげ!?
故障を入れ忘れた。阿保か俺は
556 :
「遺伝子」「改悛」「エリート」 :02/06/23 04:07
「おまえ知ってるか?
受精能力のある精子は全体のほんの一割ほどで、残りは他の男の遺伝子を殺すための文字通り
――キラー精子として機能するんだよ。これはエリートほどより多くの子孫を残す仕組みを……」
左手が一閃する。依然として交戦相手の士気は高く戦力も強大である。だが、戦略的重要拠点は死守せねばなるまい。
「では、同じ哺乳類であるオットセイの雄雌比については?
たった一割の雄が、実に残り九割の雌を獲得すべく闘争するのだよ。これは何よりも自然が一夫一妻を否……」
汝、右の頬を打たるれば左の頬を差し出せ。痛そうな音が辺りを響き渡る。
指輪を嵌めたままひっぱたかれたため、皮膚を切ってしまった。
俺と彼女は同じ言葉で語りあえない。俺は理屈をこね回すが彼女は両手を振り回す。現代が文明社会なんて嘘っぱちだ。
彼女は俺の頬の手当しながら呟く
――ホント、馬鹿なんだから。浮気してないならそう一言言えば済むじゃない。
お互い興奮していたが、冷静になるといつも改悛の情に駆られる。こんな傷は、まあどうでもいい。
馬鹿馬鹿しくなってふとお互いに微笑みあう。
使用しているハードウェアもプロトコルも全く違うのによくもこんなにも通じ合えるものだ。
彼女にとって、(俺が専門にしている)生命の成り立ちやその行く末についてなんて、興味どころか意識の範疇にすらないらしい。
妻が今気にしているのは、俺の頬傷の具合と、今晩の料理(自信作らしい)の評判だ。
だから、だからこそ、子供の頃から――僕たちはずっと一緒にいる。
---
「遺伝子」「改悛」「エリート」 なんてお題目だと(ストーリーが限られるし)小難しそうで萎えますかねえ。
忍びなくて自分でスルーさせてしまいました。
お次はわりと作りやすそうなお題目を、「モンタージュ」「パンツスーツ」「BGM」
557 :
「モンタージュ」「パンツスーツ」「BGM」:02/06/23 08:22
目撃者の証言により、犯人はパンツスーツの若い女性と判明した。
警部は張り切る「よし、みんなで探すのだ。パンツスーツの女を!」
鑑識課員は頭をひねりながら警部に相談。
「えー、モンタージュ写真とDNA鑑識結果によりますと、犯人は」
「そんなのはどうでもいい!パンツスーツだ。パンツスーツの・・・」
他署から続々応援もやってきた
「我々も捜査に加えさせて下さい!」「僕達も」「俺達も!」
既に百人を超えた彼らの頭には「太陽にほえる」のBGMが流れ続けていた。
「あのですね、だから、鑑識によるとですね・・・」
誰も聞いていなかった。パンツスーツ。それだけで十分だった。
・・・が、2ケ月にわたる懸命の捜査にも関わらず、犯人は見つからなかった。
パンツ一丁に上半身スーツ姿の女性は、ついに現れなかった。
コンビニ万引き事件は、未解決に終わったのである。
※実は「パンツスーツ」の意味知らない^^;
次のお題は:「記憶」「レバー」「遊園地」でお願いします。
558 :
「記憶」「レバー」「遊園地」:02/06/23 10:25
『鶏レバーの味を文章で表わしましょう』
教卓の後ろに置かれたホワイトボードに、右肩下がりの文字でこう書かれている。
これは、白川が受講しているシナリオライター養成所の課題である。
課題が発表された後、受講者の間から軽い笑いがこぼれた。
白川も笑ったが、すぐにこれは難しいぞと思い直した。
おぼろげながら味の印象は掴めるのだが、それを文章にするとなると容易では無い。
しかし、記憶というのは面白いもので、レバーの事を思い出そうとすると、
それを食べた場所や、その時一緒に居た人の顔まで浮かんでくるものだ。
「レバー、レバー、レバー・・・・・・」
お経のように繰り返していると突然、白川の目の前に赤い観覧車が浮かび上がった。
突如沸いたイメージのあまりの鮮やかさに、白川は驚いて「あっ」と声をあげた。
あれは小学校の2年生の時だった。
白川は両親に連れられて、S県の遊園地に遊びに行った。
そこで両親の目を盗んで観覧車の裏側に回り込んだ白川は、
それと知らずに緊急停止用のレバーを引いて、観覧車を止めてしまった。
観覧車は30分間以上もの間止まり続け、ゴンドラに閉じ込められてパニックになった婦人が、
30メートルの高さから窓を破って地面に飛び降り、遊園地は大混乱となったのだった。
どうしてこんな大事を忘れていたんだろう。
白川の口内には、嫌な味のする唾液が溜まっていた。
レバーの味と、嫌な思い出と、酸っぱい唾液が混ざり合い、白川は吐いた。
次は、「部屋」「シャツ」「象」
560 :
「部屋」「シャツ」「象」:02/06/23 12:19
「象ってアフリカとかインドにいるんだよね、寒くないのかな」
「そりゃ寒いさ」と適当に相槌をうつ。
学校さぼって二人で来たのはいいが、平日の動物園は寂しすぎる。
「このホッカイロ投げたら集まってくるかな? 『あったかいよー』っていって」
「止めろ止めろ。それに本当に寒くなったら厩舎に入れるだろう」
「そっかー。だから冬は動物園閉まっちゃうんだ」
なんで学校さぼったんだろうかと、さっきから考えている。
別に二人きりになりたかったわけじゃない。
じゃあなんで学校さぼったんだろう。
さっきからずっと答えは出てる。
隣にいるデート気分の彼女には悪いが、俺はその答えを引き延ばしたいだけだ。
制服のブレザーもYシャツもすり抜けて、秋の終わりの風が肌に触れる。
もうじき冬が来る。
アフリカにもインドにもいない。今おまえは日本にいる。
象はその大きい体を自分の部屋に押し込めればいい。
「なあ今から学校に帰んね?」
学校帰って勉強して先生と相談して進路決めて願書書いて……。
----
次は「雑誌」「灯台」「層」で。
561 :
「雑誌」「灯台」「層」:02/06/23 15:07
ザーザーザーザー
深夜3時。デスクの上にある電源がはいったままの14インチの小型TVでは、すでに番組がやっていない。
私は打開作を練っていた。我らが編集部の1週間の結晶である、「週刊2ch」
読者層はもちろん2chがなくては生きていけないような、「2ch依存症」の人間なわけだが、
そういういわゆる引きこもり体質の多い人間は、表紙にギコ猫がびっしり書かれた「いかにも」な
この雑誌を買う勇気がないらしく、立ち読みされて終わる部類の雑誌という不名誉な位置についてしまっている。
ようするに需要はあるわけなのだから、買う側の負担、つまりこの場合は「買うときの羞恥心」
を軽減してやればいいわけだ。つまり表紙デザインの改変である。
今までは2chのシンボルともいうべきギコ猫を、様々な形で登場させ、あくまでも2ch然とした雰囲気を目指していた。
それならば、2chという言葉と関連性のないものを表紙として使っていけばいい。
だが、あまりにかけ離れていても、私はどうかと思うのだ。
雑誌の表紙はその内容を簡潔にまとめた、いわゆる目次のようなものであり、
そこで興味を惹かれない限り、いくら2ch依存者達にとって買いやすい物だろうが、なかなか購買意欲自体が沸いてこないだろう。
なにか打開作は・・・。悩む私にの目が、ふと目の前のTVにとまる。相変わらず番組はやってない。
そういえば消すのを忘れていた。電源ボタンに指をのばそうとして、私は愕然とした。
そこにはまさに私の目指していたものがあったのだ。
「まさに灯台下暗しだったわけね・・・」
目処はたった。これで週刊2chの未来は安泰だろう。
私の指がTVのリモコンのチャンネルボタン、「2」にふれた。画面の内容は変わらなかった。
次は「夏」「うちわ」「パチスロ」で。
俺はただいつものようにパチスロに行きたかっただけなのだ。
それなのに・・・
梅雨時だというのに今日は太陽がぎらぎらと照りつけ、これから到来する夏の予行演習であるかのように蒸し暑かった。
さすがにうちわしかない6畳一間の部屋でこの暑さに耐えられるわけもなく、空調の利いた近所のパチンコ屋に行こうと思い立った。
ポケットの中のなけなしの金―――幸い給料は日払いで貰える―――を確認し、俺の腕をもってすれば3時間は涼めるだろうと踏んだ。
その後は、と俺は自嘲した。財布だけでも涼しくなりゃそれでいいってことさ。
ところが、である。
俺は運悪く大通りの交差点で信号に引っかかってしまった。
仕方なく俺はうちわ(部屋から持って来たのだ)を頭にかざした。
その時だった。道の向こうから苦悶の表情を浮かべつつ必死に走り寄る女性の姿が視界に飛び込んで来た。
凛としたつぶらな瞳、荒い息を吐くふくよかな唇、上気してほんのりと紅い顔、それはまさに戦いの女神のように生命感に溢れ美しかった。
ふと、彼女の手に偶然にも俺のと全く同じ絵柄のうちわが握られている事に気づいた。
彼女も俺のうちわに気づいたらしい。そのまま彼女は俺の許へと駆け込み、耳元に暖かい吐息を感じるほど唇を寄せこう言った。
「3枚目のうちわ。」
そして何のことかわからず困惑する俺の頬に一瞬唇を押し付けた後、女性はまるで追っ手を恐れるかのように走り去ってしまった・・・
俺はこの後、「3枚目のうちわ」の謎を解くべく3年の歳月と6ヶ国にわたる旅をすることになる。
「夏」「うちわ」「パチスロ」のお題でした。
次は「水」「魔」「瞬く間」で。
564 :
「水」「魔」「瞬く間」:02/06/24 13:28
僕は学校のプールの授業を見学していた。なぜなら水着を忘れてしまったからだ。
ほかに見学してる人は誰もいなかった。僕は一人プールサイドのベンチに腰掛け、ぼんやり眺めていた。
みんな楽しそうだな・・、僕はみんなに羨望の眼差しを送っていた。
一人はバタ足をして、そこから水しぶきが太陽に照らされまぶしく跳ね上がっている。ある一人は潜水を長く楽しそうにやっている・・。
たまには眺めるのも悪くないか・・、温和な気分だった僕はうとうとしていた。その時、一声の悲鳴が上がった。
「キャー!!プールの底になにかがいる!!」
その声に僕ははっとして目を覚ました。そして悲鳴の上がったほうを見てみた。僕は凄まじい光景を目の当たりにしてしまった・・
僕が見てすぐにプールの中央付近に渦ができ、そして瞬く間にその渦は勢いを増してすさまじい渦潮の如くと化した。
そしてその渦潮の中心からは凄まじい形相をした「魔人」らしき物が顔をあらわした。
いつの間にか空には暗雲が立ち込めている。僕はこんな事がこの世にあっていいのかと錯乱してしまった。
だが実際に起こっている。僕は息をのんでその光景を見届けることにした。
プールに現れた魔人はまず巨大な腕を伸ばし、近くにいた引率教師をさらっていった。そして次の瞬間、あたりには激しい血飛沫が舞った。
魔人は引率教師を捻り潰し、その生き血を啜ったのである。プールは鮮血で赤く染まっていった。
キーンコーン・・、校舎から授業終了のチャイムが悲しく鳴り響いた。惨事をあざ笑うかのように・・
魔人が次の獲物めがけ腕を伸ばしたその時だった。空から、もう授業は終わったぞ、起きろ。と場違いの声が上がった。
だが次の瞬間、僕は陽光の下にいたのだった。僕は夢を見ていたのである。僕は胸をなでおろした。
それにしても恐ろしい夢だったな・・。僕は体に怯えを残しながらプールを後にした。
次は「横断幕」「サポーター」「稲妻」で
565 :
「横断幕」「サポーター」「稲妻」:02/06/25 01:50
横断幕の用意という命令が下った。
俺はコンソールを操作し、所定のプロトコルに従って、
エネルギーの放出量をプログラミングした。
肉眼で観察はできないが、宇宙空間に横断幕が掲げられる。
俺の乗っている巡航艦随伴護衛艦、通称サポーターと呼ばれているが、
それ自身にはたいした火力も持たず、主に母艦たる巡航艦の補給や修理
など補助的な役割を担っている艦である。
ほぼ唯一と言ってよい攻撃手段として、横断幕の形成がある。
母艦に対して指向性のあるエネルギーを放出することにより、
特殊な力場を形成させ、そこに敵艦が接触することにより、ダメージを与える。
このような技術が開発された頃は、【横断弾幕】などと呼ばれていたが、
いつのまにか【横断幕】という通称が一般的になっていた。
眼の端に稲妻のような閃光が走った。敵はいきなり撃ってきたらしい。衝撃が走る。
人が死ぬ前には、走馬灯のように今までの思い出が浮かび上がってくると言う。
しかしその瞬間に、俺は地上で見た花火のことが思い浮かんだ。
どうやら、俺たちの艦は死神の鎌の一振りを逃れたらしい。
俺は帽子を拾い、被りなおすと、コンソールの前に座り、次に予想される指示に沿った
プログラミングを開始した。
次は、「あじさい」「発光」「酸素」でお願いします
566 :
「あじさい」「発光」「酸素」:02/06/25 06:22
私は小学校の教員に向いていないのかもしれない。先日も、
「どうしてあじさいは色が変わるの?」
そう聞かれてその場で答えることができなかった。
たしか梅雨時になると色が変化すると記憶しているが、詳しい理由までは分からない。
――先生、大人のくせにそんなことも分からないんだ
全くもって面目ない。深夜、ぽつんと発光する蛍光灯の下でひとり調べ物をしている。
何々?――土壌の酸性アルカリ性の具合によって青から赤へ変化します
酸性……ええっと、酸化能力、つまり酸素を付加する能力であって……
ああもう!こんなこと子供達にどうやって納得してもらえば良いのだろう。
自分は真面目すぎるという。
そんな質問に対し、同僚が「その方が綺麗でしょ」と答えていたのを思い出す。
無難な答え方だとは思う。でも、小学生とはいろんな事に興味を抱く多感な時期でもある。
質問には自分のできる範囲で真摯に答えてあげるべきだと思う。
――私を悩ませる難題は続く。
空はどうして青いの?
どうして僕だけお父さんがいないの?
どうしてサンタさんの乗ってるソリは浮いているの?
分数のわり算なんて納得できないよ
私をあっと驚かす質問や、素朴な疑問、答えようがない難題、様々だ。
私が教えているのか、それとも子供達から教わっているのか。
あくまで生真面目に答えようとする自分は、しばしば、からかわれているとも思う。
ただ、子供達の質問の回数だけは増えていった。
---------------
殺伐とした昨今、こんな先生に巡り会えるといいねとか思って書きました。
次は、「波止場」「板挟み」「原動力」
567 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/25 08:41
「波止場」「板挟み」「原動力」
源蔵は今日も労働していた。
石炭を放り込み、弁を開け、缶のテンパアチュアを調節するのである。
源蔵は汗を拭かぬ。
右手は円匙の端を握り、左手は円匙の柄を握って居るのだ。
炉扉のリズムが彼に不断の労働を要求する為、源蔵は額を拭うことすら侭ならぬのだ。
源蔵は「波止場」と呼ばれる出張りに足を掛け石炭山の奥のほうに円匙を伸ばす。
黒く輝くダイアモンド、このエネルギイの塊が缶に入って炎となりこの大工場を動かすのである。
大工場から産生された工業品は渦潮のように市中へ流れ、やがて国土の隅々にまで行き渡る筈だ。
即ち源蔵がそれらの原動力なのである。
源蔵こそが原動力なのである。
石炭滓と煤煙で真黒に染まった顔、これが労働者源蔵の顔だ。
貧窮と多産に板挟みされる苦悩が滲み出て来るのだ。
己の両手以外何ひとつ持たぬ源蔵である。
働く事でしか解決できぬ問題なのだ。
だから源蔵は労働するのだ。
今日も源蔵は労働するのだ。
次回お題「焚き火」「船」「視線」
568 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/25 09:43
15行以上書くんじゃねぇゴルア
もしかして16行書いた俺に言ってますかバーン
>>568 >15行以上書くんじゃねぇゴルア
16行以上とか正してみてさらに事態の混乱を招いてみるテスト
読み手に優しく改行したら15行越えるケースが大方だがどうする?
と発言して周りの視線を窺う試行錯誤
当面は15行(1行40文字くらい)を目安にしてみたらと提案して
渡りに船をつけ、護摩を焚き火のないところに煙を立てず、
スレの繁栄を模索する祈祷
こんな煽りでお題が流されてしまったこの事実――
出題された方に『禿』しくお『詫び』して文章を『結ぶ』次第であります。
571 :
「焚き火」「船」「視線」:02/06/25 16:34
俗世から離れる冒険の一日目。
私がこの無人島に上陸して初めて過ごす夜。
夜営には火が欠かせない、そう思い私は近くの朽木を集め焚き火の準備をしていた。
火をつけようとした時、ふとどこかから視線を感じた。私はその視線の方向を振り返った。
そこには海上に浮かぶ一隻の漁船があった。船上の誰かがこちらを振向いたのだろうか。
いや、気のせいさ。この暗闇から人を識別できるはずが無い。
私はひとときの安堵を感じた。そして安堵と共に眠気もやってきた。
もう寝るか。
私は漆黒の海原の一点の燈を見ながら安らかな眠りについた。
こうして私の一日目の夜は更けていった。
次は「積乱雲」「コップ」「アンテナ」で
130じゃ天才とは言えんな。
180くらいないと天才とは呼びたくない。
573 :
「積乱雲」「コップ」「アンテナ」:02/06/25 20:03
翌朝、空が白みだすと同時に、私は夢の世界から引き戻された。
体をゆっくりと起こし、目を瞑り、潮騒の心地よい音に耳を傾けた。
ここには、醜悪な人の世は存在しない。昨日、ほとんど思いつきで
無人島まで来てしまったが、後悔はしていなかった。残りの一生を
すべてここで費やしてもいいとすら思った。
目をあけて、砂浜に目をやると、波打ち際にはガラスのコップや空き瓶
なんかがポツリポツリと打ち上げられている。人間社会の切れ端が
こんなところにも迷い込んでいる。そう考えると、まるで自分のようで
滑稽に感じられ、口の端が自然とほころんできた。
さざめきたつ海原は、朝焼けの紅い光をかき乱しながら輝き、まるで
宝石が一面にちりばめられたような光景を描き出していた。水平線の上に
乗っかっている積乱雲も立体的に薄赤く染め上げられ、私の心をときめかせた。
ところで、そろそろテレビ放送が始まる時間だ。私は暇つぶしのため、
テレビを一台持ち込んでいた。あ、しまった。アンテナを忘れた。
ていうか、電波とどいてるのか? あぁ、やばいっ。
今日はウルトラマンコスモスが最終回だ。
私は、水平線に向かって船を走らせた。現実逃避は明日からにしよう。
テレビ、間に合うかな・・・。
次のお題は、「鉱物」「化石」「層」
574 :
「鉱物」「化石」「層」:02/06/25 22:27
ヒリチェイはカモレ湾に面する小国である。
主要な産業はバナナなどの熱帯農業と観光業。
国民のうちヒリチュ人が68%、ハラ人が17%を占め、
その他にウロウ人、ナワシ人、レッキバ人などが居住している。
公用語はフランス語だが、実際に使用される言語はエレユイ語である。
エレユイ語はナワシ語を基層言語としてヒリチュ語やフランス語の影響のもとに形成された
一種のピジンフレンチであり、カモレ湾一帯の商業言語となっている。
宗教はカルメル会由来のローマカトリックが多数を占めるが、
レッキバ人の火山信仰やウロウ人の鉱物についての習俗は
フランス人勢力浸透以前のヒリチェイの宗教の一様相を今に伝える。
最近米国の石油会社によってカモレ湾口での石油資源採掘が行われ、
従来ベネズエラからの輸入に頼っていたヒリチェイの化石燃料事情に
大きな変革をもたらすものと期待されている。
次回は「期待」「フレンチ」「公用語」
「期待」「フレンチ」「公用語」
ヒリチェイはカモレ湾に面する小国である。
主要な産業はバナナなどの熱帯農業と観光業。
国民のうちヒリチュ人が68%、ハラ人が17%を占め、
その他にウロウ人、ナワシ人、レッキバ人などが居住している。
公用語はフランス語だが、実際に使用される言語はエレユイ語である。
エレユイ語はナワシ語を基層言語としてヒリチュ語やフランス語の影響のもとに形成された
一種のピジンフレンチであり、カモレ湾一帯の商業言語となっている。
宗教はカルメル会由来のローマカトリックが多数を占めるが、
レッキバ人の火山信仰やウロウ人の鉱物についての習俗は
フランス人勢力浸透以前のヒリチェイの宗教の一様相を今に伝える。
最近米国の石油会社によってカモレ湾口での石油資源採掘が行われ、
従来ベネズエラからの輸入に頼っていたヒリチェイの化石燃料事情に
大きな変革をもたらすものと期待されている。
次は「コピペ」「マジレス」「アイデア」
577 :
「コピペ」「マジレス」「アイデア」 :02/06/26 00:47
時は既に丑三つ時、満月が霞んだ雲の向こうに朦朧と浮かび上がる。
びゅうと吹く風も、体にまとわりついてくるように重苦しい湿気を帯びている。
校庭に六星芒形の魔法陣を描き終わった僕は、魔法陣の前に座り込み、
地面に『The Servant』という本を広げ、ペンライトの明かりで、ある行をなぞった。
『The Servant』は、天使や悪魔を召還するためのアイデアが羅列されており、
僕が目を通した行には、天使・セラフィムの召還方法がかかれていた。
僕はしっかりと呪文を頭に叩き込み、やおら立ち上がり、両手を広げて叫んだ。
「ナトタビシコピペチーチッサー」
刹那、風がぴたりとやみ辺りを沈黙が包み込んだ。そして次の瞬間、
魔法陣から眩いほどの光が噴き上げ、ゆっくりと押し出されるように一匹の竜が
姿を現した。『The Servant』で見たことのある姿だ。
こいつは、悪魔・レヴァイアサンだ。
マントルが対流するように、濃厚な恐怖が全身へ拡がっていくのが分かった。
ジットリと手にかいた汗が、それが錯覚でないことを物語っている。
レヴァイアサンは、硬直したまま身動きが取れない僕に向き直り、次の瞬間、
ストロボ光線のように、その大きく裂けた口から勢いよく火炎を吹きだした。
次の瞬間、僕の頭は吹き飛んでいた。
次のお題は「小春日和」「初恋」「縁側」
578 :
「小春日和」「初恋」「縁側」 :02/06/26 05:11
「これこれ、裕太も愛ちゃんも、喧嘩しちゃあいかんよ」
小さな頭をつーんと反らし合ってお互い口を利かない。けれど離れるわけでもない。
やんちゃな年頃で目に入れてもいい。どれだけ寿命が延びたことやら。
「聞いて!桑原のおじいちゃん!裕太、ワタシとケッコンしないなんて言うのよ!」
「ばーか!ばーか!健司おじさんも言ってたよ。ケッコンなんてメンドウだって!」
もう二言三言掛け合った後に、愛ちゃんはぐずぐずと泣いて走り去ってしまった。
「裕太や、お前さんから謝ってやんなさい」
「……僕悪くない」
駄々をこねるように、ほんのりと鼻を湿らしている。まあ、そのとおりなんだが。
「男の子はね、それはそれは広おい心を持っておるものじゃよ。
儂はてっきり裕太もそんな強い子とばかり思っておったのじゃが……」
しばしの幼い逡巡の後、結果的に私はひとり縁側に取り残されることになる。
初恋もまだ知らない二人だけど、案外ずっとうまく行くのかもしれない。
ふいに、先に待っている妻のことが思い出される――私は幸せでした
では自分もそんな風に旅立とう。安らかな小春日和の最期のひとときであった。
---
とりあえず、次のお題は無難に無難に
「似顔絵」「小麦畑」「藤色」
久しぶりやね。みゆきちゃん。
手紙ありがとう。ホントうれしかったとよ。
わざわざ出してくれたのに、返事遅れてすまんかったね。
今年の正月に会って以来だけん、もう半年以上連絡
しよらんかったとねぇ。相変わらず元気でやっとるようで、
安心したばい。
おれも相変わらず東京でがんばっとうよ。やけど、ちょっとだけ
自信なくしとったとよ。
おれって、似顔絵とか得意だったけん、美大に入る前は
結構自信あっとうたい。やけど、周りの連中はもっと凄かったと。
小麦畑継ぐのいやだったけん、画家になるばいゆうて、
親と喧嘩して上京した手前、なかなか親には弱音吐けんと。
これからどげんしようかとか、悩んどったけど、
みゆきちゃんのこととか、ふるさとのこと思い出してたら、
なんか元気でてきたばい。
今年も正月しか帰られんのやけど、正月に会ったらまた話そうや。
そしたら、また手紙かくけん、元気でな。
斎藤色哉
次のお題は、「姫」「城」「不死」
方言はかなり適当です。
580 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/26 20:44
>斎藤色哉
な、なんかエロそうな名前・・・
581 :
名無し物書き@推敲中?:02/06/27 00:36
私は目を疑った。もう30年も前にお世話をしていた姫が、この明治の街をあ
の頃と変わらぬ姿で通りの片隅で泣いているのだ。38歳になっているはずの
姫が8歳だったあの頃と変わらぬ姿で。もう80歳を過ぎた私が幻を見ている
のか?私は思わず近ずいた。
やはり姫だ。
私に気付いた姫は呟いた。
「どうして城をでたの?わたしはずっと待っていたのよ。」
「・・・・、どんなにあなたのそばにいたかったか。どんなにあなたの成長を
見守りたかったか。」
私は思わず言った。戦にかりだされ、戦乱の世が私と姫をひき裂いた。
もし、許されるのなら、この先の短い私を不死にして姫と共にまた日々を送り
たい。
もう一歩、近ずくと姫は煙の様に消えてしまった。
その後、風のたよりで姫は私が城を出たすぐ後に病で亡くなっていたことを
知った。
「リモートコントロール」「バリア」「コピー」で夜露死苦
582 :
「リモートコントロール」「バリア」「コピー」:02/06/27 01:49
「リモートコントロールって怖いなぁ。」
ワケの分からないことをいきなり呟いたのは、アタシの父だ。ボケーっと
居間のテレビでニュースを眺め、顔中の筋肉をたるませ無防備な表情をしている。
普通の家庭風景といえば、そうかもしれないが、アタシは内心ギョッとしていた。
というのも、死ぬ間際まで痴呆で家族みんなに迷惑をかけた祖父の姿が
ぱっと頭に浮かんで、それがまるで今の父のコピーのように一致したからだ。
祖父は、生前、リモコンを異常に怖がっていて、冗談でリモコンを
向けようものなら一目散に逃げていったものだ。なかなか可愛い反応だが、
今思えばこれも痴呆の症状だったんだろうと思う。
父は、今年で51だ。ボケるにはまだ早過ぎる歳だし、大黒柱にボケてもらっては
洒落にならない。それでもアタシは、恐る恐る父にリモコンを向けてみた。
父は怪訝な顔をして、アタシを見つめている。アタシは、そのまま2CHのボタンを押してみた。
「バリアー!」
父は、顔の前で両腕をクロスさせ、大きな声で叫んだ。このヤバめの反応は・・・。
アタシの脳裏によぎったのは、祖父の痴呆と付き合ってきた長い日々と、
これから訪れるであろう暗い我が家の行く末であった。
人知れず絶望に打ちひしがれていたアタシに、父が笑いながら言った。
「リモコンじゃ無理だって。さっき、父さんがマインドコントロールが怖いって言ったから、
そのつもりでやったんだろうけど。」
・・・お父さん、いい間違えかい?
お次は、「思い出」「国境」「手紙」
583 :
「リモートコントロール」「バリア」「コピー」:02/06/27 02:09
当世髄一とよばれた大奇術師だった。でも客は少ない。
科学万能の22世紀、不思議は不思議でなくなっていた。
「杖がひとりでに空間を浮遊します!」と言いながらも奇術師は思う。
(でも、これって杖をリモートコントロールすれば誰でも・・・)
もちろん彼はそんな事はしない。客もそれは信じてる。ただ・・・
「鎖で縛られ、箱に閉じ込められた愛しき助手が、一瞬でニューヨークに!」
(クローン培養のコピー人間がいれば簡単だよねえ、こんなの。トホホ)
そんな事はおくびにも出さず、彼は最後の「空中ブランコ」に挑戦する。
「さあ、安全ネット一切なし!高度100mの空中ブランコでーす」
これだって、目に見えない電磁バリアがあるだろうと言われれば・・・
気の緩みからか、ブランコから滑り落ち、地面に叩き付けられる奇術師!
・・・観客が密かに望んでいた最高の見世物である。
薄れゆく意識の中で、奇術師はこう思った。
「大丈夫さ。高度クローン技術で培養された俺のコピー人間がきっと・・・ぐふ」
※なんかくらい
次ぽお題は:「浴衣」「豊か」「味方」でお願いします。
584 :
ごーぱっさん:02/06/27 02:11
ごめん、遅れました^^;
次のお題は>582さんの:「思い出」「国境」「手紙」でお願いします。
585 :
「思い出」「国境」「手紙」 :02/06/27 04:36
世界にはどうして境い目があるのだろう。
ケーキでも切り分けるかのように国境に我が身を切り裂かれた人間にとって
なおさらそれが強く感じられる。内紛のおりに、
私の家族は、トルキア共和国と私の住むグルジニ自治州に色分けされた。
言葉も宗教も変わらないグルジニ自治州に、実は独立すべき明確な理由はない。
だが石油資本がそれを許さなかった。強引に議会を抱き込み独立を強要したのだ。
まだ、さすがに国際社会の承認は得られないものの、自治州としては
考えられないほど既に資本が入り込み、生活そのものは豊かと言えよう。
トルキア共和国の戦争の傷跡はまだ全然癒されないというのに――
風の噂で、私の家族は(腹違いの)妹を残して全員戦死したと聞いた。
それで私は、残された妹にいくらかの紙幣を同封して手紙を送り続ける。
私は昔の思い出を、妹は明日の暮らしを手紙に吹き込むことが多い。これが、
過去のみ糧に生かされている人間と、明日の糧が必要な人間の違いなのだろうか。
……
「なあジョン、あの未亡人の好きな花ってなんだっけ?」
「情報部の調査によるとたしか――ベルフラワー、押し花に使っていたらしいぞ」
「ああ、前の分の手紙に入っていたな。思い出話に付き合うのって実にキツイのだが」
「クビになりたくなければ黙って働け」
「それと、送られた分の紙幣は手当として支給されるらしいぞ」「確実に嫌がらせだな」
---
お題から悲しい話しか思いつかんかった。それと、改行の仕方が鬱陶しいの少し反省。
お次は(萎えないこと期待)、「群像」「レーゾンデートル」「ギャロップ」
586 :
「群像」「レーゾンデートル」「ギャロップ」 :02/06/27 22:51
鬼野校長が卒業の祝辞に立った。壇上には何やら妙な段ボール箱もある。
え〜
君たちは高校を卒業と同時にこれから様々な岐路に歩み出すことだろう。
ある者は大学に進学し、ある者は社会に飛び出していく。例えるならば、
君たちは競馬場で遙かなるゴールを目指して一列に並んだ駿馬達だ!
――こほん
百合恵女史が軽く咳払いをする。空気が引き締まる。
教師ではなく女史と呼ばれているのはこのような理由からだ。
だが、今日の校長はひと味違った。
これから校門というゲートを飛び出して旅立とう!
君たちが青春の群像を謳歌するのはこれからだ!
幸い、世間の君たちへの注目はまだ高くない。
だがらこそ私は君たちのオッズはかなり高いと見ている!
私はみなに一点買いするぞ〜!
校長は段ボール箱を生徒達に向かってぶちまけた。紙吹雪が宙を舞う。
中身は大量の千円札だった。うお〜!という生徒の狂乱が広がる。
――それって一点買いなんかじゃない!
女史は見当はずれな悲鳴を挙げるが、幸か不幸か誰一人として聞いちゃいない。
体育館はお札を奪い合う生徒達で悲喜こもごもの修羅場と成り果てている。
いいか!現実は平坦な馬場ではない!山あり谷ありの障害物レースだ!
だが案ずるな!君たちには共にギャロップしてくれる友人がいるのだ!
そのことをこの話のレーゾンデーテルとして締めくくりたい!
……
「なあ、クビになった校長、卒業式前日、競馬で馬鹿勝ちしてたらしいよ」
「ふーん、それで、演説に出てきたレーゾンデーテルってどういう意味なんだ?」
「分からなかったのか?」「ああ、さっぱり」
「ならそれがあの話のレーゾンデーテルなんだろう」
---
好き嫌いが分かれそうでコワイ
お次は「青空」「駐車場」「擬餌針」
ギリシアで、新たに発掘された神殿から、無造作に並べられた人の像が多数発見された。
怒りの形相を浮かべ、今にも襲い掛からんとばかりの迫力を持った石像。
恐怖におののき、尻餅をついているへたりこんでいる石像。
「闘う群像」と名づけられた、これら一群の石像は、どれもこれも本物の人間と
見まごうほどの美しい造形を持っていた。
作られたのは少なくともルネッサンス以降。ほとんど全ての学者がそう思い込んでいたが、
放射性物質の半減期を利用した年代測定では、
石像が作られたのは紀元前1500年頃、という結果がはじき出された。
学者達はこの意外な結果をどうにも消化しきれず、百家争鳴の議論が
連日繰り広げられた。
「高度な技術を持った文明が昔にもあったんじゃないのか?」
「捏造だろう?」「宇宙人が作ったんだよ」「プラズマで説明できます」
どの学説も全く要領を得ず、議論は進まないうちにまた新たな発見がなされた。
MRIで石像の断面を解析したところ、石像の中に内臓などの輪郭が見つかったのだ。
こんな芸当は、科学技術が進歩した現在ですら不可能だ。
外面だけでなく、内面をも人間を忠実に模倣された石像。一体これらの石像の
レーゾンデートルとはなんなのだろう。誰が何のためにどうやって作ったのか。
学者が一層頭を抱えている中、今度は神殿の奥から新たに玉座が発掘された。
玉座に腰をかけていたのは、首の切り落とされた白骨だった。
そして、玉座のそばには馬がギャロップした蹄の跡も確認された。
--
先越されちゃった。
もちろん次のお題は、「青空」「駐車場」「擬餌針」 のままで。
レーゾンデーテル → レーゾンデートル
スマソ
[(フランス) raison d'etre]
外来語ということで堪忍してーな
590 :
、「青空」「駐車場」「擬餌針」 :02/06/27 23:41
青空というでかいキャンパスの上を、浮雲がすいすい泳いでゆく。
涼風は肌を軽くなでる。春の陽気はなんとも心地のよいものだ。
こんな天気のいい日曜日は、遠くまでドライブしたくなってしまう。
祐一は浮かれ気分で、駐車場まで歩いていった。
そして、車のそばに一万円札が落ちているのを見つけた。
いい日には、いいことが重なるもんだ。
笑みを浮かべながら、祐一は一万円札を拾い上げた。
そうして財布に入れようと思ったら、手からお札が離れない。
祐一は自分の目を疑った。しかも、お札はだんだんと上に上がっていき、
終いには祐一の足は地面から離れてしまった。
一方、浮雲の上では、雷様の親子が釣りをしていた。
「パパ、擬餌針になんかかかったよ。」
「本当かぁ。今日は大量だなぁ。うちに帰ったら天ぷらにして食べような。」
次のお題は、「蘭学」「化け猫」「命」
591 :
「蘭学」「化け猫」「命」 :
あたしと化け猫さんは大の仲良しだ。
お父さんやお母さんは化け猫さんのことを怖いって言うけど、
なんで怖いんだろう?あんなに優しいのに・・・
でもこんなことお父さんたちに言ったら、叱られるんだろうなあ。
「もう外に遊びに行ってはいけません!食べられたらどうするの!」なんてね。
今日もあたしはこっそり化け猫さんのところに遊びに行った。
化け猫さんはとっても勉強やさんだ。
あたしんちから持ってきた蘭学の本を面白そうに読んでいる。
あたしにはチンプンカンプンなんだけど、本の中身を
あたしにもわかるように教えてくれる。
「妙ちゃんは命ってどこにあるとおもう?」
「んー、ここかなあ?」そう言ってあたしは胸に手をあてた。
「うん、そこにも大事なものが詰まってるけど、本当はここにあるんだ」
そう言いながら、化け猫さんはあたしの頭を軽く撫でた。
化け猫さんの手は爪が伸びていて、ちょっと痛かったけど、
暖かくて、あたしは少しうれしくなった。
次は、「飛行機」「陰陽師」「オムライス」でお願いします