結局途中切れになったんかな、と思ってたらちゃんと続けてたんだねぇ。
なんか良い感じ。少なくとも最初に書いた奴よりはよっぽど上手くなってる。
頑張ってくれ。チョト応援したくなたよw
セリフがちょっと演出過多かなぁとか思う。
>109
>110
有難うございます。最後まで、頑張ります。
台詞、についてもおいおい勉強してゆきたいと思います。
ついつい乗り移って(笑)。
クロック(27)
重雄は「哲学」を持った。
およそそんな高尚ぶったものとは無縁の男である。しかし、己の死に直面し「生と死」について考えざるをえなくなった。
(生きるとは何か、死ぬとは何か)重雄は模索した。もがき、苦しみ、やがて、一つの結論を得た。
――なんだ、あたりまえじゃねえか
否定しなければよい。認めてしまったらいい。否定するから、苦しくなる。重雄の心は、秋の空のように澄みわたっていった。
これだけなら、よかった。
重雄は、水を足したやかんを再びストーブにかけた。
じゅうううっ、と音がする。重雄は座った。顔は、紅潮している。
篤は、泣いていた。
ここに来た意図も忘れ、ただただ、美紀の事を思い出し泣き続けていた。そして、いかに自分が美紀の事を愛していたかも、覚った。
部屋は、暖かかった。
ストーブと、狭い部屋に男がふたりいるせいであった。共に体温が上昇している。
重雄は首を掻いたり、「ふふっ」と笑ったりしていた。どうやら話の続きをしたいらしかった。
篤が顔を拭うと、それを合図に、重雄は言葉を発した。
「なぁあんた、突き落とした奴が憎いかい?」
重雄は臆面なく言った。
「………」篤は黙っていた。
重雄は、卓袱台の上で両手を組み、篤の顔を覗き込むように、ひどく真面目な顔で言った。
「けどそれは、おかどちがいってもんだ」
「……なぜです」
「何度も言うがな、それは『運命』なんだ……あんたの女が生きる運命なら……『時間』がまだあったのなら、死んだりしなかったはずだ」
「………」
「ほら、『九死に一生を得る』って聞いたことあんだろ? あれさ……生きる運命だった奴は、みなそうさ…どんな事があっても死なない」
「………」
篤は、少しずつ冷静さを取り戻してきた。それと同時に、この初老の男が言う言葉に、だんだんと、違和感を感じ始めていた。
「だからよ」重雄は、恐るべき事を口にした。
「試してやんたんだ……あんたの女の、『時間』をよ……」
時間は止まった。重雄の顔は、笑っていた。篤には、その顔が見えていたのかどうか判らない。
「魂」を抜き取られていた。
クロック(27)
奈津美は、学校に残っていた。
今日は、終業式である。明日から冬期休暇であった。皆、解放されたように学校を出て行き、校内は閑散としていた。
奈津美には恋人がいる。中学校の同級生で、現在は別の学校に通っていた。その少年から昨夜、
「おまえ、いいかげんにしろよ」と、電話越しに言われた。
奈津美は、クリスマスの誘いを断ったのだった。原因は、篤である。
篤の落ち込む様を見て、奈津美は居たたまれなくなった。また、映子の行動を目の当たりにして、何時の間にか、「自分にとって、篤の存在とは何か」と常に考えるようになった。
友人―そんな言葉で片付けたくはない。しかし、恋愛の対象であるかというと、そうとも言い切れない何かがあった。
(映子は、何故別れたのかしら)
奈津美はひとり、教室の隅で小説を広げながら考えた。外は冷たい風が吹いている。
映子と篤が付き合うことを聞き、当初、奈津美は驚いたが、すぐ、
(そうよね)
と、妙に納得する自分に嫌気がさした。奈津美は、自分のことを偽善者だと思っていた。
奈津美は賢すぎた。何か問題にぶつかると、瞬時に「正しい」道が頭の中に示され、それに従わねばならないという強迫観念めいたものが、この少女の中にあった。
それに逆らう事は、自身の否定に繋がる。「優等生」の奈津美にはできない事だった。
(ばかだわ)
奈津美は小説を閉じた。自分は、こうして十数年間生きてきた。今さらそれを否定した所で何になろう、そう思いながら奈津美は席を立った。
「」を多用すると読みにくい文章になるよ。注意ね。
>114
どうも、体質なのかねちっこい文章になりがちです。
さらっと読みやすい文章になるよう心がけます。
今、読み返すと、仰るとおり「」が不要な語句が多々ありますね。以後、気をつけます。
クロック(28)
奈津美の教室は二階にあった。
十字路を想像してほしい。横に走る廊下の、左の突き当たりが奈津美の教室だった。
四組である。隣に五、六、七と全部で四クラス並んでいた。篤は一組で、奈津美の教室の真下にあった。映子は、篤と同じ一階で、三組である。
二年生の教室は、全部で七つあり、一、二階に渉っていた。全て左側である。縦に走る廊下を挟んで右側は、一年生の教室だった。
一年は五クラスしかない。原因は児童の減少等が挙げられるが、この物語に関しないので略す。問題は、空き教室にあった。
二階は五組だけで、右隣二教室は開いていた。その一番端、廊下の突き当たりが用務員室であった。
元々は一階だったが、年々入学する児童が減り、空き教室が増えた為、移転に至った。
奈津美は、廊下を歩いている。
階段までは、二十メートル程だった。別に、早く帰る必要もないのでゆっくりと歩いていた。
その時。
ドン! と何かを叩く音がした。奈津美は眉をひそめた。
「きさまぁ!!」
誰かが怒鳴った。奈津美は肝をつぶした。廊下の突き当たりから聞こえてくる。奈津美は、恐る恐る足を進めた。
廊下を渡る。
一年生の教室には誰もいない。その隣は空き教室である。奈津美は、用務員室に近付いた。
「もういっぺん、いってみろ」篤は凄んだ。
「おれが、突き落とした」重雄は、淡々と言った。
篤は混乱した。重雄の言は、軽くない。しかし、重雄の音は、それと対照的に空気の如く軽かった。これにどう対処すればよいのか。篤は、唇を噛んだ。
重雄は、ずっと胡坐をかいていたが、それを解き立ち上がった。そして、篤に向って語り始めた。
「いいかね、俺はあの日の晩、ひどく明るい気持ちでホームに居た。覚ったんだ。家に帰って女房に謝ろうと思ってな…電車を待ってた……少しして電車は来た。そしたら、あんたの女が友達と楽しそうに笑いながら降りてきた」
重雄は、身振り手振りを交え、淡々と、しかし強く、篤に言い聞かせるように話した。篤は、黙っていた。
「俺は思った。こいつに、あとどれ位の人生があるんだろうってな、十年、二十年、おそらくそれ以上か……とにかく、俺は猛烈に試してみたくなった」
重雄は深呼吸した。興奮しているようだった。三秒ほど目を閉じてから、話を続けた。
「簡単だったよ、あっけなかった……女はポリバケツみたいに転がっていった……隣に居た女が『きゃー!』とかいってな、うるせえったらありゃしない…そんで終わりだ、女は起き上がってこなかった。俺は、満足して電車に乗った」
重雄は、死人のような篤の前へ屈み、顔を覗き込んでいった。
「なああんた、やっぱりな、運命ってのはあるんだよ……俺は、あの女があんたの女って事は知らなかった、偶然なんだ…しかしよ、こんな偶然ってあるかい? 偶然じゃねえだろこれは…あんたと俺は河辺で会った……やはり、運命だったんだよ」
「運命……」篤はかすれた声で呟いた。
「そう、運命だ」重雄は満足そうに言った。
それから、長い間二人はそのままでいた。やかんの蒸気が、静かに部屋を包み込んでいた。表では、奈津美がガタガタ震えていた。
クロック(28)
中のふたりは、奈津美に気付いていない。
奈津美は、足が竦んで動けなかった。生まれて初めての経験だった。必死で膝を抑えたが震えは止まない。唇の色も生気を失っていた。
どうする事もできず、奈津美は、とうとう座り込んでしまった。スカートを挟まなかったので、尻が直に、床に触れた。床は、氷のようだった。
中は静まりかえっている。奈津美は、胸に手を当て波打つ鼓動を抑えながら考えた。
(どうすればいい…どうすればいい…)
いつもなら光が差し込むように、鮮やかに答えが出た。が、初めて感じた恐怖に、奈津美の頭は冷静さを失っていた。
奈津美は深呼吸した。いつも、緊張は大抵これで収まった。一回、二回、三回……七回繰り返す。今までで、最高の回数だった。
奈津美は落ち着いた。震えはまだあったが、寒さによるものだと自分に言い聞かせ、考えを廻らせた。
中に、用務員の神崎と、篤がいる。神崎は篤に向って「お前の女を殺したのは俺だ」と言った……。
これが本当なら、篤は殺人犯と向かい合っている事になる。何が起こるかわからない。奈津美は、よろよろと立ち上がった。
(とめなきゃ)
奈津美の下した判断は、人を呼んでくることであった。職員室に教師がいるはずである。奈津美は、壁に手をつきながら場を離れた。
ところが――
奈津美の足は、進むのをやめた。恐怖で、動けなくなったのではない。奈津美の中の何かが、その判断を拒んだのだった。
(いっちゃだめだ)
もし奈津美がこの場を離れた後、篤の身に何かあっても、奈津美が責められる筋はない。奈津美は、自身にできる最高の行動をしたのだから、寧ろ称賛されるだろう。
しかし、奈津美の胸には生涯闇が残る。
(あっちゃん………)
奈津美は、篤とはじめて出会った頃を思い出していた。寝癖が残った頭で、優しく笑いかける篤の姿が、目に浮かんだ。
(あたし……あなたを失いたくない)
奈津美は、およそ正しくない事をしていた。しかし、その顔には迷いがない。奈津美は、女になった。
が、ドアに手をかけようとした瞬間――
「このやろう!! 殺してやる!!」
と篤の声がし、同時に、激しく音が鳴った。何かが倒れる音である。その後、数十秒経ってから篤が飛び出してきた。
篤は奈津美に気付かず、そのまま階段を駆け下りていった。奈津美は状況を把握できず、抜け殻のように突っ立っていた。中からは、
「くっくっくっく……はっはっはっはっはっは!!」
重雄の狂ったような笑い声が聞こえてくる。奈津美は、青ざめながら篤の後を追って階段を駆け下りた。
クロック(29)
篤は公園まで駆けた。
学校の帰り道にある、小さな公園である。ここはいつもひと気が少なかった。尤も、冬の事だからどこも一緒かもしれない。
篤はベンチに腰掛けた。風が、冷たい。しかし、篤の身体は火照っていた。それは走った所為だけではなかった。
ひじを膝の上に置き、両手を組んだ。眼は、その手を見つめている。手は固く結ばれ、震えていた。
篤は、興奮を冷風に晒すことによって、心が冷静になるのを待った。篤の期待通り、次第に心は落ち着きを取り戻していった。そして、用務員室での出来事を振り返った。
あれは一体なんだったのか。
夢ならばいい。しかし、拳に残る痛みは、重雄を殴りつけたものである。現実だった。
(俺は…どうしたらいい)
警察に通報した所で何もならない。美紀の両親は望むだろうが、少なくとも、篤にとっては無意味だった。
重雄は死ぬ。そんな男を牢獄に入れたところで、全くの笑い話である。重雄は狂っているのだから、精神鑑定云々と裁判中に世を去るかもしれない。
多少、気は晴れるだろう。だが、美紀は戻ってこない。それに実際、遺族である美紀の両親らにとって、美紀は事故死である方が幸せなのではないか。
知らぬが仏という言葉がある。先程の重雄の演説を、彼らが聞いたらどう思うだろう。
(警察へは、行かない)
篤は、それだけ決めた。後の事は、おいおい考えよう。篤は組んだ手を解き、空を見上げた。
空は蒼かった。雲の流れが速い。公園には誰もいない。風の音だけが篤の耳を擽った。
篤は昔、この公園で奈津美に恋の相談を受けた事を思い出した。篤は乾涸びた老人のように、あの時は良かった、などど呆けた頭で考えた。
篤は今、精神の安定を保つ為、一時的に逃避していた。
これは一種の防衛本能で、篤自身、意識しての事ではない。
篤は十七歳である。この現実は、荷が重すぎた。重雄の言う運命というものを、篤は受け入れかけていた。
「認めちまったら楽になる……」
篤は重雄の真似をして呟いてみた。我ながら良く似ていると思い、思わず吹き出した。
奈津美が息を荒げて公園にやってきたのは、ちょうどそんな時だった。
ああ。人間って文章書いてると、本当に上手くなるんだなぁ(w
もちろん、
>>1に比べてだけどね。
>奈津美は、足が竦んで動けなかった。
>篤は、興奮を冷風に晒すことによって
こういう意味のない読点がよく見られるけど癖なのか? テンポが悪くなるんだ。
120 :
くろとしろ:02/01/20 08:49
>>91>>「娘が……美紀が……しにました」
ここ上手い。ひらがなで意味を剥奪する。
>>1001と場面が重なっているのはわざと?おもしろい遊び方。
ageちゃった。ごめんw
>119
読点を打つ位置は悩みます。
どうも音より見た目で打つ場合が多いようです。気をつけます。
>120
98から117までは全て1です。
2から116までは…前置きになるんでしょうか。(笑)
文もそうですが、1でふった話を何とかしなきゃいけないと思いまして。
今ようやくどんな話になるか見えてきました。あまり話を拡げない様にしないと…。では。
クロック(30)
奈津美はベンチに座っている篤を見つけた。
息を整え、そっと近付く。篤は振り向こうともせず、ぼんやり空を見ていた。が、実際は眼を開けているだけで何も見えていないようだった。
奈津美は黙って篤の隣に座った。どう声をかけてよいのかわからない。何を言っても戯言のように思えた。
(あっちゃん…)
奈津美はこの哀れな友人の力になりたいと思ったが、自分の非力さを噛みしめるばかりでどうする事もできなかった。奈津美は唇を噛んだ。
篤はゆっくりと目線を落とした。地面には蟻が這っていた。篤はそれを無言で踏みつけた。それから、この蟻の生について考えた。
(こいつはなんなのだろう……穴蔵で生まれて、始終えさを探し回って、挙句の果てに俺に踏まれている……これがこいつの運命か? あほらしい! ……こいつら一体何のために生まれてきたんだ?……)
篤は蟻を哀れんだ。それは自分に対する慰めでもあった。俺は蟻と同じだ、と篤は思った。
(美紀…美紀、美紀、美紀、美紀! )
篤は頭をかきむしった。全てに嫌気がさした。もうどうでもいい、楽になりたい、誰か俺を殺してくれ……。
次の瞬間、奈津美は篤を抱きしめた。篤の身体は冷たかった。ふたりは誰もいない公園で大声を上げて泣いた。子供のようだった。
クロック(31)
冬は日の暮れが早い。
公園の時計は六時を少し回ったところであったが、辺りは暗かった。篤と奈津美はベンチでたこ焼きを食っていた。
人間、どうあっても腹は減る。白い息を吐きながらたこ焼きをほおばる二人の姿はなんとも滑稽であり、可笑しかった。
たこ焼きの紙皿はふたりの間に置かれている。二人は交互にそれをつついた。
「あっちゃん、今日イブなの知ってた? 」
奈津美の言葉に篤は黙って頭を振った。奈津美は三つ目のたこ焼きを口に放り込んだ。
篤は奇妙なほど落ち着いていた。
奈津美の所為だった。この少女は自分の一切を知っている。これだけで篤の心は救われた。この世で一番の幸せは理解者がいることかもしれないな、と篤は思った。
奈津美は自分の手に息を吹きかけた。外は寒い。奈津美の手は氷のようになっていた。
篤は黙って奈津美の手を引き寄せ、自分の手で包んだ。
奈津美はされるがままにしていた。緊張や興奮はない。ただ寒そうにしている自分を見て、篤がそのようにしたことが解っていた。しかし、凍えている友人の手を温めてやりたいという純粋な思いが伝わってきて、奈津美は幸せだった。
(誰にも渡したくない……映子にも………美紀さんにも)
奈津美は思った。奈津美はこのように自身の欲望を肯定した事はなかった。いつも正しい道を選択することだけがこの少女を支えていた。が、それが今もろくも崩れ去った。
奈津美は篤の手を解き、あらたに自分の手で篤の手を包んだ。
「あっちゃん…心配しないで……あなたは私が守るから」
奈津美は篤の手を一層強く握った。篤は奈津美の目を見た。大きな眼。昔この瞳に恋をしたことを篤は思い出していた。そのままふたりは吸い込まれる様に唇を重ねた。
クロック(32)
重雄は街を彷徨っていた。
今日はクリスマス・イブである。陽が落ち、灯が増えるにつれ街は若者であふれていった。
重雄は人込みに押されてよろけた。睨みつける若者に卑屈な笑を浮かべ頭を下げた。
「年寄りが出歩くなよ」若者はそう吐き捨て去っていった。
重雄は怒る事も無く、再び歩いた。重雄の心には余裕があった。
(俺はお前らとは違う)
自分は覚ったのだ。馬鹿なお前らはせいぜい浮かれているがいい。そう思っていた。
(人の命は果敢無い。それを真に知っている人間がどれだけいよう! 俺は知った。人間は死ぬ。それは生まれたときから決まっている事だ。誰にも変えることはできない……)
重雄は街を抜けた。辺りは急に暗くなった。そして、寂しい道が重雄の前に続いていた。
後ろで賑やかな音が響いている。重雄は所々ひび割れたアスファルトの道を一歩、また一歩と歩いていった。
途中街灯が灯っていない所で、重雄は陥没した地面に足を取られ転んだ。
膝を強く打った。痛みが体中を走る。重雄は歯をくいしばり身体を起こした。
顔が青ざめている。
身体も小刻みに震えていた。寒さも、膝の痛みも重雄の身体を震わすものではなかった。
恐怖だった。
重雄は死に対する恐れから身体を震わせていた。それ以外の何物でもなかった。しかし重雄は認めなかった。自分は死を克服した人間で、特別であり、絶対であり、恐怖などという陳腐な物を感ずる筈が無いと自分に言い聞かせた。が、震えはとまらない。
(くそ! くそ! くそ! )
重雄は震えを無視して再び歩き出した。心は無意識の内に光を求めていた。そして、しばらく歩くと重雄は小さな公園にたどりついていた。
クロック(33)
重雄は公園を眺めた。
狭かった。グラウンドとは名ばかりの庭のようなものが重雄の前にあった。その奥に遊具が並ぶ子供の遊び場が見える。
重雄はそこのベンチに人が座っていることに気付いた。ふたりいる。カップルだろうか。重雄はゆっくりと近付いた。
グラウンドと遊具広場は植え込みの木を挟み分けられている。重雄は木の陰から二人をのぞき見た。顔は見えない。ふたりとも黙って身を寄せ合っているだけなので声も聞こえなかった。
重雄は昔を思い出した。自分もあのような頃があった。愛する者があり、毎日が喜びにあふれ、そして輝く未来があった…。
重雄の体から全身の力が抜けた。
(帰ろう……明子のもとへ)
重雄は身を翻し、弾むような足どりで公園の出口へ向った。俺はひとりじゃない、妻がいる、愛する者がいるんだ…そう思った途端、雲が吹き飛ぶように重雄の心から闇が消えていった。
公園を出た。道の脇、側溝には枯れ落ち葉が溜まっていた。そこに、枯葉に紛れ、子供が忘れていったのか金属バットが転がっていた。
(………)
重雄は何となくバットを拾い上げた。ひんやりとして、重い。まだ新しかった。最近の子供は贅沢になったなあ、などと笑みをこぼしながら重雄は溜息をついた。
重雄はバットを手にしたまま公園へ引き返した。
奈津美は篤の肩に頭を乗せていた。
篤は奈津美の肩を優しく抱き、黙っていた。ふたりともあれから言葉を発しなかった。必要なかったのかもしれない。
人と心が通じ合うのはなんて幸せなんだろう、と篤は思った。奈津美もそう思っているに違いない、と篤は決め付けた。奈津美は、自分を愛してくれている。俺も奈津美を愛している。そう、ずっと前から……篤は奈津美の肩をさらに引き寄せた。
「河……俺はお前が好きだ」
「うん」
「ずっと前から好きだったんだ」
「うん」
ふたりは寄り添っていた。心も、身体も溶け合うようにふたりはもう一度唇を重ねた。唇は温かかった。
互いの顔を間近で見ながら二人は笑った。額が軽く触れ合った。幸せだった。
「ねえあっちゃん、中学の時さあ、ここであっちゃんに相談したじゃない? あれね、口実だったんだよ」
「口実?」
「あっちゃんとふたりになるための…ほら、いつも三人だから」
「ああ」
「でもあっちゃんが真剣に話、聞いてくれるから言い出しにくくなっちゃった」
奈津美は篤の首に手をまわし、その眼を見つめて言った。
「あたしは出会ったときからあなたが好きでした……いまも……ずっと……これからも」
篤は涙があふれてきた。涙で奈津美の顔が見えない。思わず目を擦った。
「もう〜おおげさなんだからぁ」と奈津美の声が聞こえた。篤は目を抑えながら笑った。
それは、一瞬の事だった。
ガコッ!
篤が眼を明けると奈津美が足元に倒れていた。そして、その頭から赤い液がどくどくと流れ出していた。篤は震えながら顔を上げた。
後ろには笑みを浮かべた重雄が立っていた。手には血の滴った金属バットを持っていた。篤は狂ったように叫んだ。
クロック(34)
篤は重雄を見た。
重雄は笑っている。何が可笑しいのかとても楽しそうであった。篤は重雄に向って行った。
二人はもみ合いになりながら地面を転げ回った。篤は何度も重雄の顔を殴りつけた。重雄も篤の顔を殴り返した。
血が飛ぶ。互いの顔面と拳からソースのように赤い液が飛び散った。やがて重雄は吐血した。しかし篤は殴るのをやめなかった。
ひとつだけの街灯に照らされ、ふたりは殴り合っていた。傍に血だらけの奈津美が転がっていた。辺りは静かで誰も邪魔する者はいない。
「死ね!! ゴミ!! カス!! 」
篤は何度も叫びながら重雄を殴りつけた。拳にはもう感覚が残っていない。重雄は疲れたのかされるがままにしていた。
篤は殴るのをやめた。
重雄を放り出し、奈津美の傍へ駆け寄った。抱きかかえ、公園を出、夜の街を走った。
「奈津美…奈津美…奈津美…!! しぬな!! しぬな!! しぬな!!!」
自分がどこへ向っているかもわからなかった。振り返る人々をかき分け走った。顔は血と涙でぐしゃぐしゃだった。
やがてどことも知れぬ道端で座り込んだ。そして、大声を上げて泣いた。
サイレンの音が近付いてきたのはそれから数十分後の事だった。
年が明け、春が来た。
篤は三年生になった。受験生である。一応進学校ではあったので、篤は嫌々ながらも親の勧めで予備校へ通うようになった。
予備校は篤の街から二駅離れたところにある。繁華街で、寄り道には困らなかった。
今日も篤は予備校の友人とゲームセンターで時間をつぶしていた。始業まではまだ時間がある。
他のゲームセンターに比べると汚く小さかったが、篤はここが気に入っていた。
「おい、ピッチ鳴ってるぜ」
と友人に言われたが、篤は無視した。どうせ母親だ。電話を持ってからしきりに用事を頼まれるようになった。が、料金を払って貰っている身なので文句は言えない。篤は微かな抵抗として無視をすることにしていた。
しかし、余りにしつこいので篤は出た。すると若々しい声が篤の耳を伝った。
「ああやっとでた……あんたねー、耳つまってんじゃない? 映子だけどいまヒマ?」
「ゲームしてる」篤はスティックを動かす手を止めずに言った。
「相変わらずひまねぇー…じゃ、今すぐウチに来なさい、遅刻厳禁! 以上」
電話は切れた。同時に篤はゲームオーバーになった。「KO!」と言う声が汚い店に響く。
篤は立ち上がった。
「おい、予備校は?」
「腹が痛くなった…って言っといて、百二十円」篤は硬貨を三枚、友人の少年に手渡した。少年は眉をしかめて、篤の背中に向って言った。
「俺にも誰か紹介しろよなー!」
篤は振り返らず手を振って店を出て行った。
クロック 最終話
「おっそーい! なにやってたのよ」
出迎えた映子が篤に言った。篤はあれこれ言い訳しながら、二階へ続く階段を映子と上った。
映子の家は三階建てである。篤はここへ来るたび自分の家と比べ憂鬱になった。
階段を上って右へ曲がり、長い廊下を歩くと映子の部屋があった。
映子はドアを開けた。
「あっちゃん」
「よお」
奈津美が嬉しそうな顔で篤を見た。ショートカットになった奈津美は実に可愛らしく、篤は自然と綻んでいた。
「なにやらしい顔してんのよ」映子は篤の尻を蹴飛ばした。篤はよろけながら部屋に倒れこんだ。
三人はゴールデンウィークに、高校生活最後の旅行へ行く計画を立てていた。
奈津美が退院した日に映子が言い出し、皆で映子の家に集まってあれこれ話し合っている。今日で七度目である。
意見がまとまらなかったのは、篤が「山は嫌だ」とごねていたからであった。
「蚊が多い」篤は今まで何度も口にした台詞を繰り返した。
「あんたねー、いいかげんにしなさいよ……自然の素晴らしさがわかんないの?」
「虫は嫌いだ」
「あっちゃん、ここなんかどう? そんなに虫いないよ?」
奈津美はカーペットの上に拡げられた無数のパンフレットの中から一枚を取り上げ、篤に見せた。
篤が覗き込もうとすると、映子は奈津美の手からパンフレットを取り上げた。
「だめよ甘やかしちゃあ! 自然はね、虫が多いのは当たり前なの! 」
三人は毎回このようなやり取りを繰り返していた。皆旅行がどうこうというよりも、このように集まって話をする事が楽しいようだった。
その後映子にさんざん毒づかれ、九時をまわった所で篤は奈津美と共に映子の家を出た。
空には星が出ていた。
二人は黙って歩いた。この辺りはひと気が少なく、少し不気味だった。奈津美は篤に寄り添った。
だが、身体は触れない。二人の関係はそういうものに戻っていた。
「ねえあっちゃん」
「うん」
「………」
奈津美は黙った。篤は奈津美の言おうとしている事が解ったので、もう忘れよう、と呟いた。
重雄が今朝、死亡した。
重雄は結局懲役する事無く、病院で息を引き取った。
ふたりは重雄の妻からそれを聞いた。新聞には載らなかった。篤は複雑な気分だった。憎くてたまらなかったが、死んだと聞いた時なぜかぽっかりと胸に穴が開いたような気がした。
信号にさしかかった。信号は赤だったのでふたりは足を止めた。流れ行く車の群を見ながら、奈津美が呟いた。
「ねえあっちゃん……あたしT大受けようと思うんだ」
「え…まじかよすげえなあ」
「うん…なんていうか…あたしやっぱり勉強好きだから」
「そっか…がんばれよ」篤は奈津美に笑いかけた。
「あっちゃんはどうするの?」
奈津美は篤の顔を覗き込んで言った。
「そうだな……とりあえず夏に車の免許取りに行く」
「もお〜なにのんきな事言ってるのよ…大学行きたくないの?」
「行くさ…でもまずは免許を取って、お前らとドライブしたい」
「あたしあっちゃんの車に乗りたくないなあ…遠慮しとく」
「お前は俺の隣だ」
「やだ〜!」
信号が青に変わった。
二人はふざけあいながら横断歩道を渡った。空の星がふたりを包み込んでゆく。それはまるで彼らの明るい未来を祝福しているようだった。(終わり)
129 :
小説 太郎吉:02/01/22 00:34
ようやく終わりました。
読み返してみると、誤字や表現上おかしな部分が多々あり恥じ入るばかりです。
しかし、書ききった事だけは自分を褒めてやりたいと思います。(笑)
もし、全部読まれた方がいらっしゃったら、文章もそうですが、内容の感想を頂けたら幸いです。
最後なので上げさせて頂きました。今までこのようなものを続けてしまって申し訳ありませんでした。
そして、大変勉強になりました。どうもありがとうございました。では。
130 :
名無し物書き@推敲中?:02/01/22 19:15
ちょい待てい。寂しいじゃないか。
みんなの簡素を聞け。
おい、みんな批評してやれよ。
厳しくてもいいだろ?
ん、今から書きこもうとしてたのにw
アンチ時系列の話の組み立てだったのね。
で冒頭にもってくるシーンにしてはインパクトが弱いのがイマイチ。
美紀が死んだシーン辺りから始めて見るのも面白いんじゃないかなと個人的に思って見たり。
あとは重雄の人物像の掘り込みが浅かったように感じる。自分がまだ健康だった時の回想とか、もっと入れて欲しかったなぁ。
と、こんな所です。
しまった。ミスったw
三行目にある「で冒頭に〜」
は「でも、冒頭に〜」の間違い。
133 :
小説 太郎吉:02/01/23 01:42
>130
>131
有難うございます。別に2チャンから去った訳ではないので(笑)。
だれも書き込んでくれなかったらどうしようかと思っていたので嬉しいです。
厳しくても全然構いません。40さんのコメントを見た時に受けたショック以上のものはもう無いでしょう。
あれはこたえました。一日中胸が痛かった(笑)。でもあれのおかげで頑張れたのかもしれません。感謝しています。
虎の穴に丸々載せられたらいいんですけどねぇ。作品の欄にアドレスだけ書くとか。(w
ああ〜スイマセン! sageを消した事を忘れてました!
なんてこった。(謝)
今週は忙しいので、週末にまとめ読みする。
時は移ろいゆきて 物は皆失われ 心に浮かぶ影は人の想い
むぅ……根に持ってるな(w
ってか、そんなにショックだったのか? まあ言葉は悪かったよ。すまん。
私スレだけ立てて、完結させず放置する輩も多いのでその類かと最初は思った。
だから最後まで書き終えたのは、評価に値すると思うよ(当たり前のことなんだが)
さて。暴言のお詫びに俺も簡素を書くよ。
まず、わりと好みの内容だったこともあって、けっこう面白かった。
疑わなくて良いよ、本当。ただ俺は文章のレベルで、読み方を変える
人間なんだけどね(w 何も考えずに読めば、魅力的なプロットではある。
しかし、前半と後半の書き方が違いすぎるせいで批評し難いな。
文中で、小説である事さえも傍観した視点がたまにあるけど、やめときなよ。
せっかく入りこんでたのに、現実に戻された。
表現法も貧弱かも……数字や回数で表記する部分がちょっと多い。
(ところで「二十メートル」って、何か狙ったのか? 効果ないぞw)
五章と十三章のラスト部みたいな表現は良かった気もする。
良かったというか「気になる」かな。特に十三章は俺なんかじゃ判断つかない。
地の文がうまくなれば、もっと効果的に使えるようになると思う。
あと重雄の公園での暴挙、変だよ? 唐突すぎてビビった。
長いから突っ込む部分も多い。ポイントだけ書いとく。
解り難かったら説明する。↓↓↓
沈黙を記号で表すのが多すぎ。
三人称多視点なら( )で括るモノローグはいらない。
篤、キャラなさすぎ。勘が良すぎ。
映子の存在意義なさすぎ。
ラストが弱すぎ。
プロット立てて書けば半分の長さになる(?)
場面転換多様が鬱陶しい(たぶん掲示板だから)
虎に出すなら、カナーリ推敲する必要がある。
>137
いやいや(笑)根になんか持ってませんよ。
ちょっと言葉が足りなかったので、補足しておきます。長くなりますが了承下さい。
実は僕は漫画家志望で、以前はシナリオを書いていました。
文章についてもそれで納得して頂けるのではないかと思います。
情景描写不足はその所為です。シナリオは場面の最初に例えば「居間」と書き、あと全体的な様子は書きますが、詳しい描写はしません。物語に必要な分だけです。
そのクセが抜けなくて苦労しました。また、くどい表現を余り好ましく思っていないので、風景や人間の様子に形容詞を多用することは苦手です。
「〜をした」など行動を単に書き表しただけの文章が多いのは、これらによるものです。後は…勉強不足です。
40さんの意見が胸にこたえたのは、自身の小説に対する認識の甘さについてです。怒られる事を承知で書きますが、小説を書き出した経緯は、物語の訓練です。
また、画力不足等から漫画にできなかった話を、とりあえず形にしておこうと言う考えもありました。
文芸サイトでは余り批評などはされないので、そういう浅はかな考えを自覚する事はありませんでした。
つまり「自分は小説家を目指している訳じゃないし」という思いが常にあったんです。
40さんの言葉は、そういういい加減な自分の姿を鏡に映されたような気がして、辛かったんです。
それで、137での感想・ご指摘についてですが全くその通りだと思います。(笑)
いや、僕も同じ様な事思っていたんです。書き終えて、ですけど。
数字、回数の多用は仰る通り表現力不足です。二十メートルと言うのは単なる思い付きで、何ら意図するものはありません。(W
また、重雄の公園での行動が不自然な感を受けるのは、僕の力不足です。
狂人というものが上手く書き表せていたら、おかしくは無かったと思います。ただ、狂人を書くことは(32)の時点で挫折したんです。
自分には無理でした。百年早かった。単なる死に怯えた哀れな老人を書いただけになってしまいました。
あと、指摘された部分についてですが…
・「………」これは漫画の影響です。
・()好みです(W 。文章の作法としておかしいのならやめます。
・自分でも何考えてるか解らない主人公(笑)。まあ、巻き込まれ型ですから…。勘が良いのは物語を展開させるため(W…すみません実力不足です)。
・用務員室で話が終わっていれば、彼女がヒロインでした。しかし映子は一度見せ場(恋人の回)をつくったのに、奈津美には無かったのでバランスが悪いなあと思いまして…。
それで奈津美に目撃させたら、あららふたりがくっついちゃった(笑)。と言う訳で、すっかりヒロインの座を奪われてしまいました。合掌。
ラストについてはひとまず置きます。
・「プロット立てて…」そうですね。ただ、僕は最初に段取りを決めて書けないんです。決めても、書き出すと違う話になります。前にも書きましたが。
・場面転換が多いのは逃げです(W 先が思いつかないからとりあえずこっちの奴に触れよう、みたいな。ああ〜すんません!
・虎の穴には出さないと思います。仰るとおり推敲がものすごい量になるでしょうから。いや、決してめんどくさいと言う訳では…。
ラストについては次に書きます。
で、ラストについてですが。
本来なら、奈津美は死ぬ筈でした。
(34)の真ん中、奈津美を抱いて道端で泣き伏す、というところ。あれが本来のラストになる筈でした。
テーマとしてもそのほうが良かったでしょう。テーマが何なのか僕にはわかりませんが(w 。
しかし、あまり人を殺すのもどうかと…ハッピーエンドの方が良いだろうと思って方向転換しました。
だから印象が弱いのは仕方ありません。なんか、青春物みたいだなあと自分でも思います。重雄がいなかったら学園ものですね(w 。
あと、書き忘れていた「小説である事さえも傍観した視点」についてですが…。
完全に司馬遼太郎の影響です。自分のレベルを横において話をしますが(w 、僕は黒澤明の望遠レンズを多用する画面、岩明均の人間を生物として観る視点、そして司馬遼太郎の一種「語り部」として小説を語る視点、これらにすごくリアリティを感じるんです。
突き放した視点、天の視点、色々呼び方があるのでしょうが。あとR・ポランスキーの視点も好きです。
倣岸なのではなくて、僕自身、集団に違和感を感じる人間なので、それらにリアリティを感じたのかもしれません。
だから、以前誰かが「三人称多視点は難しいから一人称にしたら」と仰いましたが、変えなかったのは、それが書く理由だからです。
テーマなどは持っていませんが、自分のみている世界を表したいという欲求があります。漫画、それに映画を志したのもその所為です。
ちょっと話がそれました。これで、終わります。
40さん、僕はあなたを恨んでなどいません。寧ろ感謝しています。
小説を応募してみます。勿論、これじゃありませんが(w 。 では。
>135
ぜひお願いします。
>136
ええと、(笑)有難うございます。
マンガ……マンガ、ね。どうりで俺の書き始めた頃の文章と
欠点が似てると思ったら、同じ穴のムジナかよ(w
結局、小説もマンガと一緒だぜ。書きゃある程度上手くはなる。画力と一緒だ。
>小説である事さえも傍観した視点はやめれ。
これは無視して。使う場所が悪かっただけかもしれない。
時代物が苦手なんで司馬せんせはみたことないけど(ヘボくてスマンな)
さすがに話が盛り上がってる最中は、こういう視点は使わないんじゃないか?
本当は虎に出せば、少なくとも俺よりはイイ批評してもらえると思うんだけどな。
ま、一定の水準超えてないと良い感想もつかねえとこだから、なんとも言えんけど。
重雄と篤の会話の「殺したいほど憎い人間が、死の恐怖を凌駕してる」みたいに
みえた部分が、俺には魅力的だったんでそこを掘り下げて欲しかったな。個人的な感想。
まあ、がんばってな。あと歩き方スレが復活したみたいだから、そこで宣伝すれば?
読んだ。
技術的な話はつまらないので書かないことにして、個人的に興味を持った部分を少し。
この物語の主キーになっている重雄。物語中で唯一、個性のある人物にして、物語の
エンジン役。こいつについて少し。この人物の決定的なポイントは、ガンを宣告されて
「生と死」について独特の考えに至る点なのですが、この部分の描写がほとんど無かった
のが不満です。
最近私が興味を持って読んだ本に、死刑囚の精神状態を分析したものがありまして、
被疑者(控訴中なので)が、凶暴で看守に殴りかかったり、精神を破綻させた
ように独り言を呟きつづけていたり、はたまた、独房で被害妄想が果てしなく強く
なっていく例をヒアリング調査した結果が記録されています。
はたから見ると、これらゼロ番囚(死刑宣告者)の行動は不可解で、気が狂っている
としか思えないのですが、数多くのサンプルを丁寧に読んでいくと、彼らの不可解な
行動にはひとつの共通点が見出されます。それは、彼らの行動の全てが、明日には
自分の命がないという切羽詰った極限状態で、「生きること」をできるだけ濃密に
実現させようとする点です。それがまるでV.E.フランクルのように昇華されるかどうかは
まあ、置いておいて、彼らは死を宣告されると、生きることに対して強い執着を
持つのです。事実、彼らは死刑を免れ、無期が確定(未来を約束される)すると、
狂気じみた行動は影を潜めてしまうそうです。
さて、話を戻しまして、重雄。彼が独特の哲学を持つに至る過程を推察してみると
諦めというか、虚無的な思想に基づいているような気がします。彼は、ガンを宣告された
残りの数ヶ月、生きる運命から逃れることはできません。彼の哲学は、残りの数ヶ月を生きなければ
ならないという運命を否定しているように見えます。まるで、こけても自分で立ち上がれずに泣き
続けている子供のようです。
想像するに、重雄はとても精神的に弱い人間で、あまり自発的に行動することのない人間なのでしょう。
そういう人は世を呪いながら、黙って死んでゆくのではないかと思うのですが、彼が他人の
「運命を試す」行動にでる積極さはどこから来るものでしょうか。
自らの生ですら死の淵へ追い落とし、気まぐれに人の運命を試す(おそらく自分の運命と比較して
いるのでしょう)その精神をもっと突き詰めて欲しかったです。
>142
同じ穴のムジナですか(笑)。
で、歩き方スレというのは、
「創作文芸版の歩き方」というやつですか?
そうですね。書き込んでみます。どうもありがとうございました。
頑張ります。40さんも頑張ってください。では。
>143
読んで頂けましたか。有難うございます。
で、重雄についてですが、ふむぅ…なんか自分の事言われているみたいだなぁ(w 。
次郎吉さん、亜連さん、40さん、くろとしろさん…皆さんの感想を読ませて頂いて、ああ、いろんな見方があるんだなあとしみじみ思ってしまいました。
僕自身、書く時は物語として体裁が整う事だけを念頭に置いています。というかそれで精一杯です。
書き終わって、ああ、こんな事が書きたかったのか、と自己嫌悪に陥る(w 事度々です。
それは人に言うべきものではないので言いませんが、篤にしろ、重雄にしろ、映子も、奈津美も全てのキャラクターが、自身の表れなんです。
だから余り言いたくない。(笑)くろとしろさんの仰るとおり、死を背負った人間の描き方としては不充分だったと思います。
もうちょっと書きたいことがあるのですが、バイトに行かなければいけないので(笑)。続きは帰ってから…
145 :
名無し物書き@推敲中?:02/01/26 14:59
せっかくまともに完結した連載なんだから、みんなもっと感想書いてあげてよ。
>145
有難うございます(笑)。
>くろとしろ
ええと、話の続きですが。
143で書かれている話は非常に興味深いです。ははあ、と頷く事しきりです。
で、自分で改めて読み返してみたのですが、ひとつ、解った事があります。
それは、「やはり自分は映像志向だ」ということです。
つまり心理を描写する際、言葉で書き連ねるよりも、キャラの仕草などで表現したいという欲求があるみたいです。
それが叶ってないと(笑)。実力不足ですね。完全に。
くろとしろさんや他の方々が、描写不足を感じるのはその所為だと思います。
えっと、虎の穴に「灼熱」という作品を投稿してきました。
書きかけなんですが…(連載できるんでしょうか?)
良かったら読んで下さい。
148 :
名無し物書き@推敲中?:02/01/27 20:42
いまから逝ってくるわ。
一応ageとくな。
まあ、文芸の道は一日にしてならずぢゃ。
気長に頑張ってとしか言えん。
がんばります。読んで下さって、有難うございました。
151 :
名無し物書き@推敲中?:02/02/10 19:22
152 :
名無し物書き@推敲中?:02/04/01 18:19
街が夕暮れを迎えている。夜が近づくにつれて空気の冷たさが体を刺すと
おれはまた昔の事を考え始めた。
見知らぬ誰かを探すためにさまよい歩いたこの街は、ただ健康的な出会い
を果たす事に憧れていたおれの思い出の街だ。あの頃心許せる人を探してい
たのか、むしろ孤独になりたかったのか、そんな事はわからない。
ただ自分が自分足りうる由縁を見つけたかっのかもしれない。
憂鬱な日々の連続。気がついたらおれは病院に入れられていた。
「あなたのような症状には原因があり、しかも誰にでも起こりうる事
で、もっと余裕を持った生活をせにゃなりません」
いつ病院に入ったのかよく覚えていないが目の前で医者がそう告げて
いる。おれは自身に余裕などない気がして尋ねた
「例えば、どのようにです」
「一概には言えませんが趣味を持つとか、楽しめる事をしたり具体的
な生活習慣を変えてみるとかそういう事です。ま、当分ここからは出
られませんが」
「楽しい事ならありますよ」
「それはどんな事です?」
おれは自分の趣味と、その素晴らしさについて医者に説明した。
「それは結構な事ですな」
「先生もそう思いますか」
「人の趣味を無理に咎める事は出来ませんから」
その日は早く寝るように言われそれ以上医者と話す事もなく個室に入
れられた。言うまでもない事だが、おれはこんな場所から早く抜け出
したいと思っていた。
その夜おれは悪い夢を見た。
>153、154
…感想ですか? だとしたらすごく的を射ていますね。病んでいたのかもしれません。これを描いていたときは。
ついでに書きますと、虎穴の小説は挫折してしまいました。書き方を変えたのが災いしたようです。あと批判が殆どなかったのが(笑)。
ここでは叩かれに叩かれましたからねぇ。なにくそ! と思う気持ちが原動力でしたから。
スレが倉庫に行く前にかけてよかった。では〜。
156 :
153.154:02/04/02 01:58
感想ですm(− −)m
書いてみた駄作の書き出しでもあるけど。
今日の朝から大学だぁー
独房の中で考えた。
夢なら覚めてほしいと願った。きっと夢なんだ。ただ長すぎる夢・・
でもそれを彩る天使がいない。どこへ行ってしまったんだろう。
おれは待ち続けた。日に二度看守が運んでくる食事を何度貪ったの
か。でもいつまでだって待ってやるから安心しろ。
今は単なる空白の時間と成り果てた日常をおれは生きている、そ
んな気がする。最初はつまらなかったが今はもう慣れた。人が言う
ほどおれはおかしくないはずだ。でもお前は本当にどこへ行ったの
だ?違うな。見捨てたのはおれだったのだ。おれはどうやらその事
も忘れていた。こうなった全ての責任をお前に擦りつけるためおれ
はお前を捨てた事を忘れた。夢なら覚めろ。
寒気のせいで右手の親指の部分から血が出ている。おれはそれを
少しやぶって、壁に、ほとんど自分でもよめないくらい薄く、次の
ような事を書き綴った。
君はいつもおれのそばにいたね。それは知ってる。でもどうして
だろう?僕はもう君の存在に気付く事がなくなった。君が現実だと
わかったとたんに君がわからなくなった。君も同じだったのか?だ
とすればあの頃のままでいたかった。当分あわせる顔がない。だか
らしばらく考えない事にするよ。つまり、小説を書かない事にする
よ。
さよなら
158 :
名無し物書き@推敲中?:02/04/17 00:48
age
もっかいここで連載してみようかな…なかなか消えないし。
こんどはもうちょっと健全なのを(w。