2chで見つけたちょっと泣ける話

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37名無し物書き@推敲中?
ある時偶然に、鏡の中の俺はもう一人の俺だと気づいた。
気づいた瞬間、そのことをまったく当たり前のように受け止めた。
これはごく普通のことなのだろう。
頭に髪の毛が生えてるのと同じくらいに。
そのもう一人の俺は、はじめは素知らぬ顔をしてごまかそうとしていたんだが、
その様子があんまりにも白々しいんで、俺は吹き出してしまった。
やつといったら、額に汗をにじませながら、必死で俺の様子を真似しようとしてたんだが、
俺があんまり笑うんで、真似しきれずについにせき込んでしまった。
「よう、もう一人の俺様。そんなにせき込んで大丈夫か?」
鏡の中の俺は俺のほうを恨めしそうににらみながら苦しそうにせきこんでいやがる。
こりゃ苦しそうだなと思った俺は何とかしてやろうとして、
台所にいってコップに水を入れて鏡の前に持ってきた。
そうしたら案の定鏡のなかの俺も水を手にしている。
鏡の中の俺はこれ幸いとばかりに水を飲みほした。
「…・けほっ。けほっ。ああ苦しかった。やあありがとう。鏡の向こうの僕よ。
なかなか気が回るじゃないか」
「どういたしまして、鏡の中の俺様。今までぜんぜん気づかなかったよ。
うまいこと俺の真似をしていたんだな」
「ああ。ついにばれちゃったね。そうさ。僕は君の真似をするのが仕事なんだ」
それからしばらくやつと身の上話をした。
やつが言うには、俺が鏡に映っていない間は何もすることがなくて退屈らしい。
それに俺はあまり身だしなみに気を使うほうじゃないから、鏡を見る時間が少ないといって文句を言ってきた。
「だからもっと鏡を見てくれないとこまるよ。鏡を持ち歩いてくれとは言わないからさ。
せめて毎朝ひげぐらいそってくれれば、いい暇つぶしに なるのに」
「ははは、すまねーな。めんどくさがりなもんでな。これからはもっと見るようにするよ」
それからはなるべく毎朝ひげをそるようにしたし、髪もくしなんか入れてみたりして、
なるべく鏡の中の俺を退屈させないようにした。
周りのやつらは俺が急にさっぱりしだしたので、
なにかあったのか、女でもできたのかとからかってきた。
よっぽど本当のことをいってやろうと思ったが、
鏡の中の俺がないしょにしてくれと頼むので、がまんしておいた。
まあやつにしてもきっと恥ずかしいのだろう。
でも俺にしてみればいい話し相手ができたってもんだよ。
なにしろやつは俺が生まれたときから俺の真似ばかりしてるんだもんな。
俺の親なんかよりも俺のことをよく知ってるわけだ。
おもしろいことに、やつは昔の様子を鏡に映し出すなんていう特技を持っている。
これがまたえらい昔のことをよく覚えていやがるんだ。
「そうそう、あの時君は近所の子供とけんかしてきて、顔にできたあざを
見られるのがいやで、洗面所で必死になって洗い流そうとしてたんだよな」
「ええ?そんなことあったっけ。嘘だろ、忘れちゃったよ」
「本当さ。しっかり覚えてるよ。なんなら見せてあげようか」
「ええ?いいよ。どうせ忘れちまっただろ?」
「少し時間をかければ、思い出せるさ。見てろよ…」
そう言ってやつが少し考え込むと、鏡の中はたちまち昔の世界になるんだ。
ありゃ、本当に俺だ。一生けんめい顔をこすってやがる。
「どうだい?本当だっただろ。半泣きになりながら洗ってるじゃないか」
「うるさいなあ。こんなの恥ずかしいから、もう消せよ」
そうしてやつは勝ちほこった顔で帰ってくる。といっても俺の顔なんだが。
昔の自分を見るは面白いんだけども、
やつは俺が忘れたいことまで覚えてやがるからちょっとやっかいだな。
自分にからかわれるってのもなんか変なかんじだ。
38名無し物書き@推敲中?:02/02/06 00:27
こうしてやつとはうまくやってたんだけど、ある時けんかになった。
というのも、やつがまた例によって昔の俺を上映していたときのことだ。
そこにいたのは確か十三か四ぐらいのころの俺で、その隣には俺のおふくろが映っていた。
鏡の中の俺とおふくろは、恐ろしい剣幕で何か言い合いしている。
忘れもしない、俺が家を飛び出した日だ。
「・・・・やめろよ。こんなの見たくねえ」
「どうしてだい?君の母さんじゃないか」
「だから、見たくねえんだよ」
俺のおふくろはひどいやつだった。俺のことをちっともわかってくれなかった。
そりゃあ親父がいないんだから俺を食わせていくのに働かなくちゃなのはわかるよ。
でも、おかげで俺はいつも家に一人ぼっち。
たまにかえってくりゃ、勉強しろだの、部屋が汚いだの、なにかにつけて叱りやがる。
あげのくのはてにゃ、殴られまでした。
「こんなの消しやがれ」
「僕には、わからないよ。君がどうしてそこまで、母親を嫌がるのか」
「おめえだって、鏡の中で見てただろ!あんなの、母親じゃねえ」
「この日、彼女が君にした事を、まだ怒っているのかい?」
「あたりまえだろ!」
この時の俺は、中学にも行かず、ふらふらしていた。
知り合いのバイク屋にたむろしては、そこで時間をつぶしていた。
おかげでバイクにはちょっとしたもんになったから、そのバイク屋で
修理の手伝いとかのバイトの真似事を始めたんだ。
そのバイトの最初の給料日が、ちょうど母親の誕生日だった。
それで、たまには親孝行でもしてみようかなんて、柄にもねえこと考えたのがよくなかった。
全部くれてやろうと思ったんだよ、給料を。おふくろにさ。
ごていねいに、バースデーカードまで書いたよ。
こんな文面さ。「あー、おふくろ、今まで迷惑かけたな云々・・・・」
そんときゃ、自分でもいい気持ちだったし、ちょっとまじめになろうかと思ってた頃だしよ、
これを機会に、おふくろと仲直りできたら、なんて事考えてたんだ。
それが甘かったね。
「おまえも覚えてるだろう・・・このときおふくろは、俺の金を見るなり
どこから盗んだなんて言いやがったんだぞ!
俺が何回も、自分で稼いだって言っても、まったく聞きやしなかった」
「それは、君のせいだよ。君のそれまでのすさんだ生活を見たらわかるだろう」
「うるせえ!なんで母親なのに、俺の言う事を信じねえんだ?母親なら、信じるはずだろう!」
「前から思っていたんだ。彼女は、本当は君の事を心配していた。
だからこそ、君の事を怒ったんだよ。
君が憎いからじゃない。母親として、当然の行為だ」
「うるせえ!やめねえと、ぶっ壊すぞ!」
そしてついに、あの場面がやってきた。
鏡の中の俺のおふくろは、俺が書いたバースデイカードをびりびりに破いて捨てた。
その瞬間、俺は家を飛び出したんだ。
「やめろ!」
そうして俺は手元にあったコップを投げつけて、鏡を叩き割った。
鏡といっしょに、やつの姿も粉々に砕けてしまった。
39名無し物書き@推敲中?:02/02/06 00:27
それからしばらくの間、、俺は鏡を見るのをやめた。
鏡のあるところは避けてたし、水に顔が映りそうなんで風呂に入るのも止めた。
やつとあんなにけんかしちまったんで会うのが気まずいってのもあったけど、
ほんとのことを言うと、鏡を粉々にを壊しちまったから、
やつも一緒になって壊れちまったんじゃないかと思ったんだ。
もし鏡を見て、やつがいなかったらと思うと、恐くて鏡が見れなくなっちまった。
そうして一週間ぐらいたったとき、いつまでもこうしてられないんで
思い切って鏡を見てみることにした。
鏡の前にきて、恐る恐る目を開けてみると、やつは腕組みをして立っていた。
「久しぶりだな、鏡の向こうの僕よ」
「よお!よかった、生きてたんだな!」
「なんだいそりゃ?僕が死んだと思ったのか?ふん、あんなことぐらいじゃ死なないよ、僕」
「そうか。まあ、この間はすまなかったな。ついカッとなっちまって」
「あやまらなくていいよ。そのかわり、君に見てもらいたいものがある」
そういうとやつは目をつむり、考え出した。
次の瞬間、鏡は俺の昔の家の中を映し出した。
「またかよ、おい。おれは見ねえぞ」
「ほんとはね。こういうとこをしちゃいけないんだ。
僕らには、割り当てがあって、自分の担当者以外は模倣しちゃいけないことになっている」
「何言ってるのかさっぱりわからん」
「まあいいよわからなくて。とにかく、あのあと、君の母親をちょっと真似してみたんだ。
僕としても気になったからね」
そこに映し出されているのは、何かを持ってやってきたおふくろだった。
両手の中に、何かをいっぱいにさせている。
「これが、どうしたってんだ?」
「まあよく見ててくれ」
おふくろは何やらごみのようなものを持っている。
それを机の上に投げ捨て、なにやら熱心に見入りはじめた。
それは、俺が書いたバースデーカードだった。
おふくろはびりびりに破れたカードを一枚一枚丁寧にならべて、元の形に戻していく。
まるでパズルでもやってるみたいだ。
真剣な顔で、組み合わせてはまたやり直し、少しづつ元の形にもどしていく。
そして、最後の一枚を組み合わしたとき。
おふくろの目から涙がこぼれた。 

「どうだい?僕の言いたい事はわかったかな?」
俺は何も言えないでいた。
「君の母親は、今でも君を待ち続けているはずだ。
会いにいってやれよ。それが僕がもう何年も前から君に言いたかった事なんだよ」
「い、いや、だってよ、いまさらどんな顔で会えばいいんだよ・・・」
「どんな顔だって?こんな顔だよ」
そうしてやつはにこやかに笑った。