305 :
名無しの与一:
振り返った空が紅かった。それは誰もがわかるように、落ちてゆく太陽の仕業だった。確かにそうだった。
しかしながら、その紅は奇妙なくらい素直で正直で、しつこかった。
「ねえ、君見える?紅、」
「ああ、頼りないね」
如何せん、本来の紅を盗んだのは僕なのだけれど。
「頼りない?」
「ああ、頼りないさ」
彼は少し間をあけて続けた。
「、それにあざといね」
「そう」
「うん」
彼は襟が伸びたTシャツを少し気にしながら笑った。
そうなのだ、それは仕方なかったのだ。だけどそれは見抜かれていた。彼の笑い声がそれを物語っていた。刹那の弛みのせいでこんなにも落ちぶれた僕は、これ以降何ができると言うのだろう?
「帰ろうか、」
彼が突然言った。僕に選択の余地は無かった。