DS高岡英夫スレ再びパート2

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605名無しさん@お腹いっぱい。
  先シーズンをもって、池田和子選手が選手生活に幕を閉じた。彼女はここ数年日本の女子のトップスキーヤーとして世界を転戦してきたのだが、この夏に選手生活にピリオドを打つことにしたのだ。僕と和子が初めて会話を交わしたのは、僕がまだ高校生のころだ。そのころ僕の高校は、毎秋ヨーロッパで合宿を行なっていた。男子はオーストリアのピッツタールという氷河で、女子は隣の谷にあるカウナタールという氷河で練習をしていた。

 ある夜、僕がガールフレンドに電話をして話をしていたら、「ちょっと待って」と言われた後に、突然日本語で「こんにちは! 初めまして和子です」と挨拶をされて仰天したのを覚えている。僕のガールフレンドと仲よくなり、部屋に遊びにきていたそうだ。それ以来、和子とは同じ全日本のチームメイトであり、ロシニョールチームの仲間として一緒に練習をしてきた。

 和子はスコット・サンチェスというコーチのもと、アメリカに自分のベースを移してトレーニングに専念するなど、今までの日本選手がしたことのないようなことを積極的に取り入れてきた。そうした面において、彼女のスキーに対する情熱は並大抵ではなく、プロフェッショナルだったと思う。

 この春、シーズンが終わり、僕がトレーニングを再開するために、新横浜のトレーニング施設に行った時、和子と国際競技場の周りを走りながら話をした。その時、和子はまだ引退を決めていなかったが、かなり気持ちが傾いているようだった。個人的には、和子に辞めてほしくはなかったけど、こればかりは本人にやる気がわかないかぎり、どうしようもない。

 和子は昨シーズン、ナショナルチームを辞退し、プライベートチームを作り、ひとりで戦ってきた。そのことで、すでに精神的に疲れたようだった。たしかに、今の全日本の女子チームは、まだまだのレベルにいる。チームとしても、海外のチームのように体制が整っているとは言えない。和子が再び全日本チームのウエアを着て、共に世界をめざす気になるような魅力を、今のチームからは感じなかったのかもしれない。そうかといって、もう1シーズン、プライベートチームを作り、何千万円というお金を工面して、レースを続ける気にもならなかったのだろう。それは仕方のないことだと思う。

 僕にしてみれば、プライベートチームを作り、1シーズンひとりで活動しただけでも、尊敬すべきことだと思う。それに和子には、選手以外に自分のしたいことが見えてきたらしく、選手を続けたいと思う要素が見当たらなかったのだろう。

 仲間が辞めてしまうのは寂しい気がするけれども、和子が悩んで決めたことなので仕方がない。僕にできることは、これからの和子を応援することだろう。

 僕には、ランニングをしながら和子が言っていたことが、今でも心に残っている。和子は「私にとってラッキーだったことは、スコット・サンチェスというすばらしいコーチに出合えて、彼にスキーを教わったということだよ」と、自信をもって言っていた。そこまで信頼できるコーチと出合えるということは、選手としてうらやましく思えるし、選手の幸せのひとつだと思う。和子なりに全力を出し切れたのだろう。

 僕の遠征出発前に、僕と伊東秀朗さん(SAJデモンストレーター)とで、和子の引退を祝う会をしようという話になった。僕たちもあまり東京で会ったりしていないので、同じ世代の選手や元選手を集め、和子の引退を酒の肴に、一杯飲もうというのだ。久しぶりに会った和子は、パリっとしたスーツに身を包み、新しい生活に胸を膨らませていて、ちょっとうらやましく見えた。長い選手生活、お疲れさま!


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解説者:ひらさわがく
1973年2月1日生まれ。アルペンスキー日本代表として、ワールドカップを舞台に戦うスラローマー。写真は今春のオフシーズン、地元の志賀高原で休養中の平沢選手を誘って激写。志賀高原スキークラブ所属