A先輩を護る役目のO君と私は先輩を連れ戻す為に、
「先輩!逃げて下さい!」「イヤ!いる!」「先輩!責任者がマズイです!」「イヤいい!皆と一緒に捕まってもいい!」
「先輩!お母さんの事を考えて下さい!」「…うん、ありがとう」「とりあえず外へ」「うん」
ようやく先輩も、落ち着きを取り戻してきました。母一人子一人の先輩なのです。開祖を父として慕い、身を挺しての行動だったわけです。
逆に冷静だったわたしに怒りが湧いてきました。
「表へ引きずり出せぇ!」とこちら側の誰かの声に少林寺全員がいっせいに表へ出て相手方に立ち向かい、私達三年生が「やってマエ!」と罵声を浴びせるが早いか、
N君が学ランを脱ぎ始め、「クソー!頭に来た!やっちゃおうぜぇ!」
「誰か持っててくれよ!俺、あの野郎ぶっ転してやる!!」
ちょうどその相手が他の弟子に抱き 抱えられて、というより引きずられる格好で出てきました。みんなが、当人の足を蹴り続けたので歩行も出来ず、
両肩を抱かれてズルズルと立ち去ろうとするのです。
「待てぇ!」とN君とわたしや他数名の三年生。「コノヤロー!テメェの師匠をほったらかして逃げるのかぁ!」
わたしが意を決して、「よーし!N、ヤロウゼ!」「オウ!」と言ったとき、Y先生が、「ヤメトケ、ヤメトケ」
「先生!なぜですか!?」「ええから、ヤメトケ!!」
<クソー!ここで下がれるか!>
(中略)
A先輩は、「あー痛ぇなぁチクショー!」と胃の辺りを押さえていました。
「先輩、どうしました?」「うん、胃が痛くてさ」「神経張り詰めての胃痙攣ですよ」「うん」「で、あの大先生はどこですか?」「この中」
と傍でニタニタしながらN先輩が指を指します。
「え!?ココに逃げ込んでいるんですか?」「そう!」「根性ないですねぇ−!」「ふふふ−−」「三年生で突っ込みましょうか!?」「N、もういい、もういい」「はい!」
でも内心不服でした。このことは翌日の新聞にも報道されました。
(後略)