【精神科医の笠原嘉氏の醜形恐怖の解説】
対人恐怖の一型で、自分の身体部位の形状に他覚的には認めないにもかかわらず、独特の醜悪さ、世界に二つ
とない異形性があると信じこみ、そのため他人に不快感を与えたり他人から軽蔑されたりするとして対人交渉から
身を退こうとする神経症。鼻、眼、髪、顎、眉、顔貌全体、頭蓋の形状、胸、足、乳房、腕、尻、性器など様々な身体
部位がその対象となる。身体部位が問題となるため心気症と近縁の関係にあり、またセネストパチー(体感症)を底
にもつ事も多い。しばしば極めて頑固に訴えが続けられ、形成外科的な処置を求める事も稀ではない。また単なる
恐怖症の段階を超えて妄想的確信となっている事もあり、その場合には醜形妄想(delire de dysmorphie)と呼ぶ事
もある。対人恐怖の中では比較的重症であることが多く、ときに統合失調症の前駆症状であることもある。日本の
我々が対人恐怖と呼ぶ神経症のうち、例えば自己視線恐怖症などは日本にかなり独特の病態と推定されるのに
対し、この醜形恐怖はひろく諸外国にもみられるようである。DSM-V-R[1987]はsomatoform disorders(注*身体
表現性障害のこと)のところにbody dysmorphic disorderを始めて追加した。またこれについての総説も米国誌に始
めて掲載された。
【↓WHOのICDの醜形恐怖の扱い(注*ICDではbody dysmorphic disorderを一疾患単位として認めていない)】
醜形(醜貌)恐怖は身体的なこだわりの観点から身体表現性障害の中のF45.2心気障害(注*心気症の事)に入る
が、妄想的確信をいだくに至っていれば持続性妄想性障害の中のF22.8他の持続性妄想性障害に分類されるべき
である。