653 :
名無しさん@一本勝ち:
“中田よ、いいところに来た。この板を一寸(3センチ)ぐらい拳
を離したところから、割ってみなされや。割れたら、腰が抜けるほ
ど泡盛をご馳走するよ”とあるとき、私が本郷餌差町に先生をお訪
ねすると、先生の座敷の縁側の軒下からぶら下がっている札を私に
示した。よく見ると、幅二尺(60センチ)、長さ三尺(90センチ)、
厚さ二寸余(6センチ)の長方形の松井板の上端から二寸ほど下が
ったところに錐穴が開けられ、その穴に丈夫なひもが等して、軒の
タル木からぶら下がっていた。とてもとは思ったが、言われたとお
り、縁側に立ち、左拳を間近に伴った右拳を、松板から一寸ほどの
ところに位置させ、一念をこめて突いたが、割れるどころか、ガツ
ーンと音を立てて板は跳ね返り、得たものは拳の苦痛だけだった。
忘れたが、居合わせた誰かお弟子さんだったのだろう、その人も
続いて、やってみたが、何回やっても板が音を立てて跳ね返ること、
私と同様だった。
654 :
名無しさん@一本勝ち:2006/07/13(木) 01:34:11 ID:JfMGEvd70
“さあ、よく見てなされや”そこで本部先生は板の前に立ち、右
拳を板から一寸にも足らない至近距離で一度静止させたが、次の瞬
間、“フィッ”というような含み気合いと共に先生の腰が沈むと、
いつ拳があたったのか、板はちょうどひも穴から縦の線でズーンと
割れ、両片と化して軒下に落ちた。
(注)本部先生は、平成、余り板や瓦などを割ることに興味や関心
を持たれなかった。それは演武会などの客寄せのショーくらいに考
えいられたらしいが、このとき私がはじめて見た先生の板割りは、
ショーどころか真に本部拳法の真髄だった。このようにブラブラ吊
された松の厚板をスレスレのところから真っ二つに割ることは本当
の当身の力で、おそらく何人も真似はできないであろう。私はその
時、本部先生の双手連動、足腰のバネ活用による極端なショート・
パンチの威力を目の当たりに見せられ、その「当て」を構成する諸
々の要素を一人の天才的武術家が実戦裡に創成した恐ろしいものと
知ったのである。