俺はね、世界チャンピオンになりたかったんだよ。
そんで中学2年からジム行ってたの。
ウェルター級の元四回戦です。
18でデビューして判定で2試合勝って、三試合目で負けた。
そのころはもうむちゃくちゃ練習してました。
リングで死んでもいいって本気で思ってたね。
んで、負けたのが19の時。相手に一発もパンチ当てられなくて
3ラウンドに倒された。あとでビデオ見たら右打ち下ろされてた。
これほんとに見えなかったのね。
気付いたら先生の顔が目の前にあってびっくりしたの。抱きかかえられてた。
もう、このときの相手は天才だと思った。なんどやってもかなわないな、と。
こいつに世界とって欲しいな、と。
んで、俺はそのあともジムには行ってたけど、試合はしてなかった。
俺に勝った相手は次の6回戦で負けた。
そいつに勝ったやつに勝った奴に勝った奴、わかりづらいけど、わかるよね。
その人が日本ランカーで、タイトルに挑戦して
ものすごい簡単に負けた。2ラウンド。もう大の字。
で、当時のチャンプは20回防衛して世界挑戦して1ラウンドKO負け。
チャンプになにもさせなかった世界チャンプのパンチは
ウィテカーにまったく当たらなかった。
バスケスがウィテカーに負けた日から俺は一度もジムに行ってない。
人生観が変わってしまった。
それからはまず努力目標を考える努力に時間を費やして生きてる。
だからボクサーのパンチって絶対見えないっすよ。
大雑把に言えばフィーリングでかわすんです。
ディフェンスってのは技術よりも感受性や先天的な動体視力の問題なんす。
生まれ持ったアンテナの精度の問題ね。
あと想像力か。
俺ぐらい強くてもパンチが見えない。