★オゲレツ盗作屋・田口ランディ監視スレPart4★

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494中条省平その1
「仮性文藝時評」中条省平 仏文学者・文芸評論家(『論座』2001.1)

田口ランディがすごい!
小説の新作『アンテナ』は
第一作『コンセント』を受けて
さらなる性の物語世界を構築し、
『できればムカつかずに生きたい』は
人間の生と死の意味を問いつめる。


 田口ランディの新刊がほぼ同時に二冊店頭に並んだ。小説第二作の『アンテナ』と、エッセー集『できればムカつかずに生きたい』である。初めてこの作家の本を読んで、たいへん驚かされた。
『アンテナ』は表紙にヌードの女性をあしらい、『できればムカつかずに生きたい』は、なぜか白人の美少女の写真が表紙を飾っている。なんとなく読者に媚びているような気がして抵抗があったのだが、じっさいの中身は両者とも硬派中の硬派、生の意味と人間の倫理を問いつめることがテーマだった。
 ひどく感心させられたので、さかのぼって小説第一作の『コンセント』も読んでみた。こちらもきわめてすぐれた作品で、田口ランディは二〇〇〇年に出現した日本文学最高の新人との感を強くした。
 じつをいうと、『コンセント』は批評家の安原顯氏に推薦されていた。安原氏は有名なせっかちな口調でこういつた。
「[村上]龍が[『コンセント』の]帯で『この十年で最高の一作』とかなんとか賞めちぎってるけど嘘じゃねえな。少なくともこの何年かの龍の小説よりはずっといいよ。ラストはいらないけど」
『コンセント』は、ヒロイン、ユキの兄が死ぬところから始まる。四十歳の兄は二ヶ月前から行方不明になり、三週間ほど自室にひきこもったすえ、夏の暑さと飢えで衰弱死し、腐って猛烈な悪臭を放つ屍体になつたのだ。
 この事件をきっかけに、ユキの肉体と精神はどこか変調をきたすようになる。突然、恋愛感情のまったくない男とセックスをおこない、屍具に極度に敏感になる。そして、大学で心理学を教わったとき性関係をもったサディストの教授とのカウンセリングを再開するようになる。カウンセリングの主題は、家庭内暴力から精神異常に移行した兄と、一時期兄を引きとって一緒に暮らしたユキ自身と、彼らの父と母との関係だった。
 ユキは頻繁に夢を見るようになるが、その夢のなかで、兄は体から「白い鳥の足のような小さなコンセント」を一本垂らしていた。そこでユキは、兄が語っていた記録映画「世界残酷物語」の分裂病の少年の話を思いだす。その少年は手から細いヒモで白いコンセントを垂らしており、看護婦がコンセントを電源に入れてやらないかぎり、魂が抜けたように目がうつろで、微動だにしない。兄はこの少年のことをときどき語っていた。そして、彼もまた少年とおなじく「コンセントを抜いた」のだ。コンセントとは何か? コンセントを扱いて、切断されたものはいったい何なのか?       、
 この問いを抱えながら、ユキは、シヤーマンを研究する女友だちや、解離性障害をあつかう精神科医と話しあいをつづけてゆく。精神科医は、「コンセントを抜く」ことは、自発性トランスに入ることだと語る。自発性トランスとは、「自分で自分の意識を身体から出したり入れたりできる」能力をいう。
「コンセントが入ってない状態いうんは、世界と自分の境界が曖昧になって溶け出しとるような状態なんや。肉体の刺激が遮断されて、魂だけになっとるような意識変容状態や。感受性が強すぎて世界の刺激に耐えられない人間にとってはコンセントなんか抜けてたほうがよっぼど楽やねん。だがしかし、コンセント抜いた状態はこの世の状態じゃない。肉体から魂が遊離してるわけやから、それは幽霊みたいなもんや。長くやってたらいつか死ぬ。それでも生きているよりはあっちの世界のほうがいいと思ったら、それはもうしょうがないわな、正常な意識で自分の好みを選択してるわけやからな」