>>680 「結婚失格」は傑作。読んでないならぜひ読むといい。
・・・で、単行本刊行時(3年以上前)に読んだ時の記憶で書くんだけど、
そもそもこの小説は離婚した経緯を書いてもまったく意味がない小説だよ。
子までなした、夫婦という最も近くにいるはずの二人が、どれだけ言葉を尽くしても
分かり合えない、そして、それはどちらの罪でもなく、お互いにお互いの正義がある、
という人間存在の絶望を描いた作品(・・っと書くと、まとめすぎだけど)なんだよね。
しかもその語り手が妄想癖の強い男側の視点から書かれていることで、
いわゆる信頼の置けない語り手がそのことを物語っている形になり、
すごくスリリングな、小説にしかできないことを書いている作品だと思う。
そういうコミュニケーションの不全を描く上で、別に離婚の経緯は大して重要じゃないと俺は思った。
(というか、読んでくうちにその離婚の経緯がだいたい想像がつくあたりが、この小説の恐ろしいところ。)
それを、小谷野のいうような実録ドキュメントみたいな作品にしてしまうと、作品が矮小化されてしまうんだよ。
枡野の書きたいことって、一組の夫婦の離婚という事件そのものじゃなくて、
かつて夫婦だった二人のゴタゴタや、旦那の側のモノローグを通して見えてくる何か、なんだよね。
まあ、要するに、小谷野は相変わらず、小説とは何かということが掴めてねーな、ってことだ。
小説は、細かい経緯を暴露するための道具では必ずしもないんだ。
長文御免。