793 :
一/二:
右肩を突かれた。胸も、鳩尾も。
楊令はうずくまり、息を整えるために、しばらくじっとしていた。自分が泣いていることに、
はじめて気づいた。涙は、顎の先から乾いた地面に滴っている。
「民を皆殺しにしたことを謝罪したくないのか、楊令?」
楊令は、無言で頷いた。
「なぜだ?」
「俺は、男だから」
「男か、おまえは。魯智深が言ったように、ただのけものの雄ではないのか?民を殺し、財産
を奪う。子午山に来る前の鮑旭と、どこが違うのだ?」
「男に、なりたい」
794 :
二/二:2010/04/08(木) 17:30:04
肚の底から、声が出ていた。男になりたい。ほとんど、叫びに近かった。
「わかった。いまから、おまえがやるべきことを言う。幻王が女真の地で行った殺戮、略奪を
三十頁かけて反省しろ。自分の行いが間違っていたと、悔い改めよ。それが終れば、朝食を
摂ってよい。謝罪をしないおまえは、食い物を食える身分ではない。穀物は、農民の労働に
よって得られたものだ。それがわからないのならば、いますぐ、死ね」
「はい」
「慌てることはない。おまえは若く、時はまだ充分すぎるほどある」