「男流文学論」(ちくま文庫)より(上野千鶴子・小倉千加子・富岡多恵子)
村上春樹「ノルウェイの森」について
小倉「この人は、いろんなことに関心がない、関心がないっていうのね。ところが、すぐ後の
ページで、本当はめちゃくちゃ関心があることが暴露されてしまう(笑)」
「このひと、他の人の言葉を借りて自分自身を褒めるのね。〈「この寮で少しでもまともな
のは俺とお前だけだぞ。あとはみんな紙屑みたいなもんだ」/「どうしてそんなことがわか
るんですか?」と僕はあきれて質問した。〉
嘘付け。あきれてないじゃない。自分もそうおもってるくせに、厚顔無恥。」
上野「自分についての描写をみんな他人の口から言わせてる。「あなたってこうみたいな人ね」
他人の口から言わせたことに対して、すべて肯定的なのよ。叙述の内容に責任をとらない
というスタンスをいつも取っている」
富岡「全部翻訳文体なんだね〈午後が深まり〉、午後が深まりなんていうのも、翻訳文体ですね」
上野「やれやれ」というのは、その事態に対する距離と同時に。その事態を自分から変更する
意思が何一つないことを示しています。村上の世界の恐るべき受動性を象徴しています。」
富岡「やたら人が死ぬ。簡単に。小説の書き手のほうからいうと、非常に安易なのね」
上野「失敗した私小説でしょう」
上野・小倉・富岡「つまらん」