【本村洋】天国からのラブレター16【新潮社】

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19その後の対応も間抜けな洋
すると、「ぬいぐるみ買うと、口紅が買えなくなる」というのが弥
生の答えです。そして、泣きベソをかきながら、「どっちも欲しい」
とダダをこねるのです。これでは「じゃ、俺が買ってやるよ」と言
うしかありません。で、そう言った途端に、弥生は「洋、大好き」
と私に抱きついてきて、大勢の買い物客の前でキスを振る舞ってく
れました。よほど嬉しかったのでしょうね。
そのぬいぐるみに″ボビー≠ニいう名前を付けました。弥生に言わ
せると、それはオス熊だからということです。その日からずっと、
弥生は「寂しい時はボビーを抱いて寝るの」と大切にし、かわいが
っていましたから、買ってやった私も満足しました(この手紙をみ
ると私がゲームセンターのUFOキャッチャーで獲得したバルタン
星人に少し浮気していた時期もあったようですが)。
でもあの時、どうしてあんなに熊のぬいぐるみを欲しがったのか、
本当の理由はわからないままでした。私も気になったので、後で、
改めて聞いてみたのですが、弥生は「洋に似てたからかなー」なん
て言うばかりだったのです。
今の私はちょうど、人形売場でポツンと独り座っていた時の、あの
ボビーに似ている気がします。ただ、弥生は永遠に私を買いに来て
はしませんが……。