8 :
無名草子さん:
個人主義が楽で言い。
個人の意志を尊重しない日本の世間を解体すべし。
『パリ』 高村光太郎/
私はパリで大人になつた。
はじめて異性に触れたのもパリ。
はじめて魂の解放を得たのもパリ。
パリは珍しくもないやうな顔をして
人類のどんな種属をもうけ入れる。
思考のどんな系譜をも拒まない。
美のどんな異質をも枯らさない。
良も不良も新も旧も低いも高いも、
凡そ人間の範疇にあるものは同居させ、
必然な事物の自浄作用にあとはまかせる。
パリの魅力は人をつかむ。
人はパリで息がつける。
近代はパリで起り、美はパリで醇熟し萌芽し、頭脳の新細胞はパリで生れる。
フランスがフランスを超えて存在する
この底無しの世界の都の一隅にいて、
私は時に国籍を忘れた。
故郷は遠く小さくけちくさく、うるさい田舎のやうだつた。
私はパリではじめて彫刻を悟り、詩の真実に開眼され、
そこの庶民の一人一人に文化のいはれをみてとつた。
悲しい思で是非もなく、比べやうもない落差を感じた。
日本の事物国柄の一切をなつかしみながら否定した。