小説の匠(たくみ) 吉村昭スレッド2

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879ミステリ板住人 ◆0FE6khB7i2
「花埋み」の中(12章)でシーボルトの娘楠本いねに関しても言及されてはいるが、
医師である渡辺氏には、国家試験制度成立前の医業者に過ぎない彼女は、
さほど興を惹く存在では無かったのかもしれぬ。
しかも、いねの生涯の大半は歴史・時代小説の範疇に入るものであり、
主として現代小説を守備範囲とする渡辺氏の素材としては不適とも言い得る。
それならばということでもないだろうが、いねのぎんに劣らないどころか、
時代の違いもあり、それ以上の波瀾の生涯を描き切った作「ふぉん・しいほるとの娘」
を著したのが、吉村昭先生である。
この2作、前述したとおり、「ふぉん・しいほるとの娘」は文庫本3分冊の吉村作品最大
の長編であり、「花埋み」も細かいポイントの活字で400頁以上あるが、
是非、読み比べてみて欲しい。
作者の件を離れるが、共に才色兼備、現代なら恵まれた生涯を送ることが可能であった
であろう2人の女性の孤独な末路は心を打つものがある。