主人はここにおいて落雲館事件を始めとして、今戸焼の狸から、ぴん助、きしゃごそのほかあらゆる不平を挙げて
滔々と哲学者の前に述べ立てた。
哲学者先生はだまって聞いていたが、ようやく口を開いて、かように主人に説き出した。
「 ぴん助やきしゃごが何を云ったって知らん顔をしておればいいじゃないか。どうせ下らんのだから。
中学の生徒なんか構う価値があるものか。なに妨害になる。
だって談判しても、喧嘩をしてもその妨害はとれんのじゃないか。
僕はそう云う点になると西洋人より昔しの日本人の方がよほどえらいと思う。
西洋人のやり方は積極的積極的と云って近頃大分流行るが、あれは大なる欠点を持っているよ。
第一積極的と云ったって際限がない話しだ。
いつまで積極的にやり通したって、満足と云う域とか完全と云う境にいけるものじゃない。