「角川映画とこれに関連したキャンペーンにより、大藪作品はあらたな読者を獲得した」
というのが、よく言われているところだが、この言に関しては、俺はかねてから
疑問を抱いている。
検証は無理としても、角川映画化前から大藪ファンは相当いたわけだが、
当初は単行本が多く、ファン層が比較的若いことを考慮すると、次々と大藪作品を
読んでゆきたい、新作を読みたいと思いながらも、価格面で手が出なかったという
時期が続いたわけである。(この辺の事情は、熱烈な大藪ファンである鏡明氏のエッセイ等にも詳しい。回し読み、貸本屋、古本屋等により当時のファンは大藪熱を諌めていたとの
ことだ)
時代が少し下り、リーマンにはともかく、学生には徳間のホットノベルス(新書)でも
続けて購入するにはきついものがあったのである。
角川の映画化とこれに伴うキャンペーンの一貫として、大藪作品は次々と文庫化されて
いったが、この時点で文庫販売数の伸びに貢献したのは、新しいファンではなく、
かねてからの大藪ファンだったのだと思う。
やっと楽に手が出るところに来た(射程距離に入った)ということだ。
むしろ、角川映画の大藪作品を見ていた連中の大部分は、本なんか読まないか、
買っても、せいぜい映画化された作品の単品のみだったのではないか。
(実際「映画で見たから、もういいやという」考えも有りだったわけである)
これでは、大藪文庫化作品の部数全体の大きな伸びは期待出来ないのである。