筑摩書房月刊「頓智」1995 10月号(創刊号)養老孟司 vs 大槻ケンヂ 悩んだら虫に聞け 後半3分の1ほどを抜粋
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大槻:うーん、脳の活動によって人の悩みとかあるんだったら、この脳っていうのはもうち
ょっとうまいこと出来なかったんですかねえ。
養老:だから、(また大きな声で)人間がつくらなかったんだからしょうがねえだろうって
いうの。
大槻:だから、俺そのつくったやつに腹が立つんですがねえ。
養老:でも、それはいないわけだから。
大槻:えーと、心は脳の活動だということは分かったと、そういうものは遺伝子で決まると、
遺伝子をつくったやつはいない、そして、みんな、死体になってしまうと。そこまでは分か
りました。死んで、脳が活動をし終わった後にはどうなるんですかねえ。
養老:そんなこと考えたってしょうがねえんだよ。
大槻:わかんないもんは考えなくていい、と。
養老:死んでから考えろってのよ。
大槻:んー、じゃ、考えられないですねえ。
養老:そんなの、わかんないじゃないか。だから、死んでから考えりゃいいんだよ。何も生
きているうちに、死んでから先の心配する必要ねえって。
大槻:「自分は、今不安な心が有るんですがこれをどうすればいいですか」っていったら、
禅の偉い坊さんが「今ここに不安な心を持ってきてみろ。そしたら直してやる」って言って、
「あ、それは出来ません」って言ったっていう話みたいな。まさに頓智問答ですね。俺、
時々今でも不安感にとらわれたりするんですよ。
養老:人間の相手ばっかりしてるからいけないんだよ。
大槻:なんの相手すればいいですかね。
養老:だから言ったじゃない。虫見に山へ行って、体使ってりゃあいいんだ。人間のつくっ
たもの、あんまり相手にしないほうがいいんですよ。とにかく、カブトムシがなにするか見
てたらね、そんな悩みないでしょう。アリとかハチを見てて凄いなと思うのはね、とにかく
見事なことやるわけですよ。
大槻:理に適ったことを。
養老:そうなの。そうしたら、人間は一生懸命考えて理に適ったことやってるわけでしょう。
考えてる分だけ人間はアホですよ。アリは考えないでやってるんだもん。下手な考え休むに
似たりってよくわかるでしょう。
大槻:は、はい。禅宗とかで座禅組んでぼーっとしてろっちゅうの、あれもアリになれっち
ゅうようなもんですかねえ。猿知恵っていうかさ、足りない知恵で一生懸命考えるなんて、
たかが知れてるっていうことでしょう。
大槻:いや、全くその通りですよね。死の恐怖と生への執着とあと、罪悪感の、人間が宗教
に入る三本柱に、今とらわれてるんですが、やっぱり虫ですか。
養老:そう、いいですよ、虫。人間のつくんなかったものならたいていはね。救いになるで
しょう。人間とばっかりつきあってるからいけないんだよ。人間ってみんな権力欲持つでし
ょう。学者だってね、結局そうなんだよ。俺の言ってることは正しいって頑張るのはさ、結
局は人の考えを思うようにしようと思ってるわけで、虫取りに行って見てると、虫にはそれ
がない、虫の考えを思うようにしようとしたって、そういうわけにはいかないんだからさ。
それを見てるといい治療になる。
大槻:虫治療。じゃあ悩んだらまず、渋谷の志賀昆虫へ行け、ってことですかねえ。あー、
虫かあ。やってみようかなあ。山篭りですかねえ。
養老:生きている人間構うから面倒くさいんだよ。俺、いつも生きてる人には死んだら俺ん
とこに来いって言うんだよ。
大槻:それ、ありがたい言葉ですわ。行きますわ。死んだら。
養老:死んだら面倒みてやるから。
大槻:よろしくお願いします。