【沙織】ホテルジャンキーズクラブ・村瀬千文【49】
講談社メルマガ「ミステリーの館」より
●『沙織のニース誘拐紀行』村瀬千文
ホテル批評家が贈る、リゾート&サスペンス。
フリーター沙織は、知り合いの建築家に頼まれて、ひとりニースへ。生まれて
初めて泊まる高級リゾートホテルにて、シャンパンで喉を潤す彼女に誘拐軍団
の魔の手が!?
■リゾートミステリー、ノベルスに登場!
2月刊でノベルスに初登場! 『沙織のニース誘拐紀行』の著者・村瀬千文さんよ
り、熱〜いメッセージをいただきました。
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今回の作品は、私が初めて書いた小説です。
これまでにも処女作『ホテル・ジャンキー ホテルが大好きでやめられない』
をはじめ、ホテルを舞台にしたエッセイはたくさん書いてきましたが、小説を
書くのは初めての体験でした。
書き終わった感想は、「こんなに楽しいことはない!」。
なにしろ、自分で好き勝手、自由にストーリーが作れるわけで、こんな人がい
たらおもしろいと思う人物を登場させ、こんなことしてみたいなぁと思ったこ
ともどんどん登場人物にやらせることができるのです。
途中からは私の肩越しにパソコンの画面をのぞきこみ、打ち出される文章を読
みながらドキドキわくわくしている「読者の自分」が併走し、「ねぇ、次はど
うなるの? 早く書いて!」と急かされながら書いていた、という変な状況で
したが、おかげさまで思いのほか早く書きあがりました。
ホテルジャーナリストという仕事柄、世界各地を訪ねる機会が多いのですが、
「事実は小説より奇なり」と世に言うとおり、私がこれまで出会った人々のな
かには、脚色なしのそのままで小説の登場人物になれるような人たちがたくさ
んいました。特にホテルは役者揃い。超高級リゾートホテルともなると、お客
も従業員も一筋縄では行かない人生を送ってきた一癖もふた癖もありそうな人
ばかり。ロビーでプールサイドで、出会い、別れに詐欺、恫喝。夫婦喧嘩に横
恋慕。人生の奥深さを感じさせるドラマがライブで進行しているのですから、
こんなおもしろい舞台はありません。
そんなわけで、今回の沙織シリーズのメイン舞台も「ホテル」です。第1作目
の今回は地中海に面した世界でも指折りの高級リゾート、コートダジュールを
選びました。
日本ではニース、カンヌ、モナコぐらいしか知られていませんが、本当のお金
持ちたちが滞在するのはこれらの街からさらに奥に入った小さな街にある高級
プチホテル。クラス社会のヨーロッパの、ある意味で日本人が最も入りにくい
高級リゾート界ですが、ここに海外経験も高級ホテル経験も何もない若い日本
人女性の主人公を飛び込ませてみました。
この主人公の沙織は地方のふつうのサラリーマン家庭育ち。東京の大学を卒業
したものの仕事がみつからず、卒業後は日雇いバイトでなんとか食いつないで
いる状態です。お金もないし、縁故もないし、仕事もない。あるのはあふれん
ばかりの生命力とエネルギー、そして、たとえどんな困難が目の前にたちはだ
かっていようともこうだと思ったら迷わずに一歩踏み出すほんの少しの勇気。
そんな沙織がいろいろな人と出会いながら、期せずして広げていく世界をこれ
からのシリーズでも描いて行きたいと思っています。
村瀬千文
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