「スカートの風」の嘘と罪 (宝島30 1993年年10月号)
鄭恩美(韓国KBSテレビ東京リポーター)
たしか、昨年の秋ごろのことである。私はたまたま、テレビで韓国人ライターの
呉善花氏が喋っているのを見て驚いたことがある。彼女が口にする日本語があまり
にも拙かったからである。日本語で著作をものにし、通訳の仕事もこなしてきたと
称している人の日本語会話能力がこれほど稚拙であったとは! 呉氏が喋る日本語
は、大学に留学して学んできたという(彼女が語る)経歴を信じるなら、(個人差
はもちろんあるが)留学歴一年程度の韓国人のレベルでしかなかったのである。
そもそも彼女が留学生ならば、自分の勉学の内容について少しは書いてもよいの
ではないだろうか。なぜ歌舞伎町の飲み屋やホステスたちの実情、ブローカーの世
界にあれだけ詳しいのかこれも不思議である。彼女は来日十年で、現在東京外国語
大学の修士課程一年に在学しているが、韓国の大学を卒業して来日十年で修士課程
にいることは、普通の留学生には考えられない。
日本の企業は通訳に対してきわめて厳しい。通訳者は商談のないよう以外に一言
足しても抜けてもダメであって、たとえビジネスマン本人から雑談や威厳を求めら
れても自制するのが通訳者の最低限の心得である。呉氏がどんな通訳をしているの
かいちど拝見させていただきたいものである。
(つづき)
呉氏の著作の特徴は、自分が何者であるかを語らねばならない箇所は不明瞭にし
たまま、自分を必要以上に美化することに余念がないという点にある。当然、嘘が
多くなる。
数ある嘘の一部を紹介して置こう。
呉氏は軍隊に四年間いたという自分の体験に基いてこう語っている。
「韓国の軍隊にほんの一握りの女性軍人たちがいるが、彼女たちは国家の軍事的意
義に感じて軍人になる訳ではない。将来のファーストレディを目指す者たちが軍隊
で訓練を受ける通例があるのだ」(『スカートの風』)
この話を韓国人が百人聞けば百人が大声で笑うだろう。まず、女性が軍隊(一般
的には下士官志願)へ行く場合、経済的に安定した生活を望む理由で入隊するのが
普通と言われている。公務員としてある程度の安定した生活が保証されるからであ
る。ただし、商工を目指す女性の場合は、大卒の資格が求められている。呉氏は、
大学の卒業を待たずに軍隊に入ったというが、私が韓国の陸軍大尉に問い合わせた
ところ、大卒者以外は将校への道は開かれていないので、呉氏はこれに該当しない。
普通の大学に通学しながら軍にとどまる制度はなく、軍隊に入ると夜間大学で研修
を受けされられる制度があるだけなのである。呉氏は、権力者(軍人)の妻になる
ため陸軍士官学校出の軍人に出会いたくて入隊したと言っているが、これもまゆつ
ばものである。韓国では、「陸軍士官学校出の軍人の結婚相手は梨花女子大学か淑
明女子大学の出身だ」とされているのである。両女子大学が、韓国の二大名門女子
大学だからである(学校や職業でこういう決まりがあるのも変な話だが)。陸軍士
官学校出の軍人が女性兵士と結婚することなどそもそもあり得ない。