テーマは個人と社会の関係で統一してる。
ただし漱石の明治時代ではなく全共闘の時代の問題意識。
今ではおじさんくささや不完全燃焼も仕方なしかも。
元々,横並びで全共闘してたくせに就職を期に保守転向する
ような大多数の日本人とその社会に真正面から違和感を感じて,
「ささやかな」個人の生活を大事にする世界観を伝えていた。
そんな世界観が読み手に心地よかったけど,著者自身がアメリカで
生活した経験から,どれほど日本社会を知ってるのか疑問を抱く。
これが「ねじまき鳥」のスタート。
従来のいわば個人主義一辺倒なら第2部で終了すればいいこと。
でも社会に自分を溶かして混ぜる,関係を持つことが避けられない
という当たり前のことを強調する意味で第3部も送り出す。
ここがオンタイムの読者には驚かれた。それはないだろうって感じ。
どこを好きで読むにしても,若いならそのうち飽きる。
少なくとも,読んだところで「現実的能力」がつくわけではない。
デビューから読んでる人の間ではね,当時みんなが抱えてた一種の不平や不満を
あの小説の中の物語や世界観で表現された衝撃はそれなりにすごかったんだよ。
それは俺を含め出版順と関係なく読んでる人にはよく理解できないけど。
何が言いたいか,さして主張はないんだよ。みんなが抱えてるモヤモヤを物語に
してみましたっていうのが伝えたいことで,何を受け取るかは個人次第です。
言われてスッキリした,癒されたってのが大方の読者の効用だった。
それが「ねじまき鳥」第3部で,このままじゃだめですって問題が提起された。
明らかに第3部から作風が変わってる。全共闘のおじさん世代が今抱える不安,
つまりこれから日本社会はどこへいくのかってテーマにシフトした。
最近のカフカだって,大人が子供を理解するための小説ってスタンスでは。
もちろんおじさんの視点だから本当の子供が読んだら違和感があるだろうけど。
個人と社会から社会の行方という大人が論じる問題意識に変化したのよ。
この辺りは村上龍さんとかぶるから,読み比べるとより感じが掴めると思う。
一応文学なんだろうけど,経済社会や政治状況を背景,行間として知らないと
まずさっぱり分からないで終わっちゃうよ。そこまでして読むかは疑問。
47さんの「ノルウェーの森」は「ノルウェー材の家具」ってのは正しい。
正確にはノルウェー材でできたイスだけど。
作品の冒頭でビートルズのノルウェーwoodsという歌が出てくるけど,
これを日本語訳して森としている。実際の歌詞の内容は,
ノルウェー材のイスしかない部屋に住む女性が男を呼び関係を迫るが
あまりにも無味乾燥な部屋で近寄りがたく断られるというもの悲しい感じ。
つまり,他人との人間関係を苦手とする(と言われる)現代人のことを
小説でのテーマにしているという親切な題名のつけ方ですね。
ビートルズ世代でないとこんなこと分からないってのが普通でしょうが。
一応,「大切なことは最初に言う」みたいなことは著者も書いてて,
そのあらわれの一つだと思われます。
98さんの「沈黙」を読むと分かりやすいってのはその通り。
沈黙の世界レベルのテーマには及びませんが,社会を意識してる点は同じ。
もっと前の書きこみ読んでから書きこめば良かったな。
たぶん俺以外の長文や難しい主張する人は文学部なんかでしょうけど,
まず文学系の小説は経済や政治を背景に考えないと分からない。
それを無視して作品の中だけで「あたまかゆく」論じても意味がない。
いわゆる私小説って,個人を書くことで社会を批判するテクニックでしょう。
漱石さんだって問題意識には明治時代の近代化があったわけだから。
その上で文体とか物語の質について叩き合えばいいと思います。
突然の連続書き込み
感じ悪かったら許してね