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>>224続き)
それから、夜宴だ。宮司さんのお話によると、米を食べたスズメがこぼした米が
水たまりにいって、そこからどぶろくが出来たんだって。それを神様たちが飲んで、
百八十日間におよぶ宴会になったと言うんだ。
なぜか、どきりとした。私は19才の頃、自分のことをスズメと呼んでいたからだ。
当時仲良くしていたアパートの隣の部屋の男の子に、「私は自分の名前が好きじゃ
ない」と言ったら、「じゃあ、自分の好きな名前をつけてみれば」って言われて、
とっさに思いついたのが「スズメ」という名前だったんだ。
どうしてスズメなのか、今だにわからない。もしかしたら、私の無意識は、自分
の口からこぼした米で出来た酒で、神様を酔わせるスズメになりたいと望んでいた
のだろうか。
こんなこと書くと、また浮き世離れしているオカルトライターって言われちゃう
のかもしれないけど、私は、今回の旅で出会った神様たちのために書いていきたい
と、本気で思っている。
夜宴の最中に、私はたくさんの神様に出会った。ふるまわれるどぶろくに、それっ
と飛びついている神様。どぶろくを飲みながら、今年の酒は甘さと酸味のバランスが
とれておいしいと言っている神様。昔はそこいらの農家で自由にどぶろくが造れたの
に、今は規制されていて残念だなあとぼやいてる神様。てんぷらやざる豆腐に群がる
神様。
誰も彼もにこにことして楽しそうで、ああ神様たちがここにいらしゃると素直に
思えたんだ。もちろん、彼等は人間だ。でも、同時に、神様たちでもあったんだ。
神様と人間が混然一体となって、お酒と料理とおしゃべりを楽しんでいた。