★産廃物&盗作屋・田口ランディ監視スレ Part 32★
355 :
無名草子さん:
問題の殺してやるコラムはこれです↓
『根をもつこと、翼をもつこと』P.279〜(呪術と「LET IT BE」)
トークショーのイベント会場で久しぶりに不愉快な女と出会った。
その女は突然、つつつと私の前に立って握手を求めてきた。
込み合った会場は、観客でごったがえしており、そろそろビルが閉まるので早く
帰るようにと係員が怒鳴っていた。もみくちゃにされながら、私はいろんな人の手
を求められるままに握っていた。
女はそのなかの一人だった。
彼女は、無表情にひどく真面目くさって、私の手を握ると、まるで宣教師のよう
な威厳をもって私の顔を見つめてこう言ったのだ。
「あせらないで」
そして、「ふん」と鼻で息をもらすと、私の手をぎゅっと握ってからパッと手を
放した。
私は何のことかわからずに茫然として彼女の顔を見た。
年の頃は二五、六ではないだろうか。
彼女は二度と私を見ず、おもむろに足下に置いてあった鞄を持ち上げ、悠然と胸
を張るように私の前から立ち去った。「あせらないで」という意味不明の言葉を残
し、それ以外は一言もしゃべらず、偉そうにのっしのっしと立ち去って行ったのだ。
残された私は、三秒ほどしてから、猛然と腹が立って来た。
その傲慢な態度、あまりに独善的な態度に……である。いったい何を言いたかっ
たのだあのクソ女は!と思った。そのときの私の感情は怒りを通り越して憎しみに
近いものだった。
コミュニケーションというものを拒否されて、一方的に相手の思い込みに愚弄さ
れた。彼女が私という人間の事情などまったくおかまいなく、自分の言いたいこと
だけ言って去って行ったあの傲慢な態度、颯爽と気持ちよさげに立ち去っていくそ
の無神経さに殺意を覚えたのだ。
356 :
無名草子さん:02/08/16 07:06
>>355続き
ちくしょう。このような独善さに、私はなすすべもない。
ただもう思い出すと腹立たしく、なぜ、呼び止めて「ふざけんじゃねえバカ野
郎」と言うことができなかったのか、そればかり悔やんでいた。もう一言なにか
言ってやるべきだった。
しかし、できなかった。
くそう、もし次に来たときは絶対にあいつに一言言ってヤル。
私は彼女を探し始めた。
自分で似顔絵を書いて、手配書を回した。そしてスタッフにも「こんな女が来た
ら私に教えて」とおふれを出した。
すると次のイベントのとき、スタッフが「ランディさん、似てる人がいますよ」
と言う。
「え、まじ?」
スタッフは私の手を引っ張って開演前の会場に連れていく。
「もしかして、あの人じゃないですか」
「おおっ、そうだよ、間違いないよ」
私の似顔絵もまんざらでもないらしい。私はアイツを見つけた。
「ねねね、あの人を見張ってて。トークショーが終わっても見失わないで。帰ろ
うとしたら引き止めておいてね」
スタッフにそう念を押して私は楽屋に戻る。
そして、ハタと思った。
しかし、なんで私はこんなに執念深くあの女にこだわっているんだ? と。
イベントも終わって、私はもう着替えもそこそこにアイツを探した。頼んだ通
り、スタッフが通路に引き止めている。近寄って行って「ちょっと来て」と彼女を
引っ張って楽屋裏に連れていった。
357 :
無名草子さん:02/08/16 07:08
>>356続き
相手はさすがにおびえているみたいだった。それでも、相変わらず胸を張って、
姿勢だけはふんぞり返っている。
「このまえのとき、来てくれたよね」
ハイ、と女は返事をする。
「私と握手したの覚えてる?」
ハイ、覚えてますよ、と言った。この「よ」がなんだか小憎らしい。
「あんとき、あせらないで、って言ったよね」
ハイ、言いました。
「どういう意味?」
女は「はあ?」と顔をしかめて聞き返す。
「ああいう言い方されて、私が嬉しいと思う?」
意味がわからない、という顔をする。
「自分の一方的な思い込みを私に押し付けて、あんたはそれでいいだろうけど、私
はどれくらい気分が悪かったかわかる?」
話が聞こえているのかどうか、反応はなく無表情だった。
「ランディさんを傷つけて、気分を悪くさせたのなら謝ります」
ようやく、そう答えた。なんで怒ってんのこの人、って感じだった。
「あのさ、あなたは自分はいいことしたと思ってるわけ?」
少し考えて、女は「ハイ」と言った。臆面もなく。
「もうっ。どうしてそんなに自分勝手なの?」
それでも相手は無表情だった。しらっとしているという感じ。下目使いにいつも
人を見ている感じ。私はなにかもうこのままではこの女を殺してしまうかもしれな
いと思い「引き止めてごめん、もういいわ」と立ち上がり背を向けた。
358 :
無名草子さん:02/08/16 07:09
>>357続き
すると、女は私の背中に向かってまた言ったのだ。
「あせらないで」
私は金縛りにあった。
振り向くと、女の悠然と去っていく後ろ姿が見えた。
ちくしょうちくしょうちくしょう、あの女いつか殺してやる。
私はそう思った。真剣にそう思った。
そして、怒りにまかせて隣の楽屋に入っていくと、そこに秋山眞人さんが来てい
たのである。
彼は私の友人で古代史、古神道、道教などの研究家でもある。
秋山氏は私の顔を見るなり「どうしました?」と言った。やはりただならぬ雰囲
気を感じたのだろう。
「もう、まいりました」
私はヒステリックに怒鳴る。秋山さんは私のことをなだめながら、まあまあ何が
あったか説明してくださいよ、と言う。その穏やかな口ぶりに私もちょっと気分が
落ち着き、前回のトークショーであの女に会い、それ以来、彼女の一言が気になって
気になってたまらない、ついに今回、見つけ出して文句を言ったら逆にまた刺激さ
れてしまったことを話したのだ。
「もう、なさけないよ、あたし」
キーとハンカチを噛む私に、秋山さんは言った。
「はまりましたね」
「え?」
「術にはまったんですよ」
「私がですか?」
「そういう顔をしています」
359 :
無名草子さん:02/08/16 07:10
>>358続き
そう言って、彼は中指と人さし指で奇妙な印を結ぶと、私の頭の上で呪文を唱えて
空を切った。そして、ぴんっと、額を指で押した。
「正気にもどんなさい」
そう言われたとたんに、ふっと気分が軽くなった。
「私、どうしてたんですか?」
「呪術にはまってたんですよ、すごい殺気だった」
私はなんだか夢から覚めたような気分だ。
「どうしてたんだろう、私。知らない女が来て、ものすごく独善的なことを言うもん
だから、頭に血が登ってしまったんだよなあ」
さもありなん、と秋山さんは腕を組む。
「たまにいるんですよ、そういうのが」
「そういうのって?」
「無自覚な魔女だ。たちが悪い呪術使いさ」
まさか、アイツが、そんなすごいもんなの?
「本当ですか? 現代にいるの?」
「時代は関係ない。言葉があればそこに呪術も存在する。言葉の力なんだ。呪術は」
やられたらしい。私は完全にあいつの呪術にはまっていたんだ。しかし、なぜ?
「目的は何ですか?」
「そんなものないですよ。無自覚でやっているから。でも気をつけなさい。いたる
ところにいる。そしてトラブルのものととなる。術をかけられた人間は、そのまま
殺人鬼になったりする。ランディさんも人を殺しそうな勢いだったですよ」
そう言って秋山さんはふふふと笑う。
〈以下略〉