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名文なんで入力してみた。:
ごあいさつ
二十一世紀は始まった。
誰もが、子供の頃に思い描いた二十一世紀とは、何でも叶う夢の未来だった。科学技術
と人間の知恵が格段に進歩して、不可能な事が可能になる世界だった。
そして二十一世紀。実際に人間は、二つの飛行機で二つの超高層ビルに、それぞれ正確
に体当たり出来る事を証明した。
夢の二十一世紀は、不可能が無くなった事を知らせる二つの派手な爆音とともに始まった。
ドカーン!
ドカーン!
双子の飛行機が、双子のビルに突っ込んだその瞬間、我々は自分の周りを取り囲んでい
るのが無数の双子だらけだという事に突然気が付いた。そして我々にはその双子の見分け
が全くつかないという事にも。
我々は、〃イスラエル〃と〃パレスチナ〃の見分けがつかなかった。〃ユダヤ教〃と〃
イスラム教〃の見分けもつかなかった。また、〃キリスト教〃と〃イスラム教〃の見分けさえもつかなかった!
〃タリバン〃と〃北部同盟〃は、瓜二つの双子にしか見えなかった。
アメリカでは、ヒゲをはやしていた無関係な男が、テロリストの仲間とされて、殺された。
人間のDNAの殆どが解読されたというニュースの流れた二十一世紀初頭、我々が人を
見分ける唯一の手がかりとしたのは、〃ヒゲをはやしてるか、はやしてないか〃だった。
アメリカは、これはテロではない。戦争だと言った。我々はまた頭を抱えた。〃テロ〃
と〃戦争〃の見分けがつかなかったのだ。しかも我々は〃自衛隊〃と〃軍隊〃の見分けす
らつかなかった。そして、〃報復〃と〃平和〃の見分けもつかなかった。
我々がそんな事で悩んでいるうちに、アメリカは空爆を始めた。再び派手な爆音が鳴り
響いた。
ドカーン!
ドカーン!
そのうち、タリバンから解放された人々が、嬉々としてヒゲを剃っている映像が世界中に流されると我々は安心してこう思った。
「やっぱり違いはヒゲだったんだ」
そして我々は、彼等にこう言ってあげたくなった。
「もう一度、ブラウンで剃ってごらん。まだヒゲはたくさん残っているハズだよ」
同じ頃、日本にいる我々は、〃和牛〃と〃オーストラリア牛〃の見分けがつかなくて、
困っていた。
グルメ大国と言われた我々は、ラベルを変えられてしまったら、何も見分ける事が出来
ないという事実に呆然とした。
〃安全な食品〃と〃危険な食品〃
〃貧困〃と〃飽食〃
〃貯金〃と〃借金〃
〃進歩〃と〃崩壊〃
それらの双子は、瓜二つの顔をして我々の周りを取り囲み、我々は何一つ見分けられず
にいる。
昔、大きな双子の爆弾が日本に落ちて、戦後は始まった。それは、冗談としか思えない
ような出来事だったけど、真実だった。
ドカーン!
ドカーン!
それ以来我々は、〃ギャグ〃と〃真実〃という双子の見分けがつかなくなってしまった
のかもしれない。
爆笑問題・太田 光