西尾維新の本って何が面白いの?19

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7この名無しがすごい!
西尾の格闘描写↓
「ていっ! 喰らえっ!」
 言ったと思うと、八九寺は僕の身体に向けて、全体重を乗せたハイキックを喰らわせてきた。
とても小学生とは思えない、背筋に一本棒が通っているかのような、綺麗な姿勢での蹴りだった。
だがしかし、悲しいかな、小学生と高校生とでは、身長差というものが、歴然としてある。この差だけは埋めようがない。
顔面に決まっていればあるいはということもあったかもしれないが、八九寺のハイキックは、精々、僕の脇腹辺りにヒットするのがやっとだった。
無論脇腹にだってつま先が入ればダメージはある、しかし、それは我慢できないほどの質量ではない。
僕はすかさず、八九寺の足がヒットした直後に、両腕でかかって、その足首、ふくらはぎの辺りを、抱え込んだ。
「しまりました!」
八九寺が叫ぶが、既に遅い。
……『しまりました』というのが果たして文法的に正しいのかどうかは、あとで戦場ヶ原に訊くとして、僕は、片足立ちで不安定な姿勢になったところの八九寺を、容赦せず、畑で大根でも引き抜くかのような形で、思い切り引き上げた。
柔道で言う一本背負いのフォームだ。
柔道ならばこのように足をつかむのは反則だが、残念ながら、これは試合ではなく実戦だ。
八九寺の身体が地面から浮いた際、スカートの中身が思い切り、それもかなり大胆な角度から見えてしまったが、ロリコンではない僕はそんなことには微塵も気をとられない。
そのまま一気に背負いあげる。が、身長差がここで、逆ベクトルに作用した。
身体が小さい八九寺は、地面に叩きつけられるまでの滞空時間が、同じ体格の人間を相手にするときょりもほんのわずかに長かった――ほんのわずかに。
しかし、そのほんのわずかに、わずかの間に、八九寺は思考を切り替え、自由になる手で、僕の髪の毛をつかんだのだった。
理由あって伸ばしている最中の髪――八九寺の短い指でも、さぞかし、つかみやすいことだろう。
頭皮に痛みが走る。反射的に、八九寺のふくらはぎから、僕は手を離してしまった。
そこを逃すほど、八九寺は甘い少女ではなかった。僕の背に乗ったまま、地面への着地を待たず、くるりと、僕の肩甲骨を軸に回転し、そのまま頭部への打撃を繰り出した。肘鉄だった。ヒットする。
だがしかし――浅い。両足が地面についていないから、力の伝導が平生通りにいかなかったのだ。年齢の差、実戦経験の差が、もろに露呈したのだった。
決着を焦らず、落ち着いて一撃を繰り出せば、今ので決まり、今ので終わりだったろうに。そしてこうなれば、僕の反撃のシーンだった。必勝のパターンだ。
頭に肘鉄を入れられた、そちら側の腕を――感覚的に、左――いや、裏返っているから、右腕か、右腕をつかんで、その位置から、再度、やり直しの一本背負い――!
今度は――決まった。
八九寺は背中から地面に、叩きつけられた。
反撃に備《えて距離を取るが――
起き上がってくる様子はない。
僕の勝ちだった。
「全く、馬鹿な奴め――小学生が高校生に勝てるとでも思ったか! ふははははははははは!」
小学生女子を相手に本気で喧嘩をして、本気の一本背負いを決めた末に、本気で勝ち誇っている男子高校生の姿が、そこにはあった。
ていうか僕だった。
阿良々木暦は、小学生女子をいじめて高笑いをするようなキャラだったのか……自分に自分でドン引きだった。

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西尾のノベライズ(デスノート)↓
竜崎は本棚の、下から二段目の右端の方を指差した。
そこには、日本の人気コミックスが十一冊セットで、納められていた――タイトルは、『赤ずきんチャチャ』。
「……それが、どうかしたんですか?」
「大好きな漫画です」
「誰が」
「私が」
「………………」
 相槌を打つのも難しい振りだ。表情が、南空の意志とは関係なく勝手に、優しい形を作ってしまいそうになる――そんな南空の複雑な心中を察しようともせず、竜崎は続ける。
「南空さんは日系ですよね?」
「日系と言うか……父も母も日本人です。今の国籍は合衆国ですけれど、私も高校生までは、日本で育ちました」
「では、この漫画のことは知っているでしょう。彩花みん先生の歴史的な名作です。
 私は全話、連載で追っていました。しいねちゃんが可愛くってたまりませんでした。ただまあ、漫画版同様アニメ版も好きでしたね。愛と勇気と希望でホーリーアップ――」
「竜崎さん。その話、長くなりますか? 長くなるようでしたら、私は席を外しますが」
「南空さんに話しているのにどうして南空さんが席を外すんです」
8この名無しがすごい!:2012/12/31(月) 00:06:27.54 ID:MoWWLn4Q
「えー、あのー……、いえ、私も『赤ずきんチャチャ』は、大好きでしたけれど。アニメも見てましたけれど。愛と勇気と希望でホーリーアップしてましたけれど」
 ましたけれど、竜崎さんの趣味嗜好については全く興味がないということを言いたかったのだが、この私立探偵にそんな常識的観点からの意見を述べたところで、意味が通じるかどうかは怪しい。
 竜崎と同じくらい怪しい。
 いや、それは言い過ぎか。
「そうですか。まあ、アニメ版の魅力については今度本格的な席を設けてゆっくり語ることにするとして、今はこれです。見てください」
「はあ……」
 言われるがままに、本棚に並んだ『赤ずきんチャチャ』を見る南空。
「何か気付きませんか?」
「そんなことを言われても……」
 ただ、コミックが並んでいるだけにしか見えない。だから精々、ビリーヴ・ブライズメイドが日本語に堪能で、日本のコミックを愛読していたことくらいしかわからないが……そんな人間は、このアメリカ合衆国にいくらでもいる。
訳されたバージョンではなく原本で接するというのは、マニアというほどの読者でなくとも、よくあることだった。インターネットが全盛の現代、原本を手に入れるなど、容易いことだ。
 竜崎はそのパンダ目で、じっと南空を見ている。居心地の悪い視線――それから逃れるように、南空は、考えもないまま、一冊ずつ、『赤ずきんチャチャ』をチェックする。
しかし、十一冊すべてチェックし終えたところで、新事実らしいもの、あるいは真実らしいものは、一つとして発見することはできなかった。
「わかりません……何かあるんですか? この十一冊のコミックの、どこかに」
「いえ、ありません」
「……はあ?」
 さすがに声に険が籠る。
 からかわれるのは好きではない。
「ありませんって、それは、どういう――」
「ありません」
竜崎は、自分の言葉を、復唱した。
「あるはずなのにないもの――ですよ、南空さん。犯人がメッセージを込めたものがあるとすれば、それはないものではないだろうか――と、あなたは看破しました。
 そしてそれが、ビリーヴ・ブライズメイド本人であることも、あなたは看破しました。そんなあなたになら、きっと説明するまでもないと思ったんですが――見てください、南空さん。これ――足りないんですよ。四巻と九巻が、抜けているんです」
「え?」
「『赤ずきんチャチャ』は全十三巻です。十一冊では、二冊足りません」
 そう言われて、改めて確認してみると、確かに、背表紙に振られた巻数のナンバーが、『1』『2』『3』ときて『5』、『6』『7』『8』ときて『10』に飛んでいる。全十三巻という竜崎の言が本当なら、四巻と九巻、その二冊が足りないということになる。
「その――よう、ですね。でも、竜崎さん、それがどうかしたんですか? 犯人が、四巻と九巻だけ持っていったとでも? 確かにその線は考えられなくもありませんが、そんなの、元々不揃いなだけかもしれないでしょう?
 これから買う予定だったのかもしれませんし。本を順番通りに読む人ばかりではありませんよ。現に、それを言うなら、こちらのディークウッド・シリーズは、中途で終わっているようですから……」
「ありえません」
 竜崎は断定的に言った。
「『赤ずきんチャチャ』を、四巻と九巻だけ飛ばして読む人間なんてこの世にはいません。恐らくこれは裁判でも十分証拠として通じる事実でしょう」
「…………」
 この男はアメリカの司法制度を何だと思っているんだ。
「少なくとも、陪審員が、日本のコミック事情に明るい者達で構成されていれば、必ずそうなるでしょう」
「そんな偏った裁判は嫌です」
「犯人が持ち去ったと考えるのが妥当ですね」
 突っ込みを無視するという暴挙に出る竜崎。
 それでも、常識的観点に則り、南空は食い下がった。
「だとしても、竜崎さん、犯人が持ち去ったと決め付ける根拠はないでしょう。たとえば、友達に貸したということは、考えられないんですか?」
「『赤ずきんチャチャ』ですよ? 親が相手だって、貸すなんてことはありません。買えと言うはずです。つまり、これは犯人が持ち去ったと考えるしかないんです」
 強い断定口調で言い切る竜崎だった。