「んー。……ん?」
寝ぼけ眼で見えた世界に、私ははっとして目を見開いた。薄暗い、古ぼけた板張りの天井。そこにぶら下がった蛍光灯は、時折点滅を繰り返し
ていた。何より鼻につく古本の据えた匂い。本好きといたしましては馴染みなのだけど、ちょっと待て。
私はそこでようやく、布団を上に被せられていることに気がついた。お世辞にも綺麗とはいえない、ちょっとゴワついた厚手の布団。ゆっくり
こわごわ、視線を廻らせて、先ほどから耳を打つ音の正体に気がついた。部屋の真ん中に円筒形のサビが浮かんだ古ぼけたストーブがちょこんと
鎮座していて、その上のヤカンが、シュンシュンと蒸気を上げていたのだ。
つまり、なに?
私は、人の気配がないので、ゆっくりと身体を起こした。ずりかけたメガネを人差し指で直して、胸元に流れ落ちる黒髪を無意識に後ろに払う
。私が寝ていたのは、保健室にあるみたいなシンプルな灰色のパイプベットだった。手すりすらついていない。それとも、もげたのだろうか。私
は、布団から抜け出し、足を床に着けながら辺りを見回してみた。壁紙は日焼けして、もうくすんだ色しかわからない。それを覆い尽くすように
不揃いの棚やロッカーが備え付けられていて、何かのファイルや分厚い背表紙の本がはみ出さんばかりに押し込められている。私といたしまして
は、その無秩序な収まり具合に、棚を整理したくなったんだけど、そんなことより。
「……雪」
壁の一つに備え付けられた、幾つにも枠で区切られた窓の向こうは、吹雪だった。一瞬、雪と認識できなかったけれど、改めて耳を澄ませば、
ヤカンの音に混じって風の音が聞こえていた。時折窓ガラスが震えてガタガタと不協和音を奏でる。
ちなみに私の服装は、セーラー服。ただし半袖。つまり私は夏というつもりだったんだけど。
「えーと」
私はこれまでの行動を振り返った。どこかで穴に落ちたりしたかしら? ウサギを追いかけたりなんてしてないわよね。
ふと、私は自分の部屋で、着替えもせずに布団の中に潜り込んだことを思い出した。たしか、すごく眠くて……
「っ」
私は、胸が締め付けられて急に涙がこぼれそうになるのを慌てて押しとどめた。
それ以上考えたら、だめっ。
私は、怖くて身体を両腕で抱きしめた。何かわからないけど、思い出したくない。
>>601 【改稿】 可 だったのでちょっとやってみた。