【ラノベ】自作を晒して感想をもらうスレvol.35

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202 [―{}@{}@{}-] この名無しがすごい!
>>170
>ためらう間もなく、ぽっかり開いた穴の中へと進んでいく。高さはじゅうぶんにあったが幅はせまく、油断すると壁にぶつかりそうになる。
 おまけにすぐ外の光も届かなくなり、広彦は息苦しさを覚えた。
「どこまで行くんだ」
「黙ってしっかり妾の手を握っておれ。振り向くなよ」
 声は何故かしら緊張をはらんでいた。
 やがて、ざわざわと虫の這うような音が聞こえ始めた。しきりと何かが体に触れた。思わずたたらを踏みそうになった広彦の手を引っ張って、琵琶はずんずん歩いていく。
 ざわざわ、きぃきぃ、気味の悪い音はいよいよ大きくなり、そして不意にぱたりとやんだ。
 琵琶の振り向く気配。
「もうすぐだ」
 言葉通り、すぐに明かりが見えた。広彦はほっと息をついた。
 そこは洞窟の深奥でなく、外だった。御殿のある側とは真裏に出たようだ。そのわりに、さっきと変わらぬ西日が木々の中へ差し込んでいる。
 軽い頭痛と眩暈を覚え、少しふらついた。琵琶が下から覗きこむ。
「大丈夫か?」
 広彦は黙って頷き、自分の体を見下ろした。ありがたいことに虫はついていなかった。
 二人はさらに歩き続け、やがて先ほどの裏木戸とまったくよく似た門の前に出た。琵琶は何も言わずにくぐっていく。広彦はちょっと周りを見回し、その後に続いた。
 寂れた裏庭。きざはしと回廊。赤い欄干。先ほどまでいた御殿とまるで同じ造りをした建物がある。
 妙な既視感を覚えて、広彦は立ち止まる。訝しげな広彦を振り向いた琵琶は、黙ってついてくるよう目顔で促した。二人は履物を脱いで屋敷へあがり、入り組んだ回廊を広間へと戻った。
 相変わらず静かで人気はなかったが、座敷の景色は二人が出て来たときとは違っていた。廊下から回ってみれば、十匹ほどの猫が夕日のかかった座敷に寝転がっていたのである。

イメージできる。ここは文章がうまい