>>170 >駅前の商店街で買い物を済ませた帰り道、橋の途中で都津を見つけた。犬の散歩を片手間に携帯をいじっていて、広彦に気づく様子はない。
広彦は立ち止まり、距離が近くなるまで待った。
「如月」
都津はわっと声をあげ、携帯を放り出した。飛んできたそれを落ちる寸前にキャッチし、広彦は笑った。
「相変わらずそそっかしい」
「わー。びっくりした。お買い物?」
広彦の姿に慣れたらしい犬がワンと挨拶する。その頭を撫でてやり、広彦は携帯を都津へ手渡した。都津はペコリと頭を下げながら礼を言い、上目遣いに広彦を見た。
「昨日はごめんね」
「俺のほうこそ悪かった、キツい言い方して」
丸っこい顔に明るい笑みが浮かぶ。都津は強く首を振って、広彦の持っている買い物袋を覗き込んだ。
「お惣菜ばっかり買ってない? ちゃんと栄養のあるもの作って食べなきゃだめだよ」
「料理はおじさんたちに仕込まれたから」
「そうなんだ。親戚の人たちはどう?」
「良い人たちだよ。母さんたちとは全然付き合いがなかったみたいだけど、よく面倒見てくれた」
「そっかー」
ホッと息をつき、まるで自分の事のように都津は笑顔になった。広彦は少し黙ってそれを見つめる。都津はきょとんとし、少し頬を赤くした。
「どうかした?」
「変わってないなと思って」
橋から見える古びた町並み、そして川を挟んで向かいに広がる住宅街を眺める。
「おまえも、この町も」
都津は広彦の視線を追い、首を傾げた。
慣れるのが早い