>>170 >捨てた紙切れがどうしても気になる。
あのファイルに挟んであったということは、両親の葬式が終わってから引越すまでの間に渡されたということだ。『相談にのる』という言葉は広彦へ向けられているということになる。
広彦は少し迷ったあと、丸めた紙を再び拾った。広げてシワを伸ばしているうち、昔にそれを見たことがあるのを思い出した。
大人たちが引越しの準備をしていたときだ。広彦は一人、部屋の隅に座っていた。そこへ、義母が遠慮がちにこの紙切れを持ってきたのだった。
「広彦くんのお洋服に入ってたんだけど、誰からもらったメモかな?」
もちろん広彦には分からなかった。広彦はただ、秋という母の名をそれ以上見ていたくなかった。反射的に紙を受け取って、ちょうど持っていたアドレス帳にはさみ、それごと義母に渡したのだ。
その紙切れの差出人が誰なのか、記憶を探ろうとするが頭が痛む。両親の――五年前の――ことに近い記憶を引っ張り出そうとすると、いつもそうだ。
ひとまず紙切れを財布にねじこみ、アパートを出た。
良い感じだ。