【ラノベ】自作を晒して感想をもらうスレvol.35

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180 [―{}@{}@{}-] この名無しがすごい!
>>170
>「ヒーくん!」
 一瞬、呼吸が止まる。聞きなれない少女の声だったが、その呼び方はいやというほど覚えている。
 胸の痛みとともに、軽い眩暈。頭を押さえて耳によぎった声を振り払い、広彦はトラックが去ったのとは反対のほうへ視線を向ける。
 少し離れたところにダックスフントを連れた少女が立っていて、目が合うなり空いている手をぶんぶん振り始めた。
 背中まで届く波打つ栗色の髪に、すらりとした小柄な体。小鼻が少し上を向いた、まだ幼さの残る童顔。オレンジ色のスキニーパンツと、丈が長めで肩口の開いたトレーナーという格好に、クマの顔を象ったショルダーバッグをかけている。
 少女は犬を引っ張るようにして駆け寄ってきた。遠目にはわからなかったが、左目の下に小さな泣きボクロがある。
「わー、やっぱりヒーくんだ。わー」
 やたらわーわー言いながら顔を近づけてくるので、広彦は思わず後ろへ下がった。少女はきょとんとし、ついで悲しそうに眉間にしわを寄せた。
「まさか、あたしのこと忘れちゃった? もう覚えてない?」
「如月都津(キサラギツツ)」
 それだけ、呟くように答える。たちまち、日の光が差したかと思うほど少女の表情が明るくなる。
「そうだよ、都津だよー。覚えててくれたんだね。わー」
 お花畑が見えそうな勢いでくるくる回りだす飼い主を、犬の方はつぶらな瞳で見守っている。都津はすぐにハッとして回るのをやめ、体に巻きついたリードのロープを真っ赤になって回収にかかった。
「ちょっと待って、ちょっと待ってね。行かないでね」
「犬、飼ったんだ」
「中学校に入る時に知り合いのおじさんからもらったの。いま四歳」
 都津はロープを取り終えると、乱れた髪を撫でつけ、前髪を留めていたピンをつけ直した。イチゴの飾りが髪の上で少し揺れた。
 昔の面影を残した幼馴染の笑顔から、広彦は思わず視線をそらした。
「このアパートに引っ越して来たの?」
「こっちの高校に入ることになったから」
「どこ?」
「舞花学園」
 都津は目を見開き、口をOの字型にした。
「舞花? あたしと一緒だー」

ここはもっと強い印象を。
181この名無しがすごい!:2011/04/22(金) 14:38:45.17 ID:WIDZwTUo
***お知らせ***
このスレには時折、嘉一朗 ◆oOLN65ZNXE(通称:紅茶)というコテが現れます。
彼は感想がつかないと自演に走る事があり、一番最近では串[―{}@{}@{}-]をつけて電撃小説大賞スレ290で荒らしながら感想人批判をしていました。
電撃スレではID無表示ですが、晒しスレ34にて彼が紅茶コテに切り替え忘れたまま串として感想を書き込んだことから自演だと判明。
よって嘉一朗 ◆oOLN65ZNXEや串付きには反応せず、スルー推奨です。
どうしても彼にレスしたい人は、コテハントリップを付けて他者がNGできるようにして下さい。
182 [―{}@{}@{}-] この名無しがすごい!:2011/04/22(金) 14:39:43.42 ID:lIcKokI7
>170
>「そっか、そっか。ヒーくんも舞花に通うんだ。それじゃ、もしかしたら同じクラスになれるかもしれないね。小学校以来かー」
 もう同じクラスになることが決まったかのような喜びよう。おもむろにズボンのポケットから携帯を取り出すと、くすぐったそうに笑った。
「みんなにも教えてあげよー。ヒーくんがいなくなってから、みんな寂しがって大変だったんだよ」
「いいよ」
 広彦はとっさに手を伸ばして都津の携帯を押さえた。目を丸くした都津の手の中で、折りたたみ式がカチリと閉まる。
「どうしたの?」
「いい。言わなくて」
「でも、みんな会いたいだろうし」
「あれから新しい友達もできただろ。俺も、もうあんまり覚えてないから」
「あたしのことはちゃんと覚えてたじゃない」
「近所だったからだよ」
 都津は瞬きし、視線を落とした。それと同時に携帯を握った手も下がる。広彦は押さえていた手を離して、ゆっくり都津から距離を取った。
「それとさ、その呼び方」
「え?」
「もう子供じゃないし、名前で呼ばなくていいだろ。如月」
 じゃあな、と小声で言って、逃げるようにアパートへ向かう。
「あ、待ってよ、ヒーく……」
 急いで振り向き、都津を睨んだ。都津はしばらくもごもごしていたが、唇を噛み肩を落として、小さく頷いた。
 階段を駆け上がって振り向くと、まだそこに都津は立っていた。俯いて動かない飼い主に構わず、じれた犬がしきりとリードを引っぱっている。
 広彦は部屋に入り、ダンボール箱の間に寝転がって目をつむった。そのまましばらく、じっとにじむような頭痛に耐えた。

睨むまでもない状況
183 [―{}@{}@{}-] DEATH LEGO ◆jMdquu9xa6 :2011/04/22(金) 15:01:49.59 ID:yrKC4SK9
串は串だが・・・私ではないw
184 [―{}@{}@{}-] この名無しがすごい!:2011/04/22(金) 15:02:32.08 ID:lIcKokI7
>170
>もともと多くない荷物だったため、翌日の昼過ぎにはおおかた片付いていた。
 最後のダンボール箱を開けた広彦はちょっとの間、手を止めた。自分で詰めた覚えのないものが新聞紙を緩衝材にして積み重なっている。それも、最近のものではなく五年前の引越しの時の荷物らしいのが、新聞の日付で分かった。
 大切にしろ、という義父の一筆が書かれたメモをつまみ、息をつく。養子になったわけではないから正確には義父ではないが、引き取って世話を見てくれた怜二は実の父より厳しいところがある。
 しかしその分、広彦のことを考えてくれてもいる。実際、古い荷物が取ってあったのは素直に嬉しかった。だが、その中身を見ることは今の広彦にとっては重荷だ。
 封をし直してしまっておこうかとも思った。しかし少しためらったのち、広彦はガムテープへ伸ばしかけた手を引っ込めた。新聞紙を引っ張り出して写真立てやアルバムを手に取った。
 両親とも、広彦が十歳になるまでにずいぶんな量の写真を撮っておいたらしい。ビデオテープもかなりの量になる。しかし、そこに映っている家族の姿を見ることはどうしてもできなかった。
 いっとき春彦が単身赴任をしたときにやり取りした手紙。広彦が描いた絵。賞状。絵本や学習ノート。
 すべて出してみて、広彦はため息をつく。出してはみたものの飾りようがなさそうだ。
「どっちにしろ押し入れ行きか」
 しまいなおしていると、アルバムと一緒にしておいた小振りのファイルから紙切れが落ちた。キャラクターの絵がプリントされたアドレス帳だ。引っ越す前、都津や友人たちから渡されたものだった。
 かすかな記憶を引っ張り出しながら、広彦は表紙をにじませている小さな染みをなぞった。大きな目を涙でいっぱいにした幼馴染の姿をぼんやりと思い出した。穴あけされ綴じられた用紙には、クラスメイトの連絡先や広彦へのメッセージが書かれている。
 落ちた紙切れを拾い、眉をひそめる。パンチがされていないところを見ると、ただ挟んであっただけらしい。内容はごく短く『困ったことがあったらいつでも相談にのるよ』という一言とともに携帯の番号が書いてあるだけだ。
そして小さく『秋さんの見知らぬ友人より』とあった。

次に続く
185 [―{}@{}@{}-] この名無しがすごい!:2011/04/22(金) 15:03:36.46 ID:lIcKokI7
>「見知らぬ友人?」
 不可解な単語をつい口に出し、広彦はつかのまそれを見つめた。
 両親はともに近しい身寄りがなかったし、交友関係も広くなかった。それだから広彦の引き取り手もなかなか見つからず、近所の人がようやく古い年賀状の中に義父の名前を見つけて連絡してくれたのだ。
 広彦の知らない友人がいなかったとは断言できない。しかし、秋自身の知らない友人というのはどういうことだろう。
「……ストーカー?」
 その単語が浮かぶなり、すぐさま紙をまるめてゴミ箱へ放った。放物線をえがいて見事なゴール。
 改めて散らかしたものをダンボールの中にしまいなおし、押し入れの奥へ押しこむ。きれいになった部屋を見回し、まくっていた袖をおろした。
 時計は三時をさしていた。必要な買い物をすまし、ついでにちょっと町中を見てまわればちょうど銭湯へ行く時間になるだろう。
 出かける準備をして、部屋の鍵を手に取った。しかしドアへ向かおうとし、ちょっと動きを止めた。

展開が遅い。
186 [―{}@{}@{}-] この名無しがすごい!:2011/04/22(金) 15:05:55.87 ID:lIcKokI7
>>170
>捨てた紙切れがどうしても気になる。
 あのファイルに挟んであったということは、両親の葬式が終わってから引越すまでの間に渡されたということだ。『相談にのる』という言葉は広彦へ向けられているということになる。
 広彦は少し迷ったあと、丸めた紙を再び拾った。広げてシワを伸ばしているうち、昔にそれを見たことがあるのを思い出した。
 大人たちが引越しの準備をしていたときだ。広彦は一人、部屋の隅に座っていた。そこへ、義母が遠慮がちにこの紙切れを持ってきたのだった。
「広彦くんのお洋服に入ってたんだけど、誰からもらったメモかな?」
 もちろん広彦には分からなかった。広彦はただ、秋という母の名をそれ以上見ていたくなかった。反射的に紙を受け取って、ちょうど持っていたアドレス帳にはさみ、それごと義母に渡したのだ。
 その紙切れの差出人が誰なのか、記憶を探ろうとするが頭が痛む。両親の――五年前の――ことに近い記憶を引っ張り出そうとすると、いつもそうだ。
 ひとまず紙切れを財布にねじこみ、アパートを出た。

良い感じだ。
187 [―{}@{}@{}-] この名無しがすごい!:2011/04/22(金) 15:07:36.84 ID:lIcKokI7
>>170
>駅前の商店街で買い物を済ませた帰り道、橋の途中で都津を見つけた。犬の散歩を片手間に携帯をいじっていて、広彦に気づく様子はない。
 広彦は立ち止まり、距離が近くなるまで待った。
「如月」
 都津はわっと声をあげ、携帯を放り出した。飛んできたそれを落ちる寸前にキャッチし、広彦は笑った。
「相変わらずそそっかしい」
「わー。びっくりした。お買い物?」
 広彦の姿に慣れたらしい犬がワンと挨拶する。その頭を撫でてやり、広彦は携帯を都津へ手渡した。都津はペコリと頭を下げながら礼を言い、上目遣いに広彦を見た。
「昨日はごめんね」
「俺のほうこそ悪かった、キツい言い方して」
 丸っこい顔に明るい笑みが浮かぶ。都津は強く首を振って、広彦の持っている買い物袋を覗き込んだ。
「お惣菜ばっかり買ってない? ちゃんと栄養のあるもの作って食べなきゃだめだよ」
「料理はおじさんたちに仕込まれたから」
「そうなんだ。親戚の人たちはどう?」
「良い人たちだよ。母さんたちとは全然付き合いがなかったみたいだけど、よく面倒見てくれた」
「そっかー」
 ホッと息をつき、まるで自分の事のように都津は笑顔になった。広彦は少し黙ってそれを見つめる。都津はきょとんとし、少し頬を赤くした。
「どうかした?」
「変わってないなと思って」
 橋から見える古びた町並み、そして川を挟んで向かいに広がる住宅街を眺める。
「おまえも、この町も」
 都津は広彦の視線を追い、首を傾げた。

慣れるのが早い