【ラノベ】自作を晒して感想をもらうスレvol.35
>広彦は二階の南端にある部屋の前で立ち止まり、呆れ顔で猛を振り向いた。
「ガキンチョって言われてたじゃん」
「偏屈なじいさんだと思って我慢しな、これから世話になるんだから」
パンクな格好をしている割にまともなことを言って、さっさと開けろと視線で促す。広彦はそこだけ新しい鍵穴に鍵を差込み、少し軋むドアを開けた。
入ってすぐが台所、そして十畳の部屋がひとつとトイレ。風呂はない。これから始まる高校生活の三年間、もしくはそれから先も暮らすことになるかもしれない新居は日当たりが悪く、湿ったにおいがした。
もともと少ない荷物を運び終わるのに時間はかからなかった。汗を洗い落としたいという猛の要望で、近くの銭湯に寄ってから昼食をすることになった。
平日の昼間のこと、銭湯にいるのはご老人ばかりだ。猛の姿は異星人じみて目立っていたが、本人はまるで気にする様子がないのもいつものこと。すぐ向かいにあったラーメン屋で昼食を済ませ、アパートへ戻る頃には二時を過ぎた。
「それにしても、猫の多い町だな」
家の軒先や石垣の上などを眺めながら歩いていた猛が、ふと顔をしかめてぼやいた。
「昔からそうだよ」
「俺はぜってー住めねぇな」
たいがいのことに対して怯まない猛も、犬や猫は大のつくほど苦手なのだ。
「じゃーな、しっかりやれよヒコ助」
「もうその呼び方やめてよ」
猛は軽トラへ乗り込み、にやっとした。もともといかつい顔をしているだけあって、そうすると悪役の俳優みたいになる。人好きのするタイプとはほど遠い。
「女連れでライブに来れるようになったら変えてやるよ」
人差し指と小指を立てる手まねをしてみせたが、すぐに引っ込めちょっと真面目な顔つきをした。
「本当に一人で大丈夫か。無理して思い出すことでもねぇと思うんだがな、オレは」
「人の心配してる暇があったら、自分の心配したら。このあとのデートがうまくいくか」
「デートじゃなくてライブだよ」
殴るそぶり。広彦が後ろへよけると同時に、エンジンを吹かす。
「とにかく、いつでも戻っていいんだからな。変な遠慮すんなよ」
「分かってる」
かくいう猛は二年前に家出して以来、東京で暮らしている。今日、広彦の手伝いに来たのも住んでいる場所が近かったからだ。その猛が実家のことを話すのも妙なものだった。
軽トラは行きと同様、勢いよく走り出し、たちまち小さくなっていった。広彦はしばらくそれを見送り、アパートへと踵を返した。
ライトのベルなんだからギャグを増やすべき場所。