【涼宮ハルヒ】佐々木とくっくっ Part59【変な女】
無言の圧力に屈して何となく俺も正座で向いに座ると、
「重要な話があるの。ちゃんと聞きなさい」
ハルヒはこう切り出した。聞いてみない事には重要かどうかも判りようがないのだが、それを言い出してつまらん喧嘩になるのは俺も御免被る。
「聖なる夜にこういう事を言うのは、正直言ってあたしも心苦しいんだけど」
早く言えハルヒ、お前らしくもない。そう急かすとハルヒは少し眉を潜めたが、すぐに元に戻して、
「サンタさんの代わりに、煙突にプレゼントを放り込んできなさい」
何だって?
「だからサンタさんと服を交換して、そこのソリに乗って、今から街中の煙突という煙突にプレゼントを放り込むのよ」
日本語で話そうかハルヒ。どうして俺がそんな事をしなければならないのか、その根拠を言ってもらおうか。
「不覚にも、勧められるままに酒を飲んでしまったからな。乗りたくてもソリには乗れん」
少し頬を赤らめたジジイが、威厳を保ったまま鷹揚な口調でハルヒに代わって答える。
黙れジジイ。お前つい先ほど、人間の法や道徳に従う義務はないとか自分で言ってなかったか。だったら飲酒運転でも何でも勝手にするがいい。
人間の掟なんぞ気にする事なく、プレゼントを配る義務ってやつをとっとと履行しやがれ。
ジジイは立ちあがるでもなく、卓上の猪口を手に取って中身を飲み干す。飲み干して俺に語る。
「これは人の定めた掟に従っている訳ではない。私の内なる道徳規範に従っているまでだ。それともそこの愚劣なる少年よ、君は飲酒運転によって愛する人を失った、あるいは殺めてしまった人間にも、今と同じ言葉を投げかけるつもりかね」
去年の映画撮影現場で起きた悪夢を思い出さなければ、間違いなくこのジジイの顔面が砕けるまで灰皿で殴り倒していた所だろう。
それほど俺はこのジジイに対して反発心を抱いていた。我慢していたのは、ハルヒが浮かべたにこやかな笑みを壊してはならないと思ったからだ。
繰り返しになるが、俺は空気の読める男。略してKYだ。空気の読めない奴もKYと略すんだったか。
「まあ、普段着のままでソリの上からプレゼント配ってもマズイわよね。サンタさんも上から叱られるだろうし」
したり顔で頷くハルヒ。ところでお前の言う上って誰だよ。
「組織に決まってるじゃない!」
どんな組織だよ。
「サンタさんに聞いたのよ。組織があるんだって。このサンタさんの担当は、この街なんだってさ。そりゃそうよね。
一晩で世界中にプレゼントを配るなんて大仕事、たった一人でできるわけもないし」
ねえキョン聞きなさい、とハルヒは母親のような声で俺に諭す。
「こんな所で休んでいるのがバレたら、サンタさん来年からプレゼントを配れなくなっちゃうわよね。そうなったら大変だわ。
来年からこの街の子供たち、プレゼントを貰えなくなっちゃうわ。だから組織の目を欺くために、キョンが変装する必要があるの。解るでしょ?」
酒を飲んだのはそのジジイの勝手だろうが。
「だってお酒飲むかって聞いたら、サンタさんが飲むって答えたんだもの。だから妹ちゃんに頼んで、鶴屋さんのお酒を貰ってきたの」
お前も飲ませるなよなハルヒ。運転すると知っていた相手に酒を飲ませた方も、いざって時には法に問われるんだぞ。
「いいのよ。ここで会ったのも何かの縁、今晩はこのお座敷でゆっくりしていってもらえばいいと思ってた所なんだから」
なんだそりゃ。訊くとハルヒは立ち上がり、スレンダーな割に出るところの出た胸を突き出し、凛々しく眉を吊り上げて傲然と言い放った。
「お年寄りを深夜に働かせるなんて、あたしが許さないわ!」