【涼宮ハルヒ】佐々木とくっくっ Part59【変な女】
カニ――
エカテリーナ女帝も真っ青な天上天下唯我独尊のSOS団長こと涼宮ハルヒが、この世で最も忌み嫌う食材。
あいつが嫌がるからと、俺たち団員の誰もこの食材を調達しようなどとは夢にも思わなかった。もちろん鶴屋さんが用意したものでもない。
神にも等しい権力を誇るハルヒの好物を知らない、今年からの参加者の誰かが不用意に持ち込んだものであろう。
案の定というか、カニのハサミを目にしたハルヒは見る見る機嫌を損ねてゆき、持ち込んでもいない俺に向かってぶつくさと文句を垂れまくった。
せっかくトリ鍋のために用意した出し汁がカニ臭くなるとか、クリスマスにトリじゃなくてカニだなんて外道だとか。
それを言い出したらクリスマスに鍋というのもどうかと思うがな。それに本場じゃ鶏ではなくて七面鳥だ。
ハルヒは食べないから、俺が食べるしかあるまい。せっかくだから、俺はこの赤のカニを選ぶぜ。
身を取り出しやすく、かつ煮込みすぎて身の旨みが鍋汁に抜け出さない程度に火を通す。
ポン酢に浸し過ぎると本来の風味を損なう。できればカニ酢かマヨネーズの方が好ましいのであるが、
生憎とこの場はカニを食する目的で開かれた宴会ではなかったため、そんな気の利いた調味料がある筈もなかった。
鶴屋さんの事だ。頼めばカニ酢ぐらい用意してくれただろうが、しかしカニ嫌いで知られるハルヒを前にカニ酢を頼むのも当て付けがましい。
俺は空気の読める男、略してKYだ。だから目先のカニ酢に気を取られて、場の雰囲気をブチ壊すような真似など絶対にしない。
あれ、空気の読めない男もKYと略すんだったか。ややこしい。
とにかく茹で上がった身を慎重に殻から引っ張り出し、足の形状を保ったままの身を、全長の二割ぐらいをポン酢にさっと潜らせる。
思わず舌の裏から湧き出た生唾を飲み込んだ。その美味を存分に堪能する。
……はずだった。