【涼宮ハルヒ】佐々木とくっくっ part28【変な女】
「おお、すごいな。」
彼はまず、窓から覗く真白に染まった夜景に目を奪われていた。
が、僕はそうではなかった。
…………一体どいうことだ?話が違うじゃないか……
襖を開けて最初に僕の視界に飛び込んできたものは、妙な具合に離された二組の布団だった。簡単なものだが、ご丁寧に敷居まで立てられている。
一体、これは誰の陰謀だ……
「どうしたんだ、佐々木。そんなとこに突っ立って……ほら、こっち来いよ。」
「……あ……ああ、そうだね……今行くよ。」
彼は窓辺で僕を手招きしているが、僕の意識は別のことに捕らわれていたので、上の空といった感じで答えるのが精一杯だった。
女将さんが指示するのを忘れたのだろうか?ああ、何てことだ………
出鼻をくじかれてしまった僕はすっかり意気消沈してしまい、とてもじゃないが敷居をどけようとか、ましてや一緒に寝ようなどとは言う気が起きなかった。
―――その頃の、隣室―――
「何とか間に合いましたね。お二人の邪魔をするのは僕としても心苦しいのですが、卒業まででいいので自制していただきたいのです。
或いは、キョン君が役者で涼宮さんがもっと鈍いのであれば、こんなことをしなくても済んだのでしょうが……」
「………私がさせない。」
「ええ、えっちなのはい、いけないと思います。」
「佐々木さんの貞操は私のものなのです!キョンさんなんかには渡しません!」
「ふんっ、これも規定事項だ。」
「―――ちょっと―――不憫……」
「…………はぁ。」
折角の覚悟が無駄になってしまった疲れで僕がため息をついていると、彼が突然部屋の方に向き直る。
「しかし、無粋だな。何で敷居なんかが立ててあるんだ……邪魔だから取っちまおうぜ。」
「へ?」
「しかも、布団が部屋の端と端じゃねえか。もっとスペースがあるんだから有効に使うべきだろ、ジョウコウ。」
最後の一言は意味がよく分からなかったが、彼はそそくさと敷居を部屋の隅にどけて布団をくっつけた。
ああ、キョン君もやっぱり僕のことを想ってくれていたんだね……
「旅行の夜の語り合いってのは布団をくっつけてするもんだ。ここの旅館は他のことには全く文句はないが、これだけは頂けねえな。」
「………………。」
「どうした?佐々木、気分でも悪いのか?」
「い、いや、何でもないよ……」
……やっぱりそうなるんだね。いや、僕もおかしいとは思ったよ?君のほうから誘ってくれるなんてね。
くっくっく、そんなに僕と議論がしたいのならこのやり場のない想いは、君を精神的に叩きのめして発散させることにしよう。
その夜、旅館には「頼む、もう寝かせてくれ。」と言う男の声と、「いや、まだだ。」と言う女の声が夜通し響いていたそうだ。
翌日、旅館を後にするときに見送ってくれた女将さんや仲居さんたちが妙に僕たちのことを生暖かい目で見ていたが、あれは一体なんだったんだろうね?
ともかく、そんなことをしてたから帰りの新幹線では二人とも熟睡してしまい、またもや乗り過ごしてしまいそうになった。
まあ、僕の方が先に目を覚まして事なきを得たんだがね。
今回の旅行は本当に色々あったが、駅に着くまで彼の寝顔をじっくり眺めることが出来たし、まあそれでよしとしよう。
幸福は貪るものではなく育むものだと誰かも言っていたし、これから二人で育てていけばいいじゃないか。君もそう思うだろう?
僕の問いかけに彼は身じろぎをして寝返りを打つだけだったが、今の僕にはそれだけで十分だった。
これからもずっと一緒にいようね、キョン。
903 :
654:2008/02/04(月) 17:57:30 ID:ekF0kaPZ
以上です。
大変遅くなりました。
何とかこのスレのうちに投下しようと土日を費やしましたが、それでも終わらなかったんですorz
どうやら、自分の筆が遅いのは先に浮かんだとこから書くため、つなぎが億劫になる所為みたいです。
他のSS職人の方はどうやって書いているんでしょう……
あと、構想段階で修学旅行ネタは考えてたんですよ。
昨日、先駆者様のSSを読んで冷や汗をかきました。
あっぶねぇ!変えてよかったぁ……
>>903 GJ
さすがキョン。
しかし、二人きりでの泊まりの旅行したら、何もなかったとしても普通は言い逃れできない関係なんだが・・・
どうでもいい。
てかSS投下自体は良いけど「支援」のレスを見ると駄レスすんなとか思ってしまう。
連続してレスすると規制になるんだよ
駄レスw
>>905 早ければ5回連続投下くらいで連投規制されるんだよ
実際に猿になってたの見たことある
>>903 気持ちわかりますよー
自分の一番出したいところとか閃いたりしたところは筆進むんですけどね
私もとりあえず入れたいものを入れていってその後で周りを埋めるって感じです
専ら起承転結のうち起転結が先に埋まって承辺りが最後に残っちゃいます
やりたいことやった後に残りの作業するのは結構きつい…上手く繋げるの大変ですし
でも書くからにはいいものに仕上げたいのでやる、って感じです
みなさん苦労されてると思います
軽率な初心者いじめんなよおまえらw
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俺も投下、以下2レス
↓↓↓
『佐々木の難問』
2月上旬のバレンタインを控えたある日、俺は佐々木から郵送された小包に頭を抱える羽目になった。
中身は所謂バレンタインチョコというやつだ。ハート型の黒いチョコをキャンバスに
Lから始まるアルファベット4文字で構成された単語がホワイトチョコで描かれた代物で、
それにメッセージカードが一枚添えてあるという極めてオーソドックスな一品だった。
これだけ聞くと、世の一般的な男性諸氏なら何故チョコレート貰って頭を抱えてやがる
このモテない男達の敵め、的な感想を抱くであろう。
俺だって、古泉から長門や朝比奈さんからこんなチョコを貰いましたって言われれば
先の感想に加えて一発殴らせろ、まで言う自信がある。
では何故俺は頭を抱えているのか?その理由は、描いてある文字とメッセージカードの内容にある。
『僕がこの4文字の英単語に込めたメッセージを読み取ってくれたまえ』
佐々木に電話で確認したところ、答えはバレンタイン当日に直接会って発表、
正解なら賞品、不正解ならペナルティを課すとのこと。ついでに余り期待はしていないが、と宣った。
やれやれ、ハルヒだけじゃなくお前まで俺に心労を強いるのか?
まあ佐々木の事だから賞品は参考書あたり、ペナルティでも一緒に勉強させられるってとこだろう。
外れても無料で家庭教師して貰えるって考えれば気が楽だ、少しは考えてみるか。
候補1
単語の意味を素直に捉え、それを佐々木風に言うなら「君よ壮健なれ」みたいな感じか。
だがあの佐々木がそんな単純な問題を出す訳が無い、従って却下。
候補2
スペルを逆から読むと悪って意味になるから、その反対だから善、良いになる。
良い……良い人って事か?なら込められたメッセージは「所詮君はいい人止まり」?
……何故かフラれた気分だ。いや別に俺は告白した訳では無いし、そもそも俺達は付き合っていた訳でも無いのだが。
第一、バレンタインチョコにそんな事書く奴が居る訳が無い。て事でこの案も却下。
訳やら無いやらがやたら多い気がするが、そこは華麗にスルーしてくれ。
候補3……を考えようとした時、突如携帯がけたたましく鳴り響いた。
ああ、この五月蝿さは団長からの呼び出しだな、我ながら着メロの設定にセンスを感じるぜ。
話を聞くに、今年もバレンタインのイベントをやるらしい。去年の大騒動が悪夢となって甦る。
神様というやつは、俺に考える時間を与える気は無いようだ。全く、本日二度目のやれやれだ。
で、バレンタイン当日の夜。
俺は疲労困憊の体に鞭打って、呼び出した当人である佐々木の家にやって来ていた。
昼間どんなイベントやったかは割愛させて頂く、とにかく凄く疲れたって事だけ理解してくれ。
「やあ、お疲れの所呼び出してすまないねキョン。お腹も空いているだろうし、
お茶と食事を用意したからまずは一緒に食べよう。話はそれからだ」
二人でテーブルにつき、最初にお茶を頂く。
もう卒業される朝比奈さん謹製には一歩及ばないものの、疲れた体の隅々に染み渡ってゆくのを感じる。
すると少しばかり余裕が出てきたのか、今まで気付かなかったある事に気付く。
「なあ佐々木、家族の人とかは居ないのか?」
「丁度出張中でね、今家には僕しか居ないんだ。だからキミも気兼ねすることなく安心して寛いでくれたまえ」
「そ、そうか……」
逆に緊張するっつーの。
まあ多少回復したとはいえ、今の俺にお前を押し倒す体力は残ってないだろうが。
「ご馳走さん。旨かったぜ」
「お口に合いましたようで何よりです」
言葉だけ見ると妙に慇懃な受け応えをしつつ、どこか上の空で心此処に在らずな佐々木。
理由を考察したくない事もないが、そろそろ本題に入るとしよう。
「佐々木、チョコレートに込められたメッセージの件なんだが……」
「ああそうだったね。実は直ぐにでも聞きたくて仕方が無かったのだが、なかなか言い出せず困っていたのだよ」
上の空の理由はそれか。
「キミの方から切り出してくれるとは有り難い。
では答えを聞こう、僕はあのチョコレートに、あの単語に、どんなメッセージを込めたと思う?」
「そうだな、LIKEにするか思い切ってLOVEにするか散々迷った揚句、
どっちかに決める事が出来ず二つを合成してしまった。問題形式にしたのは照れ隠しの為、とか?」
はい、妄想乙。
弁明させて貰うと、SOS団でのイベントの準備やら何やらで時間をとられ、真面目に答えを考える時間が無かったのだ。
だから俺は開き直った。どうせ外れでも佐々木が家庭教師をしてくれる勉強会だ、否やは無いどころか歓迎するぜってな。
そして佐々木のこれまでの所作や言動の理由をこうだったら良いなと俺の都合の良いように曲解しまくり、
結果導き出された結論が先程の答えという訳だ。
いやあ佐々木さん、真っ赤になって震えてらっしゃいますな。
多分怒ってるんだろうが、体力が戻りかけてきた俺にとってその表情は黄信号だぞ?。
「しょ、賞品をあげなきゃね……」
え、もしかして正解だったのか!?
あの、佐々木さん?賞品って何なんですか?
何でまさか正解するなんて、等と呟きながら徐に上着を脱ぎ出すんですか?
では問題です。チョコレートに描いてあった英単語は何でしょう?
(終わり)
>>913 GJ。キョンその後何があったか教えてくれ。無修正で
不 合 格
>>912-913 GJ
こーいうのっていいなぁ
>>914 できればメル欄にでも書いてくれたらありがたかったww
どうせ見えるんだけどww
>>892ワロタWW
続けてくれてありがたう。
>>903 キョンの朴念仁の前では、宇宙的・未来的・超能力的干渉すら無意味ですなw
>>903さん
Nice Flacra.www
濃厚なキス&婚前旅行までしといてただの同級生とかなんてキョンクオリティ
途中までエロパロ展開期待していたのは自分だけでいい・・・
>>640は半分冗談で書いたんで、まさかこんな展開になると思ってなかった・・・。
ここは優しい人の多いスレですね。
>>917 まだ後は残ってんのか?それとも本命だったか
こういうときはなんて声を掛けてやったらいいものやら・・・
俺が悩んでいると後ろからショートカットのよく似合う少女が歩いてきた。
「お、佐々木か」
「・・・」
佐々木は俺たち二人の顔を交互に見比べた後で尋ねてきた。
「どうしたんだい?二人とも。深刻そうな顔をして」
「いや…なんつーか、な」
「受験に・・・失敗したんだ」
「・・・」
俺は何も言わなかった。
「ははっ。危ないかな?とは思ってたんだけどね。実際に落ちるとは・・・いやー人生ってわからないね」
>>917は努めて明るく言った。顔は全く笑ってなかったが。
その代わりにかどうかは知らんが佐々木が微笑みを浮かべて、
「・・・なんだ、そんなことかい」
「そんなことってお前…」
佐々木は
>>917の方を向いて優しく語り始めた――
923 :
917に捧ぐ:2008/02/04(月) 23:28:11 ID:MMB/f+2a
「確かに今は辛いだろうね。自分の行動を後悔することもあるだろう。
世界中で自分が最も不幸な人間だと考えるかもしれない。
しかし人生は長いんだ。予定した道が少し変わっただけだよ。
10年、20年後に省みたときにあんなこともあったな、と笑って話せればいいのさ」
「いや、今それを言っても――」
・・・意味ねぇんじゃねえか?
佐々木は俺を一瞥して、
「今だからこそ言うんだよ。いいかい?
>>917君。
僕も生まれてから10年かそこらで偉そうなことは言えない。今は落ち込むだけ落ち込んでいいとも思う。
ただ、それを引き摺ったところで事態が好転するわけではないのも事実だ」
「・・・」
「受かったからどうとか落ちたらどうとかではないよ。
僕たちはまだこれから高校生。今からいくらでも挽回のチャンスは来るはずだ。」
「それに――」
君は一人じゃないだろう?
佐々木は最後にそう言うと
>>917の肩をポンっと叩いて教室を出ていった。
「俺はあんなにいいことは言えんが・・・」
最後のには同意してやる。
「元気出せよ、
>>917。何も出来ん俺でも話くらいは聞いてやれるからな」
陰ながら
>>917のこれからの奮起を願っております。
馴れ合いウザイ
>>923 お前の優しさには感動だが、
>>917は報告なのか?
どうも、受験生をおちょくったようにしか見えん……
今までの流れが華麗なヌルーならちょっと尊敬する。
^^;;
受かったぁぁぁぁぁ!
これで安心して中学を卒業できる
930 :
この名無しがすごい!:2008/02/05(火) 01:52:46 ID:J7jt6weI
>>929 おめでとう、良かったなwwww
と言いつつ二回目の投下
『再会の再開、際会』
今頃何処かで昇っているかも知れぬ太陽は数刻も前に沈み、駅の出口を照らすのは構内の刺々しい人工の照明と薄暗い街灯の光だった。
サラリーマンの姿も目立ち始める光景の中を、友人知人にキョンなる渾名にて呼ばれる学生である彼は、いた。
「やあ、キョン」
駅の改札口を抜け、今まさに家路につこうとしていた彼を呼び止める声を、彼の別段超人的な聴力を誇るわけではない彼の鼓膜は確かに知覚した。
不可思議事象の探索による肉体、または精神的な疲労感からか両の手をポケットに突っ込み若干猫背気味な姿勢で気だるげに歩を進めていた彼は、雑踏に飛び交う雑音の内に己の渾名を認識して手も姿勢もそのままに体ごと後ろに向き直る。
すると彼の視界に飛び込んできたのは先ほどまでのいつもの街の光景、即ち通りを行く人々にひっきりなしに通り過ぎていく車の群れ。その内に、あくまで彼の主観だが、僅かながら風景から手前に浮き出して見えるような印象を与える女を発見した。
髪は肩に軽くその重みを感じさせる程度の長さで、身を包むのはシンプルなブラウスの上にカーディガン。下はプリーツスカートと言った出で立ちだった。大きめの眼は確りと彼の顔で焦点を結び、口元は気持ちほど弧を描いていた。
時間にして一秒程度の後に彼はその女を確かに己の渾名を呼ぶに相応しい人物に違いないとみとめ、しかし何故か若干浮かない調子の口調で言葉を紡いだ。
「久しぶり……、でもないのか? 佐々木よ」
眉根を寄せつつそれでも無礼な程そっけないわけではない程度の口調の彼に、佐々木と呼ばれた彼女は喉の奥に何かの引っかかったような独特の笑い声をあげながら目を細める。
それを目にした彼は、こちらは何か眩しいものを見る時のように目を細めた。
「前回君と遭遇した時から今現在までそう大した時間が経過したわけではないさ。従って久し振りという発言はそれほど適切ではないのではないか、と僕は思うね。
だが個人的には、君と今後交友関係を続けていくにあたって『久し振り』という発言が適切になってしまうほどご無沙汰してしまうことがどのくらいの頻度で起こり得るのか、ということのほうに興味をそそられる」
「またこんなふうに街中で見かけることもあるんだろうし、まさに今みたいにお前が声をかけてくるか、はたまた俺がお前に声をかけるかすれば前々回みたく丸々一年間ご無沙汰、という事態は回避可能だろう」
「違いないね、しかし親友同士が学校を違えただけでこうも遭遇する機会が珍しくなるとはね。ある程度は予想していたのだがその見通しが果てしなく甘かったという事実は認めざるを得まい」
話しながら距離を詰めてくる彼女に対し、気だるげな態度をあくまで崩さず答える。と、言うより笑みを浮かべている彼女とは違い、キョンと呼ばれた彼は贔屓目に見たとしても彼女との出会いを喜んでいるようには見えなかった。
勿論嫌悪感をあらわにしているということではない。強いて言うとするならば、若干腰が引けてしまっているような態度だった。事実、近付いてきた彼女に対してあからさまではなかったものの彼は半歩身を引いていた。
そのことを自覚しているのかしていないのか、そんな彼は少しだけきまりが悪そうに視線を伏せたが、ため息を一つ付いてから意を決したように続ける。
932 :
ss2:2008/02/05(火) 02:35:39 ID:oN5BKY/U
「だがぶっちゃけて言うとすれば、今後暫く、または永遠かどうだかまでは想像もつかんが、お前の顔にご無沙汰する事は無さそうに思えるがね。どちらかといえば、悪い意味で」
仮にも彼女の言葉の通り親友同士であるとするならばあまりにも不躾な物言いだった。だが、彼にも彼なりの理由というものが存在した。
前回彼女と会った時にその隣にいたのは以前彼の知人を誘拐した本人である、と言った笑い話にもならない現実だったからである。友の友は、残念ながら友どころか敵であった訳だ。
そんな理由によりつっけんどんな態度で言い放たれた言葉を聴いて、彼女は一瞬発言の意図をつかめず困惑した様子だったが即座にその意を解し少しばかり俯きつつも笑みを浮かべた。
だがそれはついさっきまでの笑みとは異なったものであることは仮に第三者が判別したとしても一目瞭然であった。
「ああ――――、そう、なのかもしれないね。……僕としてはなるべく君との関係を壊したくは無いんだ、キョン。
そう簡単に割り切ることは出来ないかもしれないが今ここにいるのは僕と君だけだ。だから今だけでも腫れ物を触るような扱いは即刻やめてほしい、と親友として提言するよ」
「すまん、俺としても一年のブランクの空いた後のお前との会話を楽しみたくはあるんだが。残念ながら神様は人間ってもんをそう上手に作ってはくれなかったみたいでな、割り切るにしても時間はほしい」
「勿論さ、思う通りに事が進むようにも人間は作られていないのだからね。だからこそ人間は考える葦なのだ、存分に考えて答えを出すと良い。僕はその答えが僕の思うものであってほしいと願うことしか出来ない」
「神だ云々って話をそれこそお前とつるんでた頃なら鼻で笑い飛ばしも出来たんだろうが、今はそれこそ俺自身が鼻息で飛ばされそうな程得体の知れないものに遭遇しまくったという尊い経験があるんだ。そう簡単には、ちょっとな」
やはり言うべきではなかったか、等と内心ぼやきつつ話す彼に対して改めて以前には無かった壁を感じたのか、彼女は少しだけ寂しげな表情を顔を見せる。そんな表情を見た彼はやはりやはり言うべきではなかったか、等と更に思考した。
だが覆水は盆にかえらぬように一度口を割って出た言葉を再びしまいこむことが出来る筈も無い。
少し脇に寄ろうか、と提案した彼女に彼が軽く頷き返し二人は少し駅側へと来た道を戻っていった。
「それはそうとキョン、君はいつもこの時間帯はこの辺りを歩いているということで良いのだろうか。僕は日常坐臥に大体この時間帯にこの駅に降り立つわけだが、このタイミングで君と出くわすのははじめてのことなのではないかと思うんだ」
壁を背にして彼と隣り合う彼女は大仰な身振りと共に話題を変えた。彼がその言葉に思考を巡らせてみれば成る程、確かに彼がこの時分にこの場所にいること自体は珍しいものではなかったが、彼女と遭遇した事実があったか否かは言うに及ばず。
内面に没入している彼の表情を伺っていた彼女は、何かを感じ取ったのか満足げに頷いた。
「保障があるわけじゃないが、そう少なくない頻度でこの辺りをこの時間帯に歩いてる俺を発見するのはそう難しくないんだろうよ。端的にいうならたまには、ってとこだな」
「ふむ、実は僕は大体この時間帯なのだ。そして僕の方には保障というかその証明のようなものもある」
そこまで言うと彼女はありふれたタイプの学生カバンを肩からおろし、その内から数冊の参考書のようなものを取り出し示す。数学、英語、国語という文字がそれぞれの表紙に並び、季節が季節だからかそれほど開いた形跡があるようなものには見えなかった。
それを見た彼は又少しの間だけ思考し、一つの解答を導き出した。
「塾の勉強、か?」
「その通りだ。君の脳細胞が錆び付いていないようで安心したよ。いかにもこれは先日塾内で配布された参考書だ、やはりただただ漠然と学校で行われた学習を反復したとしても効果はそれほど見られない。効果を挙げられたとしてもそれだけで受験なんてとてもとても」
「なるほどな、それで塾で勉強か。ご苦労なこったな、進学校の雰囲気っていうのはそんなに勉強一点張りなもんなのかね。お前程の頭でも付いていけないなんてどんな化け物揃いなんだ」
「別段そういうわけではないんだ、だがやはり上を目指すということは並の苦労で成し遂げられることではないんだろうね。そういう君は中々に勉学が疎かになっているようじゃないか」
返す刀でばっさりという調子だった。彼女の瞳を覗き込むような視線と何もかもお見通しだよと言わんばかりの微笑を前に、彼は大きく頭を振る。事実彼の学業成績は中々芳しいものではなく、徐々に右肩下がりのものであると言い切っても嘘ではなかったからだ。
933 :
ss3:2008/02/05(火) 02:36:54 ID:oN5BKY/U
「そう言ってくれるなよ、これでもそれこそ並には苦労して――――――、一部並外れた苦労をしてるんだぜ」
「勉学で苦労をしたまえよキョン、君が色々と苦労をしていることは百歩譲って認めたとしてもそれとこれとは別の話だろう。……っ、いや、それにしても……」
「こらそこ、笑うんじゃあない」
笑いを堪えきれないようで小刻みに肩を震わせる彼女に、彼は憮然とした態度で応じた。その彼のへの字に結ばれた口元を見て彼女はとうとう声が漏れてくる程度の笑いにシフトアップしたようだった。
「く、くっくっ……、キョン。君は変わっていなかったようだ、安心したよ。いや、変わってないところもあると言うべきなのかな」
「佐々木よ、それは侮辱の言葉と受け取ってもよろしいんだな、手袋投げつけるぞ」
「違う、違うさキョン。くっくっくっ……、なんというか上手く言葉にはならないんだがね、うん、やはり僕は今モーレツに安心しているのさ」
「…………釈然としないがまあ良い。そういうお前もあまり変わったようには見えんな俺からも」
そうかい? と返事をしながら彼女は空を仰いだ。つられて彼も上を見る。月も無い夜空と人工の灯りの二つに世界は分けられていた。
光が闇を削っているのか、それとも闇が光を押しつぶそうとしているのか。神は世界を二つに分けたらしいが、人はそれを三つに分けているのかもしれないなと彼は漠然とそう感じた後、自分はこんなにも詩人だったのかと首を傾げた。
「まあ今までの会話から察するに、君は塾他勉学に励むようなところには行っていないんだろう。ああ、学校は除いてね」
「図書館にはたまーに行くぞ、勉強はしないがな。塾か……、行く気にもなれん。お前はよくそんなところに行けてるな」
「そういう君も中学生の頃通っていたじゃないか、あの頃の気持ちを思い出し一念発起しそれこそ学校で一番を取る勢いで勉学に励むのも良いかもしれないよ。
僕個人の観点から見れば、君は凡百の『やれば出来る』と言う人間には埋もれていないと確信しているんだ。君はやれば出来る」
真顔で言い切る彼女に対して、買い被りすぎだぞ、と。彼は照れくさいのか頭をかく仕草を見せた。それと共に顔に浮かんだ微笑は、今までのどこか硬いような表情と違い自然にもれ出たような笑みだった。
「それにあの頃はお前がいたじゃないか。俺一人で塾に通って勉強して今の結果を出せたかと問われれば俺は間違いなくNOと即答するね」
「僕が君の答案に答えを書き込んだわけじゃない、君一人の力だよ。君はもっと自分に自信を持ったほうが良いんだ、謙遜は美徳だが自虐の域になるといただけない」
「そういう問題じゃあない。俺の方も上手く言葉に出来ないんだが俺はお前と一緒にいる時間が嫌いじゃなかったんだ」
「それは――――――へっ?」
先ほどまでの理路整然とした語り口調からは想像も付かないような間の抜けた声が彼女の口から漏れていた。やや大きめの眼を更に見開きぽかんと口を開けて呆ける彼女に気付いていないのか、まるで構わず彼は話を続ける。
「なんだかんだで付き合ってくれただろ、色々と。楽しかったから続いたに決まってる。勉強が嫌いだということに迷いは無いがお前と勉強するのは悪くなかった」
「キ、キョン。それはどういう意味で言ってるんだい?」
「言った通りの意味だがな、一人で通う塾が長続きするとは到底思えん。金の無駄にもなるんだろうな」
「――――そういってもらえるのは、……うん、嬉しいよ、とても。それなら僕と一緒ならば塾なり何なりに行って勉学に励むと、そういうことになるんだろうね?」
934 :
ss4:2008/02/05(火) 02:38:23 ID:oN5BKY/U
彼女は何かを噛み締めるような顔をした後、何か面白い悪戯を思いついた少年のような笑みを浮かべて問いかける。その発言を聞いて彼は慌てて両手を振った。
「ま、待て待て待てまあ待て、セイ、セイ。お前の塾はアレだ、どうせ難しくてよくわからん勉強をしてるに違いないだろうしきっとクラスも上の方のクラスだろ」
「と、言うことは二つの選択肢があるわけか。聞くかい?」
「聞きたくない。断固聞き無くないぞ」
「そうかい? 残念極まりないね」
おどけたように左右に両腕を広げる彼女の表情に陰は無く、軽く肩を落とす彼の表情は明るかった。顔を見合わせる二人の表情に、どちらからともなく笑みがこぼれる。
そして彼女は掛け声と共に今まで背を預けていた壁から離れ、まだ壁に寄りかかっている彼を正面から見据えた。彼が困惑の色を乗せて視線で問いかけると、彼女は言葉を持ってそれに答えた。
「さあ、生憎だが僕はそろそろ帰宅しなければいけない。夕食を食いはぐれるのは僕にとって好ましい展開とはいえないし」
「そうか、了解した。じゃあ俺もそろそろ帰るとするかね、なにで帰るんだ? 送ってやっても構わんぞ」
「君の自転車の乗り心地を確かめるのも悪くは無さそうだが今日はバスで帰るよ。また今度にでもお願いしようかな」
そう言って先に歩いていく彼女の顔は彼の目には見えなかったがその声から恐らく笑顔なのではないか、と。彼は勝手にそう解釈した。
「また今度の時が来るのは吝かじゃないんだが、できれば余計なのを交えず会いたいもんだぞ、と」
遠ざかりつつあるその後姿に声をかけた彼に、彼女は半身になりつつ片手を上げることでこたえる。そしてスカートを翻し、そのまま歩き去っていった。後に残されたのは彼と、僅かに香る彼女の残り香だった。
「…………ああ」
何か思うところが暫しの間彼は佇み、何故か虚空に向かって相槌をうつと。彼自身も街の人ごみにまぎれていった。
(終
以上です。それにしても佐々木を知ってから一ヶ月たってない俺に文章を書かせたいと思わせる佐々木の魔力は凄まじいなw
乙
言葉を堅苦しくしすぎてトンチンカンな用法になってるところがけっこうあるな…
そういう時は、優しく穏やかに分かりやすくハッキリと具体的に真綿でジワジワと締め付けるようにネチネチと執拗に憎たらしく、
それでいて爽やかに清々しく壮快で逞しく健康的に可愛らしく微笑ましい雰囲気を醸し出しながら、丁寧に厳かで礼を尽くしつつ指摘してあげてはどうかと。
修辞が多すぎて二律背反、実行不能になってるところがけっこうあるな…
佐々言葉は難しいな。
いいんだよ、ながるんだって使いこなせてないんだからw
それを言っちゃ(ry
>>935 GJはできんが乙
精進精進
まったりとして、それでいてしつこくない文体を目指しましょう
偉そうですまん・・・
>>941 驚愕発売遅延の理由がそれだったりして・・・。
>>941,
>>944 佐々木語をうまく扱えなくて延期か
じゃあうまく使えるように佐々木さんメインの話を10本ほど書いてもらおう
>>944 『6月発売の「驚愕」については、普通に驚愕するポイントが最低3つ』
(2007年4月発行まんたんブロードより坂本氏談)
・驚くべき本の厚さ
・驚くべき値段
・佐々木の口調の驚くべき変化
やっと3つ目が埋まった
佐々木さんが「〜でゲス」とか言っちゃうのか
保管庫、50万HIT記念の投票開始だって。
しかしリロすれば増える仕様とはいえ、
毎日1500HITの保管庫ってのもすごいな。
266 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/02/05(火) 05:32:42 ID:xVfXew93
892 :この名無しがすごい! :2008/02/04(月) 09:38:30 ID:zt9/f7Lt
>>891 佐々木さんが刺されたと聞いて飛んできたのです。
キョンさん暴力は駄目なのです。
「別に無理やりじゃなく、同意の上で・・・」
男の人はみんなそう言うのです。
佐々木さん痛かったですよね?もしかしたら血なんか出て
「ちょっと痛かったわね」
キョンさん責任取って一生佐々木さんの奴隷になるのです。
病院にも連れて行くのです。
キョンさんに刺されて数か月。佐々木さんは悪い病気で病院通いです。
大きなお腹を抱えて。かわいそう
「あれがかわいそうな顔ですか?レズは自重して下さい。もしかして何も判ってない?」
何ですか?朝倉さん
「刺したら新しい生命が誕生し、その上、一生一緒にいられるって聞いたけど、あの話って間違ってたの?」
「もしかして、それで彼を刺したのですか?もう一度詳しく説明する必要がありますね」
明日は佐々木さんの結婚式なのです。
(終わり)
267 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/02/05(火) 06:57:08 ID:2cQj0QMm
>>266 此処じゃそんなの流行んないよ
272 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/02/05(火) 11:15:21 ID:HDK04bEo
>>266 他スレの変なの持ってくるな
276 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2008/02/05(火) 11:15:21 ID:MmD3KLOZ
すぐにエロネタに走るスレってもう末期だよな
自演乙
ところでそろそろ次スレか。
今スレは大型SS多かったけど、
まあさすがに容量オーバーにはならんとか。
次スレ立てる人は佐々木さんの胸のくそを取って欲しいな
俺は言われるまで気がつかなかったけど
そろそろkskといきますか
>>955 驚愕が発売しないことへの胸くその悪さを暗示してるんじゃないか
ゆめなきおとこむれ
にちゃんねるへえろのせて
うさはらし ふぁびょり
つぼをもたぬ
まけぐみかわいそす
すげー
何かの暗号だな
ちょっと解読してくる
殿堂入り投票してきたー
まだ二人目だったのは皆作品吟味してるのか、あまり関心が無いのか…
まあ忘れてるのが無いか様子見ながらってのもアリだとは思うけど
俺はまだ吟味中
963 :
この名無しがすごい!:2008/02/05(火) 19:33:15 ID:jc4x6Q0U
のいぢ絵だから一応公式だよね。
これと分裂の挿絵以外で佐々木団員の公式絵ってある?
>>963の携帯待ち受けサイズ使ってるけどあれ以外に佐々木の携帯待ち受けって存在するのかね
驚愕の表紙が佐々木じゃないとかないよな
表紙が驚愕って事で、電器屋のおっちゃん
改めて見るとやっぱり可愛いなぁ
新スレ立ててくる
>>965 今パラパラっと確認しただけだが、ザスニの6月号も書き下ろしな気がする
>>961 しゅくしょうささきみたいに完結してないのは外した方が良いのかなー
あ、↑誤植、part29な
こっちは埋め
う め
┌―┐ ┌―┐
L__」、 ,L__」、
,'. / ト、 ヾ' u ヽヾ
. i. ((从ソ 从〉.ハハバハ>
. \ l. (|┳ ┳i!l.(! ─ ─|i /
\ハNiヘ ヮ ノハ!ハ、 〜 ノ’ /
. ソ"´⌒  ̄ `Y""  ̄ `ヾ゙
. | | !
丶 ノ、 丿
"⌒⌒⌒~ ~⌒"⌒⌒⌒´
>>972乙
>>973 は、はずされる……完結してないと外されるのか………(´・ω:;.:...
このスレ終わった頃に新スレに続き投下できそうだけど完結はまだ先なんだよね……
和んだw
殿堂入りって本来現役じゃ入れないのが社会の一般的解釈じゃ?
>>979かわいいwwでも、
風邪ひかんよーにな。
>>980 ぜひ頑張って完成させてくれたまえ
連レスだけど梅を兼ねるから大目にみておくれ
佐々木可愛いよ佐々木
梅
。|
| |。 |゚ y
゚| | |io i|
。| ゚i| 。i|,,ノ |i i゚
i|゚ ||゚ /ii 。 ゚|i_/i。l゚ノ i゜
`ヽoー|i;|y-ノ ヽVyソ
,;:i´i;ノ ヾii
. , -‐-.'、 うめ ,. ‐-ー- 、
. ,'. / ト、 ヽ ノ / ヽ
i. ((从ソu 从〉 ノハハハハハ !
iiil. (|> <i!l !|─ ─ ,iリ)! イマノ ジキ ムシロ
;;:iiiハNiヘ * ノハ! .’ 、 - ,ノル´ サクラ ノ ホウ ガ
iiiイ {iつ●O .O●と'!} イイカモナ…
. イ とくュュュュ〉 旦 旦〈_〈__i'つ
なんか周防もこっちくるっぽい
アニメキャラ板にいるのがそもそもおかしいからな
分裂しなくてよかったよ。ちょっと心配していた。
言っちゃあいけないんだろうけどさ
なんか寂しいな
いや、あれがなくなってさぁ
995なら今年中に驚愕が出る
ume
997 :
うめ:2008/02/05(火) 23:21:51 ID:ftWYCu/v
。 ン,彡ヽンミゝ 。
ミ/ . バ〈〈゙`"〉〉〉. ミ/
( '´ / ノ) .イj(厂 厂ル ( '´ / ノ)
. / 彡 Ni、 −,ノ / 彡
゚ と'j`:|:゙iつ ゚
. /¨`!¨ヾ.
〈__/ ヽ__>
, -‐- 、、. , -‐- 、
. 〃 u ;ヽヾ. ||| ||| ,'::;〃i::iヾヾ
ハミ((メノリ从)).lll lll .ハ {;;l;;l;;|;j;;i;}l
| i(| ┃ ┃ |!| /((::!┯ ┯l!|
| トリ、'' 〜'',∩. i::: ∩ヽ - ノ八
. レ゙⊂i´:i:iン 彡 !: l::::ヽリ:i:リ>i:::i
く/_!_j,> |:::|::::i:::く/_!_j,>:i:::|
〈_,ハ_,> ノ;;;l;;;;;i;;;(__i__);;;i;;;リ
998 :
この名無しがすごい!:2008/02/05(火) 23:23:00 ID:jc4x6Q0U
1000
1000なら佐々木かわいいよ佐々木
1001 :
1001:
このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。