「塩狩峠」読書感想文を書いて下さい    

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なぜって、僕は自分の命よりも大切なものなど、イメージできないからだ。
『悪霊』の中のキリーロフは、論理の積み上げによって自殺を覚悟するが、
思考の主体である自分の命よりも論理を尊重する姿勢は、論理性や合理性に盲目的に追従する滑稽さを感じる。
『塩狩峠』の鉄道員は論理によって死ぬわけではない。
では、彼が自己犠牲の行為に踏み切るその一瞬の決意はなんだったのか?
これがまた遺憾なことに「神への信仰」がそうさせたと言うのだ。
そしてそれ以上の説明は無い。
僕がこの小説を読み終えて最も残念に思ったのがこの点である。
「信仰」に絶対の価値を認めて死ぬという生き方もあるだろうし、
美談は美談だ。
しかし「信仰があれば死ぬのも怖くは無いさ」で、自己犠牲という大問題が
お気楽極楽に説明されることはとても受け入れられないし、そんなことはキリスト者の驕りでしかない。
この小説はキリスト教徒が「自己犠牲」の美談をネタに心安らぐだけの、
どうしようもないマイノリティ文学だ。