「塩狩峠」読書感想文を書いて下さい    

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11吾輩は名無しである
「塩狩峠」
この作品の中心となるテーマは「犠牲」だと思う。
鉄道員が、暴走列車を止めるために自らの体を車輪の下にもぐりこませた。
その鉄道員が婚約を決めているなどの感傷的な設定も含め、
言ってみればワイドショー的でご大層な美談を綴った作品である。
「人命尊重」の精神は多分、否定できない。
だから、これを前提とし、自分の命をもって乗客を救ったその行為は称揚されてしかるべきだとは思う。
しかし、自己犠牲とか殉職とかいう英雄行為は、まさしく「英雄行為」としてしか捉えることの出来ない、
無様なものだと僕は思う。
なぜって、自分の生命に勝る価値を自分で設定するということが、僕にとってリアルでないからだ。
論理のために死ぬ人間はバカだ。狂人の論理、キリーロフの論理だ。
言語操作が自己の生命を貶めるとすれば、それは論理の誤りであり、自家撞着でしかない。
そう思えばこそ、この小説でそうした心理的葛藤が十分に描ききられなかったのは遺憾である。
キリスト教精神で自己犠牲という美しい矛盾を描ききれると思うのは、キリスト者の驕りだと思うし、
また、生命に対するそういう態度は楽天的ですらある。
キリスト者だから死にました、ではご都合主義バカ小説でしかない。