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4吾輩
吾輩は毒虫である。名はザムザという。なんでこうなったのか頓と見当が
つかぬ。何かしら不安な夢を見ていた気がするが、夢とは動物の体をかくも
変化せしめる程のエネルギーを持っていたかしらん。
腹にうじゃうじゃついている足が気色悪いのだがそれを舐める舌もない。
あれほど好きな毛繕いももう出来ぬのだろうか。今の現実こそこれ悪夢で
ある。主人が吾輩を見れば何と言うだろうか、「ごろごろ虫みたいに
寝転がってるから、本当に虫になりおった」主人が吾輩の姿を見る時は吾輩
が家で休息しておる時か、珍しく躁鬱の気が消え落ちついて外界を見ることが
出来るようになった時である。したがって吾輩の外での勇猛果敢なる活躍や、
疳の虫が爆発した主人の目に止まらぬよう家を駈け回る敏捷な姿を主人は
目にしていないのである。いつもごろごろなどとは腹立たしい。最も
まだそう言うと決まったわけではないのだが。あの主人なら巨大な毒虫が
かつての愛猫だったと気付くことすら無理かもしれぬ。とにかく困った。