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12安吾
グレゴール・ザムザ氏は物に動じない傑物として近所には周知されている
人物であるのだが、その日の朝はいささか勝手が違った。まず氏は、下宿で
目覚めたとき自分と布団の間の具合がいささか妙な具合なのに気づいたのだ。
「ふむ、変だ。俺はなんだか転がるようだ」
それもそのはずで、彼の背中はころころとした固い甲殻に覆われていたのだ。
彼はその抜きんでた合理性を発揮して、さらに体の各部を子細に点検してみ
たのだが、その結果判明したところでは、腹はよく見ると節目が入って色も茶色
で、頭部もうまく回らないようになっている。
「ハハア、どうやらこの形は虫らしい。いやどう見ても虫だ。それも見たところ
毒虫と言っていい風情だ。うむ、これは困った具合になったぞ。」
氏が困ったと告白するなどというのは10年にいっぺんかそこらあるかないかの
挙と言っていいことである。