働くのが嫌で、高校を卒業してからアルバイトもしたことがない。自宅で毎日こつこつ小説を書いてきた。
その積み重ねが、文豪2人の名前を冠した文学賞のダブル受賞につながった。
「予想してなかったので驚いた。川端康成と三島由紀夫を読んでいなければ小説を書いていなかったので、
その2人の賞を頂けて非常にうれしい」。にこりともせず淡々と話す口調に、静かな喜びをにじませた。
三島賞に決まった「切れた鎖」は、地方の名家に生まれた女たちの悲哀を冷徹な文体で描いた表題作など、
3編を収めた小説集。そのうちの1編、カブトムシを主人公にした「蛹(さなぎ)」が川端賞の受賞作だ。
三島賞選考委員の平野啓一郎さんからは「“癒やし”のような(小説の)着地点を
イージーに設定していない」と評価された。その文学的スタンスは「小説は教訓を含んでいなくても
美しければいい」という三島らの影響が大きい。
20歳前、ノートに周りの風景を描写したのが最初の小説。以後、本を読み、文章を書き続けた。
ダブル受賞で注目を集めそうだが「一つ一つ書いていくことでプレッシャーをはねのける、
その繰り返しだと思う。とにかく書くしかない」と言い切る。
生まれ育った山口県で母親と2人暮らし。「(働かず)親不孝していた」という母に受賞決定を知らせると
「割と冷静に『良かったね』ということでした」。ほんの少し、照れくさそうに目を伏せた。35歳。